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主要人物が中々全員出ない(汗)
試合が始まって早々、思った通り相手の武器に巻いてあった布が外れた。予想通り過ぎて逆に笑える。
「へっ、俺の相手になるたぁ運がねぇな」
下卑た笑いに、ちょっと怯えた表情、を作ってやる。
と、ますます調子に乗ったのか、男は笑みを深くした。そして、審判の注意も聞かずこちらに突っ込んできて――――――――
「なっ!!」
「・・・・悪いね」
おそらくすっぱり切れると思ったのだろう、金属同士のぶつかりあう、独特の甲高い音とともに受け止められた斧。
「これ、銀じゃなくて鋼の細工なんです。こういうふうに、受け止められるように」
にっこり。
相手も馬鹿じゃない。いや、そのくらいの強さはある。呆然としたのは一瞬で、すぐに下がって距離を持つ。
「ちっ」
が、今度はこっちが攻める番だ。相手が下がるのに合わせてこちらも前に出る。
何度かの打ち合いのあと、大きく振りかぶった懐めがけて―――――
「もらったぁぁぁぁぁ」
「!!」
棍や槍のように、リーチの長い武器はどうしても懐にスキが出来る。腐っても騎士を目指す男。それを見逃すはずはない。
男の手斧が迫る。布のない斧では、怪我は避けられない。
観客が、息を呑んだ。その先に見る、血に濡れた少年の姿を想像して、顔を伏せるものもいた。
「・・・・なんてね」
「!!」
軽く手首をひねり、結合部をゆるめる。簡単に2本に別れた棍の、一本で男の手首を叩き、もう一本は男の首に。
一瞬のできごとだった―――――――――。
へたりこむ男の首筋に棍を突きつけた私。その足下には、男の武器が転がっていた。
大会のルールでは、相手に降参を宣言させるか、戦闘不能にすれば勝ちである。ただし、殺すことは厳禁だ。
静寂――――――。
観客も、審判でさえも、目の前の状況に頭がついていかない。
血が出そうなくらい唇を噛みしめている男に、向けるのはただ冷静な眼差し。
「降参、ですよね?」
「・・・・こんなガキに!!」
「ええ、ガキです。それが何か?」
棍の先端、龍の牙が男の首に刺さる。
はっ、と我に返った審判が、慌てて間に入る。
「勝者、セシル・キリエ」
「待ちやがれ、俺はまだ!!」
「やめなさい。誰が見ても、君の完敗ですよ」
「!!団長」
審判の判定に、抗議する男。突きつけられた棍のせいで動けないのに、口だけは達者で呆れる。いっそ昏倒させようかと思った時に、まさかの騎士団長登場。観客も含め、その場にいた全員が固まった。あ、私を除いて。
「相手の力量を計れなかった時点で、君の負けは決まっていました。それに、彼はわざとスキを見せたんです。それに乗り、なおかつ反撃を予測できなかった。君の完敗です。潔く負けを認めなさい。君は負けたんです」
こいつ、わざとだ。
何度も繰り返される『負け』の言葉。絶対にわざと繰り返している。
見た目優男の美青年のくせに、お腹は真っ黒らしい。美形だけに余計残念だ。
「君はすばらしい腕を持っているね。それに、珍しい武器を使っている。よければ君に武を教えた師の名前を聞かせてもらえないだろうか?」
いつのまにか、男の負けは決定事項になっていた。うなだれた男には目もくれず、腹黒騎士団長はこちらに向かっていた。
「いえ、そんなことはありません。師は、田舎のしがない武闘家です。団長様のお耳に入れるような者では・・・」
「騎士を目指す者を育てた者です。興味を持つのはいけないでしょうか?」
めんどくさい、こいつ。
いつのまにか目の前にいて、こちらを見下ろす(頭ひとつぶんくらいは高い)美貌に見つめられれば、頬が赤く、染まることもなく、顔を顰めないようにするのに必死だ。美形は遠くから見つめるのが楽しいのであって、近くで見れば眩しい以外のなにものでもない。
正直に言えば、めんどくさくなったのだ。どうせ賞金をもらってはいさよなら。今後関わりをもつことなどないのだ。師の名前の一つや二つ、言ったところでどうということはない。
「師の名は、ヤマト・キリエと申します」
「ヤマト・キリエですか。では君の・・・」
「養い親でもあります」
超がつくほど過保護な。
「そうですか。ああ、随分時間をとってしまいました。君も疲れたでしょう。次の試合まで休んでください。君には是非、騎士になってもらいたいですから」
あなたのせいで疲れたんですよ。
「もったいないお言葉、ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精進いたします」
げんなりしながら礼をし、会場をさる団長を見送る――――――。
「このケリは、必ずつける!!」
ケリはもうついてるんですけど?
去り際の男の言葉を、鼻で笑い、ようやく第1試合が終わったのだった――――――。
鋼は、見た目銀っぽいけどめちゃめちゃ堅いという設定。なんとなく、銀では鉄の剣を受け止められなさそうという、作者の偏見によるものです・・・。あまり気にしないでください。お願いします・・・。