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主人公は、本気を出せば強い・・・・予定。


 そして始まった団長対上位3人の試合は、ほぼ優勝者対団長のものになっていた。


 おかしい・・・。


 肌を刺すような威圧感は、たんなる気迫なんてもんじゃない。明らかに相手に対して殺意を持っているものだ。


「・・・・・っ!!」


 そんな時だった、うっかり団長の背後に回りかけた瞬間、何かが飛んできて腕をかすめた。飛んできた方を見ても、観客が騒いでいるだけで何も見えない。


 ちっ、そういう事ですか。


 自分に当たったことで、軌道が変わったのか、団長には届いていないようだった。優勝者と入れ替わるように打ち込んでいった少年。鍔迫り合いをしている二人めがけて、また何かが飛んできた。


「団長、覚悟!!」

「!!」


 少年のせいで動けない団長めがけて棍を振り下ろす。紙一重で避けたすれすれのところを棍が通り、何かを叩き落とすことに成功。


「セシルさん!!卑怯ですよ!!」

「黙れ!!現実を見ろ。君なら分かるだろ!!」


 少年のまっすぐさが、今は煩わしいものでしかない。


 どうやら飛んできたのは細い針のようなものらしい。もっとも、手のひらサイズの針を、裁縫に使うとは思えないので、おそらく暗殺者御用達の武器だろう。


 なおも攻める優勝者、もとい共犯者。あの気迫は、絶対に優勝して、スペシャル試合で彼と戦い、彼を殺すことを依頼されたから。騎士に匹敵する強さを持つ意味も、これで納得できる。


 でも、そうは問屋が卸さない。


「たあああああ!!」


 声を上げて攻めれば、団長は紙一重で避けてくれる。そのギリギリのところで、針を落としていく。


 少年もさすがに何かおかしいと思ったのか、周囲を見回し始めた。遅いっての!!


 1本、2本、3本、いい加減にしろって!!


 そろそろ私に妨害されていることに気づいたのだろう、共犯者が恐ろしい形相でこちらを睨んできた。いわく、邪魔するならお前も消す、と。


 誰かの利益のために、他者の命を犠牲にするなど、あってはいけない――――――。


 彼の死で、きっと多くの人たちが悲しみに沈む。家族が、友人が、恋人が、仲間が、悲しみを癒やすのにどれだけの時間を要し、癒える事のない人だっている。


 それを、私は痛いほど良く知っているから―――――。


 けれど、さすが騎士団のトップ。3人がかりで攻めているのに、一筋も当たらない。それどころか、ほとんど剣で受け止めることもしない。暗殺者も中々よく見ていて、その数少ないせり合いの時を狙って針を飛ばしてくる。


 ちっ、さすがに連戦は疲れるか。


 重くなってきた体に、疲労を感じ始めた。これでは埒があかない。


 暗殺者を、潰す・・・・。


 針さえなければ、あとは団長が勝手に共犯者を潰してくれるだろう。なんとなくだが、彼は何かを待っているような気がするのだ。


 針が飛んでくるのは3方向から。王の見学席のある真下からと、左右から。王の席は一番高いところにあるから、真下は盲点だろう。他の騎士が気づきやすいのは、左右の観客席。とくれば、目指すは一点だ。


 棍を二つに分かち、体を沈める。


 一瞬で、決める。


「セシルさん!!」


 少年の声を背に、地を蹴る。


 自分めがけて迫る私に気づいたのか、数本飛んできた針を叩き落とす。鬼気迫る私の様子にパニックになった観客が逃げようと腰を浮かせる。


 見つけた―――――。


 その中に混じる一人の男。観客に紛れるその容姿、服装、一瞬で消えた殺意、どれをとってもかなりの腕の暗殺者だと分かる。けれど、決して観客にはあり得ないものが一つ。


「お前のだろう?これ?」

「!!」


 一本だけ掴んでおいた針を投げれば、危なげなく受け取る男。その顔は、驚愕に満ちていた。


「・・・・・何故、分かった」

「足音、全然しなかったから」


 おそらく癖なんだろう。足音をさせずに歩くことが。でもそれは、一般人ではあり得ない。


「一番始めに立ち上がり、逃げ出すよう群衆を煽ったのはいい考えだけど。その動作が、逆にお前がこの針の持ち主だと教えてくれたよ」

「・・・ふっ、殺すにはおしい人材だな」

「ふふふっ。それは、お互い様」


 既に観客席は混乱の渦。逃げ惑う群衆の中、対峙する。


 そして―――――――――。


「馬鹿が!!格好つけるのもいい加減にしろ!!」

「なっ!!」

「ダグランさん!!」


 暗殺者の男めがけて振り下ろされた拳。信じられないとでもいうような表情のまま、気を失う男。それには目もくれず、ダグランが睨むのは私。えっ、なんで。


「馬鹿が!!暗殺者の毒針は常識だ!!」


 さっきから体が重いのは、疲れじゃなくて・・・。


「あっ・・・」


 しまった、と思った時は既に遅いものだ。揺らいだ視界と、体から抜ける力に、まるで一瞬時の流れが遅くなったように感じる。


「たくっ。あいつの過保護がうつっちまった」


 乱暴な言葉とは裏腹に、優しい腕が体に巻き付き、私は意識を失った―――――――。

ダグランさんは、戦って治せるお医者さんです。その理由は、明らかにされる・・・かも?

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