ミドルエイジクライシス
掲載日:2026/10/16
四十代を折り返した秋、新宿の居酒屋で、吉村は高校の同級生と久しぶりに会った。
山崎は大手証券会社で、身をすっかりすり減らしていた。かくいう吉村も大学で教えてはいたが、論文は査読をちっとも通らず、肩書きだけが立派だった。
二人は酒を飲みながら、長くはない将来の話をした。
「ビルを何棟か持ってさ、一日中将棋でも指してたいよ」
山崎が言った。
「俺は小説を書こうと思う。小説なら誰にも査読されないからな」
「ないものねだりだな」
「ああ、ないものねだりだ」
二人は笑って、ぬるくなったビールを飲み干した。半分は本気で、半分は冗談だと、おたがいわかっていた。
それきりだった。
*
十年後。
山崎はとうに会社を辞め、秋葉原と恵比寿に、ビルを三棟ずつ持っていた。昼は盤の前に座り、駒の音だけを聞いて暮らしていた。
吉村は、大学を辞めてはいなかった。
相変わらず論文を書きながら、夜になると青い紅葉というペンネームで小説を書いていた。
おたがい、連絡はしなかった。




