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そろそろストックが・・・・。
大会2日目。
なんだかんだで順調に勝ち抜き、この試合に勝てば次は決戦。2位は確実のものになる。
ここで勝って次負けよう。
3位を狙っていたのだが、正直めんどくさくなった。ここで負ければ、次は必ず勝たなければいけない。背水の陣より、確実な陣の方が好みだ。それに、今日はソフィアも見に来ている。ここは姉として格好の良いところを見せなければ!!
と、意気揚々と会場に来てみれば、相手は意外にもあのきらきら眩しい瞳の持ち主。
「アルバート・ディラン。セシル・キリエ」
「はい」
「・・・・はい」
名前も貴族みたいだが、使う武器も剣とあっては貴族のボンボンにしか見えない。が、ここまで勝ち残っているのだから、運だけではないだろう。ふむ、厄介だ。
線の細い体と、騎士の持つような長剣。おそらく彼はスピード重視型。力で押すタイプではない。
そうなると非常に厄介だ。なにせ、自分もスピード重視型だから。より速く攻撃を繰り出した方の勝ちは目に見えている。
「構え!!」
すっと自分の前で剣を構える彼。対して、二本の棍をつなぎ、一本の長い棍を構える私自分。
先手必勝。一瞬で終わらせる・・・。
一つ、息を吸う。瞳を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。
「始め!!」
合図とともに地を蹴る。
「!!」
まばたきする一瞬で詰めた間合い。左上方から振り下ろした棍を、受け止めようと彼の剣が動く。
剣に受け止められる前に棍を引き、体を回転。その勢いを利用し、さらに体のバネで加速を増しながら今度は右下方から振り上げる。
―――――――龍の牙が、相手ののどに食らいつく。
会場が、一気に静まりかえった。
「・・・・・まいりました」
「・・・・!!勝者、セシル・キリエ」
その沈黙を破ったのは、彼の悔しそうな声。今にも歯ぎしりが聞こえそうな声で吐き出された降参の言葉。我に返った審判の声により、試合は終了した。
お互い武器を納め、一歩引く。
あ、危なかった。
冷や汗が、今になって背を伝う。
まさか、最初の一撃に反応するとは・・・・。
本当は初めの一手で決めるつもりだったのだ。それに反応し、剣を構えた彼の神経は素晴らしい。騎士になり、鍛錬を積み重ね、青年となった彼が相手だったら、勝てる気がしない。
お互いに礼をしあう。下げた視界の中に、きつく握りしめられた拳を見たら、たまらず口を開いてしまった。
「まさか、最初の一手を止められるとは思わなかったよ」
「!!」
「久々にいい試合が出来た。礼を言わせてくれないか?」
「こちらこそ。あなたの強さに完敗です。・・・また、手合わせしていただきたいです」
強く、揺るぎない決意。その眼差しに、思わず口元が緩む。
「ふふふっ。わ・・・僕でよければいつでも相手をしするよ」
「ありがとう。それまで、俺は誰にも負けません。だから、あなたも負けないでください」
訂正。そう言って笑う彼の顔は、貴族のボンボンではなく、武人そのものだ。
純粋に武の高みを目指す姿勢は、眩しくもあり、羨ましくもある。正直、自分にはまねできない。
晴れやかな気持ちで彼と手を握り、別れる。そこで、はっと気づく。
――――――って、もしかして、優勝しなきゃダメなの?
控え室に戻る道すがら、ようやく当初の目的から外れざるを得ない状況に思い当たり、呆然としてしまったのは、彼の知らぬ事であった。
ようやくキラキラ少年の名前が登場。遅いよね・・・。