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ようやく更新。とりあえず、亀更新でも更新をしていきたいと思います。
猛烈な体のだるさを自覚しながら、ゆっくりと目を開けるとそこには――――――。
「ソフィア?」
私のものより幾分か色の濃い灰色の瞳が、潤んでいた。波打つ漆黒の髪に、抜けるように白い肌。大きな瞳から、涙が零れぬのが不思議だ。
「って、どうしたの?誰に泣かされた?ダグランさんに、セク・・」
「馬鹿が!!お前に決まってるだろうが!!」
「いたっ!!ちょっと、私けが人でしょ?暴力はんた・・・」
「うるさい!!この間抜けが!!」
けが人を殴るなんて、医者としてどうかと思う。
痛む頭をさすりながら、記憶を遡る。
大会で準優勝したら、何故かスペシャル試合が残ってて、そこで団長を狙った凄腕の暗殺者を・・・。
「ああっ!!賞金もらってない!!」
「お前の心配はそこか!!」
当たり前だ。それが目的で大会に出場したのだから。
「・・・ん?」
すっかり涙が引っ込んだのか、今度は怖い顔になったソフィアがつんつんと私の肩をつつく。
体のだるさを隠すように、いつもどおり勢いよく起きれば、一瞬心配そうな表情をしつつも、やっぱり怖い顔のソフィアが私の手をとる。手を返し、私の手のひらに自分の指で文字を書いていく。
『心配した』
「ごめん。ちょっと油断した」
『怪我した』
「かすり傷だよ」
『毒があるって』
「それは、ダグランさんがなんとかしてくれたから、もう大丈夫!!」
『・・・・・』
「いや、ホント。もう大丈夫だから」
『・・・・・』
「ホント、ごめんなさい。もう無茶はしません。ごめんって。もう怪我しないって。無茶もしないから」
『ヤマ・・・』
「ごめんなさい。すみません。それだけはやめて!!あの過保護親父に報告なんてしたら、あの暗殺者だけじゃなく、団長と少年まで殺される!!いや、大会を企画したやつが悪いとかいってこの国ごと滅ぼしかねないから!!」
「もうそのへんにしてやれ」
やれやれといった様子でダグランが割り込む。
「そもそも、あいつの説明不足が悪いんだよ。どうせ、『これは暗殺者が使う武器だから気をつけろ』ぐらいしか言わなかったんだろ?」
「まあ、そんな感じだったかな?」
「やっぱりな。あいつの中では暗殺者の武器に毒が塗ってあるのは常識なんだよ。だから説明しない。あいつのたちの悪いところはそういうとこだ。自分の常識が世界の常識だと思ってやがる。全く、あれでよくお前らを育てられたぜ」
大げさに息を吐くダグランに、ソフィアと顔を見合わせて笑う。
場の空気が和んだところで、ドアをノックする音が響いた。
「誰だ?」
ダグランの問いに答えた人物に、思わず顔を顰めてしまったのは、当然のことだと思いたい。
「レイ・グリンデルです。セシル少年の具合を伺いに参りました」
どうする?とダグランが視線で問う。
団長自らが見舞いに来たというのに、それを断ったとなるといろいろ面倒なことになる。仕方がないと軽く肩を竦めれば、了解したというように、ダグランが軽く頷く。
「どうぞお入りください。ちょうど彼も目を覚ましたところです」
「では、失礼します」
そう言って、静かに室内に足を踏み入れた団長は、やはり騎士と言うより文官のような風貌で、美貌が眩しく、笑顔が胡散臭かった。
「体の具合はどうですか?」
「もう随分と良くなりました。ご迷惑お掛けして申し訳ありません。」
「いえ、私の方こそご迷惑をお掛けして申し訳ない」
なら、今ここから早く立ち去ってくれないだろうか?愛想笑いで頬が痙攣しそうだ。
「おや、こちらの女性は?」
団長の言葉に、ソフィアがすっと一歩前に出る。
「私の妹でございます。名を、ソフィアと申します」
膝を折って礼をするソフィア。それに対し、貴族の姫君にするような仰々しい礼を返す団長。手の甲に口づけまでしそうになって、慌ててソフィアが手を引く。
「申し訳ありません。私も妹も、田舎の出ですので慣れておりませんで」
「いいえ、私こそ軽率でした。あまりにも美しい女性なので、つい。お許しください」
「やめてください。先に無礼な振る舞いをしたのはこちらなのですから」
正直に言おう。こいつ、めんどくさい。
団長から身を引いたソフィアが、不安そうに私の肩に手を添えたので、そっと自分の手を重ねる。心配ない、と伝わるようにきゅっと握りしめる。
「で、何の用件なんだ?王国騎士団団長、レイ・グリンデル殿」
うわべだけの薄いやりとりにうんざりしたように、ダグランが直球をぶつける。仮にも、騎士団のトップにそんな口をきいていいのかと、こちらが不安になるほど直球勝負だ。
そんなダグランの言葉にも、気分を害した風もなく、団長が爆弾を投下してくれた。
「ふふふっ。用件は一つです。彼に、我が騎士団への入団していただきたく参りました」
だから、私の目的は賞金だって言ってるだろ!!
なんだか、会話とか説明ばかりの話になってしまった・・・。反省。