事実は小説より喜なり
おとぎ話の絵本がありました。
昔むかし、グリーンランドという国に、一人の美しいお姫様がいました。
ある日、恐ろしい魔王が現れ、お姫様をさらっていくと、
国じゅうに魔物たちがあふれ出しました。
王様は、皆におふれを出しました。
『姫を助け、魔王を倒した者に、姫とこの国を与えよう。』
世界中の冒険者が、魔王の城に立ち向かいました。
しかし、魔王を倒すことはおろか、
姫を助け出すこともできませんでした。
そんなとき、白銀の鎧を着た、伝説の勇者が天空から現れ、
たくさんの仲間たちと共に、魔王に立ち向かいました。
戦いは七日七晩続き、仲間たちもひとりまた一人と
倒れていきました。
勇者は、魔王との最後の一騎打ちで、
見事魔王を倒し、お姫様を助け出すことができました。
世界に平和がおとづれ、無事に仲間たちとお城へ帰ると、
勇者は姫と結婚し、何時までもしあわせにくらしました。
おしまい
というのが世の中に知れ渡った有名なお話。
でもね。
この話にはもう一つ、別のお話がありまして。。。
それでは、再現VTRスタァーーーート!!
見事魔王を倒し、姫を救った伝説の勇者さまは
仲間たちと共に、無事お城にもどることができました。
その夜。お城では勝利と無事な帰還を祝って大宴会です。
宴会は、夜遅くまで続きましたが
明日はいよいよ、お姫様との結婚式。
主役の二人は明日のためにと、自分の部屋に戻って早めに休むことにしました。
実は、この日を本当に楽しみにしていた勇者さまは
一世一代の大切な日に、寝坊をしてはいけないと
枕元に、冒険中に仲間の魔法使いにもらった目覚まし時計をかけて眠りました。
何度も時間をチェックして、セットするとこれで安心。
朝まで一度も目覚めることなく、ぐっすりと眠りについたのでした。
チッチッチッチ。。。。部屋には目覚まし時計の針の音だけが響きます。
(時計の裏側)
商品名「マジックアラーム」
今年一番のおすすめ商品は、どんなに深い眠りについているモンスターや、
眠りの森のお寝坊さんなお姫様も、たちどころに目を覚ますという
画期的なマジックアイテムです。
冒険中に、ついうっかり眠らされてしまったぁーー!っという
冒険者さんも、これさえあればもう安心!
たちどころに目をさまし、勝利することまちがいなし!、
冒険の際には是非どうぞ。
*使用上の注意
冒険中以外の、普段用目覚まし時計として使用するのは
おやめ下さい。
効果が強すぎて、永遠の眠りについてしまうかもしれません。
なお、このアイテムによっての事故等のクレームに関しましては
当店は責任を負いかねますのであしからず。
マジョラム魔法商店
幸せな生活を約束された、朝がきました。
小鳥たちの声で目を覚ましたお姫様は
窓から差し込む朝の光を浴びて、にっこりと微笑んでいました。
その時、勇者さまの部屋からけたたましい目覚ましの音と
勇者様の叫び声が聞こえてきました。
哀れ勇者は愛する姫と結婚することなく、目覚まし時計の音による
「心臓発作」で、ほんとに永遠の眠りについてしまったとさ。
嘘のようなほんとのお話。
アーメン (ちゃんちゃん)
****数百年後****
倒された筈の魔王が、再び復活し地上を滅ぼそうとやってきました。
魔王は王様にこんな予告状を送りました。
『愚かな人間ども。
明日、夜中の0時に姫を迎えに行く。
無駄な抵抗だが、楽しみに待っているといい。
ハーッハッハッハッハッハ!!!!!
BY:魔王様』
王様には、お姫様と王子様二人の子供がおりました。
王様は、直ちにお触れを出し、
名のある強者や、冒険者達を呼び集めました。
この物語の主人公もその一人。
数日前に、冒険者ギルドのアルバイトで、
たまたま冒険者になった新米さんです。
ある意味、超強者?かもしれません。
もうじき予告時間の0時の鐘がなろうとする頃。
緊張のあまり、トイレに行きたくなった新米さんは
一人広間を抜け出してトイレを探しに行きました。
時計塔の鐘がなり、広間の灯りが消えてあたりが暗くなると
広間を突風が吹き抜け、お姫様の悲鳴が聞こえました。
『一番照明OK? 二番照明もOK? ヨシ本番スタート!』
すると、広間の2階の窓に姫を抱えた魔王が現れました。
その姿を、なぜかスポットライトが照らしています。
予告状にあったような、アホっぽい高笑いが聞こえてきました。
「ハーーーッハッハッハッハッハ!!!!
愚かな人間どもめ!
わざわざこの美しい魔王様にやられにくるとは、
なんと哀れな生き物だろう!
約束通り、この美しい姫はもらっていく!
死ぬ前に、この私の美しさを、存分に目に焼き付けるがいい!!!
ハーーーッハッハッハッハッハ!!!!」
そういうと、ひときわ大きな風が吹き、
次の瞬間、魔王と姫の姿は消えてしまいました。
あたりが明るくなると、兵士たちの驚きの声が上がりました。
その場にいた、強者や冒険者達が一人残らず石になっていたのです。
「姫がぁ。姫がぁ。。。。」
王様が、がっくりと膝をつくと王様の傍にいた王女様がかけよって、、、って。。。え?
「ひ、、、姫?!」
王様の後ろには、美しいドレスを着たお姫様が、
うつむいたまま、肩を震わせて立っていました。
「えっえっ???」
王様も家来たちも何が何だかわかりません。
タイミングがいいんだか、悪いんだか
トイレから戻った新米さん。
広間の光景を見てびっくりです。
「どうしたんですかぁ。これ。
みなさん石になっちゃって・・・。
あ、でもお姫様はお守りできたんですねぇ。
いやぁwよかったよかったww」
ニコニコ笑う新米さんを、ぼぉっと見つめる王様たち。
「姫はここに。。。。では、さらわれたのは一体、誰なんじゃ。」
「フィリップよ。。。。。」
その途端、姫の背後からどす黒いオーラが沸き上がり、
地獄の底から響くような声がしました。
「あのゲロキモナルシスト魔王がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
こっちは滅多に着ないドレスまで着て
おしゃれして待っててやったのに、
私じゃなくて、鎧姿の弟を連れていくたぁどういうことだぁぁぁぁぁ!!!!」
魔神か、悪魔か、世界の破滅か、怒り狂う姫の恐ろしさに
王様はじめ周りのものは、魔王登場の時以上に
ふるえあがりました。
この国の王子とお姫様、ちょっと変わっていて、
お姫様のようにうつくしく、おしとやかな王子様と
物凄く強くて怖くて男らしい、お姫様がいたんです。
予告状が届いた時、意外と乙女チック思考なお姫様が、
嫌がる王子様に無理やり鎧を着せ
自分はフリルたっぷりのドレスを着ると
いかにも、か弱いお姫様という感じで
半ば強引に、さらわわれようと待っていたのでした。
コッソリ『ア~レ~。』というセリフまで練習していたのは秘密ですが。
乙女心を踏みにじられたお姫様。
その怒りは半端なものではありません。
「あのクソ魔王。。。殺~~~~~~ス!!!」
我を忘れて、暴れまくります。
このままでは石になった冒険者たちだけでなく、
お城まで壊されそうな勢いです。
「だ、、誰か、姫をとめてくれぇ~~~。そうじゃ!そこのお主!」
指さす方向には、新米さんが。
「えっ。オレ??」
「そうじゃ!お主じゃ。おぬしも冒険者の端くれだろう。ひ、姫をとめてくれ!!
止めてくれたら、褒美をやろう!!」
可哀相な新米さん。無理矢理お姫様の前に放り出されてしまいました。
王様たちは、柱の陰で、どこから出したのか、小さい旗をパタパタ振って
隠れています。
まるで暴れるモンスターと、怯えるうさぎさんのようです。
新米さんは、仕方なく勇気を振り絞って姫様に話しかけました。
「あのぉ。。お姫様? そんなに怒ると、綺麗なドレスが台無しですよ?」
姫の動きがピタッと止まった。
「さらわれなくってよかったじゃないですかぁ。
もしさらわれてから、間違えたぁ☆彡とか言われちゃったら、目もあてられませんよぉw」
新米さん、ものすごく一言多いです。
「貴様、、、、、あのガチホモ魔王の手先かぁぁぁぁぁ!!!!」
火に油、お姫様に新米さん。
パワーアップした姫は、折れた石柱を軽々と抱えあげると
新米さんに向かって、思いっきり放り投げます。
誰もが、もうダメだぁと思った瞬間。
新米さんは光に包まれ、白銀の鎧を着て飛んできた石柱を
粉々に砕いてしまいました。
何だか滅茶苦茶カッコイイです!
その様子に、鬼のように激怒していた姫も気が抜けたようになり
皆が新米さんに注目しています。
光が消え、元の新米さんに戻ると
王様がつぶやきました。
「勇者じゃ。。。伝説の勇者が現れた。。。
お主こそ、伝説の勇者の再来じゃぁ!」
一斉に歓声が湧き起こり、なんとか一件落着?したのでした。
その夜、新米さんは「勇者の部屋」というところに、無理やり泊まることになりました。
ずいぶん使っていないようで、多少誇りっぽかったのですが、
疲れていたので直ぐにウトウトし始めました。
「おぃ。。。。オイ、起きろ。。。」
誰かの話し声が聞こえます。
「起きろって。。。。。起きんかコラァ!!!!」
いきなり何かが頭に落ちてきて、新米さん、痛さで目を覚ましました。
「やーっと起きたか、このタコめ」
何が起こったのかわからないまま、痛さで頭を抱えている新米さんの目の前に、
オレンジ色の。。。まあるい物体が、フヨフヨと浮いていました。
(タコぽぃのにタコって言われてしまった・・・・・)
いや、ショック受けるところが違いますよ、新米さん。
「さっきの騒ぎのとき、もう少しでペッチャンコだった所を、オレが助けてやっただろう?」
まあるい物体は、そういうと、細長い触覚?のようなものを
新米さんの頭にくっつけ、その時の様子を再現VTRのように見せてくれました。
(石柱がぶつかる瞬間、オレンジ色の光が、体に入ってきて、よろい姿に変身して、、、、
うわ、体のなかに入ってきたの?気色ぃ)ゴンッ
突然どこからか新米さんの上にタライが落ちてきました。
「助けてやったのに、なーにが気色悪いだ。この恩知らずが。」
オレンジ色の物体が、怒って赤くなりました。
「いや、ごめんよ。助けてくれたんだよね。ありがとう。
(てかこの状況で取り乱さない俺ってすげぇ)」
「ゴホン。わかればいい。たまたまお前とは波長があったみたいでな。
憑依して、あの姿のなったってことは、どうやらお前には、
多少勇者気質があるらしい。どうだ。お前勇者になってみるきはないか。」
勇者にスカウトされている新米さん。
「・・・・・・・・・ヤダ。」
あっさり断ってしまいました。
「なぜ、どうして、Why???有名になるチャーンスだぞ?」
焦るまるい物体。断わられるとはおもってなかったようで。
「別に、ご飯が食べれるだけ稼げればいいし、面倒だし・・・。
有名にもなりたくないしぃ。」
「おぃおぃ。欲がないなぁ勇者になって、魔王を倒せば姫と結婚してこの国の王に
なれるんだぞう?嬉しくないのか?」
「・・・・・・・・・・・絶対ヤダ。」
(エェェェェェェェッ)
丸い物体さん、困っています。青くなったり赤くなったり。
「だって。。。お姫様って、さっきのあのひとだろう?」
二人?の記憶に、あの恐ろしい光景が浮かび上がります。
「あんなお姫様と結婚なんかしちゃったら、一生尻に敷かれて、
ビクビクしながら暮らさなきゃいけないよぉ。
大金持ちになったとしても、そんな生活はいやだよぉ。」
確かに。
「それにさ、魔王を倒すなんて、俺にできっこないだろう。
この間「アルバイトニュース」見て、なった冒険者だぜ?」
「そのことな~~~ら、心配するな。この伝説の勇者のオレが、
みっちり鍛えてサポートしてやる。
アフターケアも、バッチリだ。
って、なんでまた寝るんだぁ!」
新米さんは、もそもそとベットに戻ろうとしています。
「冗談は、その姿だけにしといてよねぇ。」
「じょうだんなどではなぁ~~~~い!
俺は本当に伝説の勇者だったんだ!
嘘だと思うなら、これをみろ!
再現VTRスタァーーーート!」
最初に見たVTRが流されています。
あ、一度おみせしたので、ここカットで。(オィオィ)
「目覚まし時計でショック死。。。。。。意外とどんくさいな。」「ほっとけぇ!!!」
「とにかく、やっと出会えたこのチャンス!お前が勇者となって
魔王を倒し、姫と結婚してくれないと、俺、この先ず~~~~っと
成仏出来ないまま、さまよっちゃったりしちゃうんだよぉ。
元勇者助け、幽霊助けと思って協力してくれ~~~」
「だからぁ、あの姫様と結婚とか、いやだってばぁ。」
「付き合ってみたら、意外といい子かもしれないじゃないか!」
「つきあうも何も、相手の気持ちとかもあるだろうし。」
「そんなの、既成事実つくっちまえばこっちのもんだ」
「なんだよその既成事実って!ありえないからちょっと。」
「協力してくれなきゃ、末代まで祟るぞぉ~~~~」
「勇者のくせにおどしかよ!てか、ほんとにユーレイだったんだなぁ」
「さっきからそういってるだろうが」
「とにかく、嫌なものはいやだ~~~~」
「そんなこといわずに~~~」
という話が、結局朝まで続き。。。。
寝不足で、目の下にクマができたままの新米さん。
朝早くから、王様に呼び出されました。
「昨日はご苦労であった、勇者殿。」
「いや、オレ勇者じゃないっすから。。。」
「またまたまた。そんな謙遜を。伝説の勇者の装備、
『白銀の鎧』を身に着けて、あの大きな石柱を破壊された力。
あれこそ、まさに勇者の証し。誠に見事であった。」
「・・・・・。(いやいやいや、あの石柱投げてきた、あんたの娘のほうがすごいって)」
「そこでだ。。。ゴホン。
折り入って勇者殿に、おねがいがあるのだ。」
「(そら来た)お断りします。」
すかさずキッパリ断る新米さん。流石です。
「まだわしは、なにもいっとらんのだが・・・・、」
「勇者なんだから、魔王を倒しに行けっていうんでしょう。」
「そ、、その通りじゃが。。。。」
「オレ、勇者じゃないんですってば。たまたまあのときは、
伝説の勇者の霊って言うのに、取り憑かれてただけで、、」
「お。。お願いじゃぁ!!勇者殿。さらわれたフィリップは、
王子にしておくのはもったいないほど美しい子で、
目の中に入れても痛くないほど可愛い子なんじゃぁ~~。
魔王を倒せとまではいわん。せめてフィリップだけでも無事に助け出して来てくれぇ~~~~」
「そんなこといわれても・・・(なにこの王様、きもいよ)」
目をウルウル潤ませて頼む王様に、ドン引きです。
「フィリップを助けるだけだなんて、何甘っちょろいこと言ってるの、お父様!」
広間のドアを蹴破って現れたのは、屈強な冒険者スタイルをした、
たぶん、昨日のお姫様。。。。です。
背中に背負ってるのは、特注のジャイアントアックスみたいですねぇ。
「!!(げぇぇぇ!でたぁ)」
王様と新米さんの心の声が聞こえたような。
「あんなド変態ガチホモナルシスト魔王は、細胞のひと欠片さえ
残さないように、駆除するのが一番なのよ。」
背中の斧を振り上げ、床に下ろすと、メリメリメリッとものすごい音を立ててめり込みます。
「この私が、直接行って、退治してきてあげるから、
安心して頂戴。」
(あわわわわわわわ)
「王様、よかったですねぇ。姫が行ってくれるみたいですよ。それでは俺はこれで~~~」
あ、新米さん、この隙に逃げようとしています。
急に、目の前に斧が飛んで来て。ドォーーーンッ
あ~あ。新米さん、腰をぬかしてしまいました。
「どこへ行く?? お前も来るんだ。」
「い。。いやぁ。。。俺、新米だし、、LV1だし、、足手まといにしかならないですって。。。
(し、、死ぬ。。。殺される。。。)」
「昨日のあの一撃、たいしたものだった。
お前には、何かしら戦闘センスのようなものがあるのだろう。
鍛えがいがありそうだ。
それと、昨日ので、お前のLVは2に上がってるぞ。私のおかげだな。
役に立たなくとも、荷物持ち位はできるだろう。」
(ひぃぃぃぃ)
ここぞとばかりに、王様が後押しします。
「そ、、そうじゃな、勇者殿がご一緒してくださったら、安心だ。
年頃の姫を一人でいかせるなど、とてもできぬ。
(姫を一人で行かせたら、フィリップを助ける前に、魔王の城ごと
吹っ飛ばしかねんわい)」
王様、悪どいです。
(大丈夫だから、この人一人でぶっ飛ばしてこれるって!
一緒に行く俺の方が、、、俺の身が危険だ!!!)
「それにだ、無事に戻ってきた暁には、勇者どのの、望みのものを差し上げよう。
例えば。。。。。姫と結婚、とか」
「お父様!!!!!」
「はいぃぃっ!!」
「娘を褒美の品にしようとは、どういうおつもりですか!!!」
お姫様、殺気が出てますよ。
「そ、、そうですよ、王様。。。はは。。。(絶対売れ残り防止策にしようとしてる~~~~)」
「じゃ、、じゃがな姫、おとぎ話にもあるじゃろう、勇者殿と、姫は、
最後に結ばれてハッピーエンドっと言う話が。」
今にも噛みつきそうな様子の姫が、ぴたっととまった。
「おとぎ話のお姫様と、勇者様、、ハッピーエンド。。。いいかも。」
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!よくない!ちっとも良くないです!!!)
新米さん、ご愁傷様です。
「そうと決まれば、さっさといくよ! お父様~。必ずや、あの野郎をぶったおして
既成事実作ってかえってきますわ!たのしみにしててくださいね~~~~ww」
(い~~~~や~~~だぁ~~~~~~~)
姫に襟首を掴まれたまま引きづられるように、旅立っていく新米くんでした。
白いハンカチを振りながら見送る王様。
「勇者殿~~~。必ずフィリップを助けて帰ってきてくださいね~~~(´;ω;`)」
どんどん小さくなっていく二人を追うように、オレンジボールも飛んでいくのでありました。
次回に続く。