月はグルグル回り続けている
最終回です
ささやかなおまけがあとがきにあります
暇な方はどうぞ
人物表
ソラ
旅人 魔法使い? これでも主人公です
奈々
旅人 剣士? これでもヒロインらしいです
とことこと二人で山道を歩いていると、突然奈々が倒れた。
「奈々ー?なーなー?」
慌てて抱きとめて何度か呼びかけてみるも、返事が無い、どうやら意識が無いようだ。うーむ…山道で疲れたかなー?
「ああ、そっか…」
前回からの日と空を見上げて合点がいった。
「今日は…新月だっけ」
□ □ □ □
ソラは私の幼馴染で、天才だった。
私とソラの両親は魔術師。つまり私たちはいわゆる魔術師の家庭。
何だかわからないが親同士の仲が異常とも言えるほどよく、結果というか幼馴染同士の私たちはいつも顔をあわせていた。
ソラは私の2個下で、つまり私のほうが2年ばかり先輩だった。でも、ソラはそんな2年の差なんかじゃ追いつけないほどの天才だった。
私がどんなにがんばっても出来なかったことを、ソラはいともあっさりと成し遂げていた。その様子が私にはとてもまぶしくて、でも置いていかれるのは嫌で隠れて努力をしたりもした。
しばらくの間、ソラに負けたくなくて努力を続けていたのだけれど、悲しいことに私は凡人、ソラに勝てるはずも無い。両親が優しかったこともあり、私は魔術の勉強もそれほど熱心にはしなくなっていた。
ある日、私がふてくされていたら、ソラに旅に行こうと誘われた。世界にはいろいろなものがあるとか何とか…そのときのソラの顔は歳相応でまぶしくて、そのとき…私はただソラが好きで、それでも置いていかれるのが嫌で努力をしていたんだっけ…と昔の気持ちを自覚してしまった。そう、自覚してしまったのだ。
今思えば、一緒に旅をしようという目的を持ったときが一番楽しかった。もうその時点で普通の魔術ではソラに置いていかれていたので、私は誰も選ばないような魔術ばかりを選んで勉強した。
ただひとえにソラに追いつくためだけに…追い越さなくてもいい、せめて一緒に並べるように…。
ソラはよく飴玉をくれた。何でもがんばっているご褒美らしい。その飴を貰うたびに私は、子ども扱いするなってよく怒った。
そのときはただ信じていた。いつか大好きなソラといろんなところを旅して一緒に笑える。そんな未来を。
帰ってきたら一緒に飲もう。そう言ったソラが帰ってきたとき、体はもう冷たくなっていた。それが信じられなくて…私は犬のお面を抱えて何度もソラの名前を呼んだ。
ソラがもう返事をしないということを自覚したとき、私の中で何かが壊れた。
たぶんそれが、長い長い物語の始まり。
数日後、誰も居なくなった家から私は旅立った。
ソラが言っていた世界を見て回るために。
今思えばそのときから私は既に私でなくなったんだろうか?
私にはわかんないよ…教えてよ…ソラ。
私は…どうすれば君のところに行けるのかな?
□ □ □ □
廃墟となっているドーム内には明かりが漏れており昼のように明るい。
そのドームの中心には一人の女性と一人の少女が居た。
少女は背中ほどの長さの黒髪と雪のように白い肌の上に白いワンピースで、少女は地面に横たわって静かに眠っている。
女性のほうは赤いコートの下に紺色の和服を着ている。腰ほどまである長い銀色の髪はポニーテールに結んでおり、狐のお面を両手で抱き抱えるようにして座っている。彼女が座ると長い髪が地面についているのだが、彼女本人は目を閉じていて特に気にしている様子は無い。
時折、彼女はポケットから飴を取り出して口に含もうとするが、何かに気づいたかのようにするとその動作を止めている。
「…久しぶりに魔法から解けた気分はどう?お姫様」
瞳を閉じていると、奈々が目を覚ました気配がしたので瞳を開ける。
「…最悪ね」
「そう、それは何より」
彼女が起きたということは、いつまでもこうして座っているのは危ない。私は立ち上がると手に持っているお面を頭へと乗せる。
「あなたはまだ私を恨んでる?」
後はいつもやっている確認。別にしなくてもいいけれど、彼女にも戦う前の心構えは要るでしょう。
「当然、お前は私の家族を殺した」
「家族だけじゃないけどねー」
「…」
私を睨む奈々に向かってクスクスと笑う。…ホント、いい目ね。
「ほら、それじゃ来なさい。どれだけ強くなったか、試してあげる」
私が強化符を発動させながら挑発をすると、奈々は一瞬で距離を詰めてきた。そしてそのまま何処からか取り出した大剣を振るう。とにかく、彼女を追い詰めて性能を出させないと…。
私は後ろにステップをして大剣をかわしてから着地と同時に銃を抜いて彼女を撃つ。
自身に向かって放たれる弾を左右に軸をずらしたりその手の大剣を使う事で避けながら私との距離を縮めてくる奈々。
私は近づいて来た大剣の軌道を銃で上へと強引にずらすと、そのまま回転をかけて威力を強めながら彼女の体を蹴り飛ばした。
倒れて居る彼女へと追撃をしようと銃を構えるが、どうやら今の防御で壊れたらしくトリガーを引いても弾は出なかった。
弾の出ない銃など何の役にも立たないのでさっさと捨てて片手を上に上げる。
「我が名の下に命ずる」
彼女が完全に起き上がって近づいてくる前に素早く呪文を唱えると、振り下ろす。
奈々が起き上がって移動するのと、光の槍が天井を突き破って彼女の居た場所に降り注いだのはほぼ同時に見えた。いや、避けられたから奈々の方が少し早かったみたいね。
そのまま流れるような動きで光の槍を避け続ける奈々。当然、私も見ているだけではなく彼女へと素早く近づくといくつか打撃を入れてはすぐに離れる。
いつまでそうしていただろうか、やがて彼女は私の手を掴むと投げ飛ばし、大剣を使いながら槍を弾いて追撃をしてくる。
私は彼女の攻撃を何とか避けようとしたが、なぜか体が上手く動かない。見れば私の体に糸のようなものが絡み付いていた。
奈々は大剣を振り下ろして私の結界を壊すと、何とか横へと避けた私を裏拳で殴り飛ばした。当然、体が動かないので威力を殺すことも出来ずにその攻撃を貰う私。
「ごほっ…」
咳き込んで倒れた私に奈々はゆっくりと近づいてくる。彼女が1歩近づくごとに、照明となっていた魔法が力尽きて消えていく。今のは効いた…これはもうしばらくは動けそうに無いわねぇ…。
「これで、終わりね」
もうお互いの顔もよく見えないほどの暗さの中、奈々は最後まで近づくと大剣を振り上げた。もう私は抵抗をやめて瞳を閉じたまま最後の瞬間を待つ。
私の頭の上でガンッという音がした。
閉じた瞳を開くと、奈々の大剣は私の頭ではなく、私の頭の少し上の方に振り下ろされている。
「…どうしたの?」
俯いている奈々へと聞く。私が憎いんでしょう?あなたから全てを奪った私が。
「…だよぅ…」
彼女が何かを呟くと、突然私に絡まっていた糸が解けた。もしかして…泣いてるの?
沈黙の中でカランカラン、と奈々の持っている大剣が落ちる音がする。
「お別れなんて…やだよぅ…」
「…」
「私はソラずっと一緒に居たいよぅ…これでお別れなんて…やだよぅ」
涙を流しながら一人呟く奈々。
「…奈々」
「ソラ…!」
あまり動かない体で何とか立ち上がると、彼女は泣きながら抱きついてきた。
「…もういいのよ、奈々」
もういい。
「ソラ…」
私は片手で泣いている奈々の背中を優しくさすると。
彼女の体に、ナイフを突き刺した。
「ソ…ラ…?」
信じられないと言った顔で崩れ落ちる奈々。
彼女の白いワンピースから段々と赤い血が広がっていく。
「おやすみなさい、奈々」
崩れていく奈々を最後まで見ずに体を引きずって外へと出る。
もうどうでもいい、私を殺せないなら、奈々にも、この世界にも、もう用はない。
またいつものように適当に見て回って適当に死のう。そうすればどうせまた、彼が死んだあの日に戻るのだから。
『あなた、生きてないのに旅してるみたいね』
『人でなくなり、他の何にもなれなかったものは…簡単に死ぬことすらもできなくなる』
体を引きずるようにして暗い夜道を歩いていると、昔、誰かから言われたことと、誰かへと言った言葉が聞こえてきた気がした。
ふと、思い出してゆっくりとポケットを探る。最後の1個の飴玉、食べずに残していたのだけれど今食べよう。
「あっ…」
そのまま震える手で包み紙をはがしてから口元へと運ぼうとしたら、気を抜いたせいで飴を落としてしまった。
慌てて地面に落ちた飴を探す。アレが最後の一個だったのに…それにしても暗い…なんでこんなに…
「ああ、そっか…」
そう思って空を見上ると、今日が暗い理由がわかった。
「今日は…新月だっけ…」
飴は、まだ見つからない。
おまけ
ででーん!おまけは消されてしまった
最後までお付き合いいただきありがとうございます
以下海月の裏話などが流れます
どうでもいいよ!って方は戻ってください
いいのね?
本当にいいのね?
はい、残っている人は読む人と考えました
長いから覚悟しろよ!
以下友人から来たわかりにくかった点を作者が答えるよ!
どうでもいい人はスクロールスクロール!
Q.「新月の関係は?あと何で奈々が変貌したの?」
A.「満月で魔力が強まるなら新月で弱まるんじゃない!?って言う考えで新月になりました。
ちなみに普段の奈々は魅了の魔術が掛かってる状態だと思ってください
新月だと解けるだけです
ちなみに記憶はちゃんとあるのでラストにああなりました」
Q.「ソラは何で楽しく旅してたの?」
A.「色々なことを教えるなら楽しく旅をしたほうが効率がいいからです
好きな人に教えて貰うのと嫌いな人に教えて貰うのとじゃかなり違うと思いませんか?
教える理由としては奈々は素質があるだけなので色々教えてかないと…ということでどうか
ちなみにソラは奈々を嫌ってませんからそれも楽しく旅する理由に含まれてます」
Q.「何で一緒に生きるって言う選択肢があったの?」
A.「奈々は新月の度に戻ってバトルしてます。そのときに殺せるならそれでよし、殺せないならまた一緒に旅して強くするということです
ちなみにソラを殺しても奈々は死にません。ああ言ったのは自分を殺せば楽になれるって思わせたかっただけです
ソラは奈々を嫌ってません。死にたかっただけですから」
デデーン!
完結に伴い裏話削除