噂の公園
八郎は神戸に住む大学生だ。生まれも育ちも神戸で、神戸の事はよく知っている。そして、1995年1月17日の早朝に起きた、阪神・淡路大震災の事もだ。毎年1月17日の早朝は『1.17のつどい』があり、阪神・淡路大震災の後に生まれた八郎も来ている。この日は特別な日だからだ。これに参加するたびに、今、こうして問題なく生きているのを素晴らしいと思わなければと思えてくる。
八郎はここ最近、ある噂を聞いていた。この近くの公園の事だ。この近くの公園で、物音がするのだ。どうしてなのかはわからない。みんなはお化けがいるんじゃないか、幽霊がいるんじゃないかと思っている。そう思って、誰も近寄ろうとしない。もし近寄ったら、あの世に連れていかれるかもしれないと思っているようだ。
八郎は気晴らしに、夜の道を歩いていた。この辺りにはその公園がある。八郎はその噂を聞いていた。そして、行ってみようと思っていた。怖いけれど、その理由を確かめたいな。
「確か、ここだったな」
八郎はその公園の辺りにやって来た。公園は静かにたたずんでいる。昼間は子供たちの元気な声が聞こえていただろう。だけど、深夜はそれが嘘のような雰囲気だ。また朝になると、子供たちの元気な声が聞こえるだろう。
「どうだろう」
八郎はドキドキしていた。本当にいるんだろうか? そんなの妄想だろうと思っていた。大学の友達は、みんな信じていない。お化けや幽霊なんて、この世にはいないだろうと思っている。
「本当にいるんだろうか?」
八郎は公園に入った。この公園は阪神・淡路大震災の前からあって、起きた時には避難所のように使われていたという。そして、直後にはボランティアが来て、炊き出しを振る舞っていたという。
と、八郎はあるものを見つけた。それは、何人かの男の子だ。よく見ると、頭に三角頭巾を付けている。それを見て、彼らはお化けだろうと八郎は確信した。
「いる!」
その声に反応して、彼らは反応した。誰かが来るとは。誰も怖がって、ここに来てくれなかった。来てくれて、嬉しいな。
「どうしたの?」
八郎はほっとした。どうやら、悪い事をしない、よい幽霊のようだ。どうやら、その幽霊たちは何かで遊んでいるようだ。よく見ると、バットやグローブがある。野球をしているようだ。彼らの中には、『BlueWave』と書かれたシャツを着ている。どうやらプロ野球チームのようだ。背番号は『51』だ。どこか、子供の頃に見たオリックス・バファローズのユニフォームに似ている気がする。オリックス・バファローズの前身だろうか?
「えっ!? どうしてここで野球をしてるの?」
「好きだから」
どうやら、彼らは野球が好きでここで遊んでいるようだ。
「そうなのか。でも、どうしてこんな姿になったの?」
「阪神・淡路大震災で亡くなっちゃった」
そうなのか。彼らは阪神・淡路大震災で亡くなった子供たちなんだ。彼らは野球が好きで、ここでよく遊んでいるんだな。
「そうだったんだ・・・」
と、彼らは気になった。この人は阪神・淡路大震災を知っているんだろうか? とても大きな出来事だが。
「お兄ちゃん、知らないの?」
「知ってるよ。僕、その後に生まれたんだけど、よく聞いたんだよ」
やはり知っているようだ。あまりにも有名だからな。
「そうだったんだ」
「あれから、オリックスは変わったんだね。低迷があったり、合併があったりで」
彼らは知っている。僕たちが野球に興味を持った頃、大好きだったのは、地元のプロ野球チーム、オリックス・ブルーウエーブだった。特に好きだったのは、1994年に大ブレークした天才バッター、イチローだった。この年、史上初の1シーズン200本のヒットを放ち、最終的に210本に記録を伸ばし、日本中を驚かせた。これからオリックス・ブルーウエーブは強くなっていくだろうと思われていた。だがその矢先に阪神・淡路大震災が起こった。多くの人が悲しみ、下を向いた。だが、チームはそれを機に結束した。『がんばろうKOBE』のワッペンはその象徴だ。この年はリーグ優勝、翌年は2連覇しただけでなく、日本一になった。
だが、それ以後、オリックスは四半世紀も優勝から遠ざかる事になった。時代は移り変わり、オリックス・ブルーウエーブは低迷し、2004年には大阪が本拠地の近鉄バファローズとの合併を発端とする球界再編が起こった。合併は避けられず、大阪を本拠地とするオリックス・バファローズが誕生した。そして、神戸で試合をする日は少なくなった。彼らはそれを寂しく思っていた。
でも、2021年の日本シリーズの第6戦は興奮したな。その時のメンバーだった中島聡が監督としてグリーンスタジアム神戸改めほっともっとフィールド神戸にやって来たのだから。あの時のように、日本一になったら感動的だったのに。結局、日本一になれず、日本一を目の前に見せられる羽目になった。だけど翌年は日本一になった。低迷する事が多かったものの、徐々に強くなってきて、本当に嬉しいよ。でも、ブルーウエーブのままがよかったな。
「そうだね」
ふと、彼らは思っていた。この先、プロ野球はどうなっていくんだろう。そして、どんな名選手が生まれるんだろうか?
「この先、プロ野球って、どうなるんだろう」
「わからないよ」
だけど、彼らは思っている。いつまでも、子供たちの夢であってほしい。そして、目標であってほしい。子供たちは夢を持つことで成長していくのだから。だからこそ、合併や消滅など、子供たちの夢を奪うような事はやめてほしい。そう願うだけだ。彼らは見えないけれど、球界再編の様子を見てきた。その時は、胸が張り裂けそうな気持になった。
「でも、いつまでも、みんなの夢であってほしいよ」
「僕もそう思ってるよ」
少し眠たくなってきた。今日はもう寝よう。明日も大学がある。しっかりと寝て、明日に備えないと。
「今夜はありがとう」
「どういたしまして。また遊びに来るね」
八郎は立ち上がった。彼らは残念そうな表情だ。また会いたいな。
「おやすみ」
「おやすみ」
八郎は公園を後にした。公園の周辺を歩きながら、八郎は思っていた。この辺りは、阪神・淡路大震災が起きた時、どんな光景だったんだろう。見ていられない光景だったんだろうな。そして、どれぐらいの人々が亡くなり、悲しんだんだろう。阪神・淡路大震災の前は、どんな光景が広がっていたんだろう。もし、あの頃に戻れるなら、その光景を見てみたいな。だけど、それはできない。神戸はこれからも変わり続ける。だけど、阪神・淡路大震災の記憶、そして鎮魂への想いはこれからも受け継がれていくだろう。




