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いや、あなたが「こんなに泣いているんだから、彼女が嘘をついているはずがない!」とか言って、証拠もなしに全部信じたせいじゃないですか

作者: 6969
掲載日:2026/04/20




 祖国が滅亡の危機であるという手紙が届いたのは、私が婚約破棄されてから一つ季節が過ぎ去った頃だった。



「今更よね~」

 私が断罪されたとき、率先して協力してくれた帝国の皇女(学友)が溜め息混じりにぼやく。

 そう言いつつ、口元は笑っている。

 手紙の内容を心から楽しんでいるのだろう。

 率直に言えば、彼女は性格が悪いのである。

 それもかなり。


「・・・・・・今更といいますか、どうして私にといいますか」

 そんな皇女に肩をすくめてみせる。

「そうそう、それよ。どの面下げて、ってやつよね」

「・・・・・・そこまでは言ってませんよ、私」



 だが、確かに今更なのである。

 あの国が──祖国が滅びそうになっているなんて、今更だ。

 私が祖国から去る前から、その兆候はあった。

 いや、私が婚約者である王子殿下に浮気され始めた頃から【その種】はあったのだろう。



 ──貴族の模範となるべき王子殿下の白昼堂々、年頃の娘と二人きりになる。

 しかも、相手は貴族の令嬢でもない。

 ただの平民の娘だ。

 貴族の学園に、平民の特待生として招かれた娘。

 貴族の規則が分からない平民の少女は、とことんやってくれた。

 そう、とことんだ。



 貴族の令嬢であれば、令息と二人で出かけたりはしない。

 婚前に貞操を疑われることになるからだ。

 そうなれば社交界で生きていけなくなる。

 だが、平民の彼女は、そんな貞操を疑われるようなことをやってのけたのである。

 それも王子殿下一人ではなく、多数の令息相手に、だ。


 私もそれとなく注意したのだが「あたしたちは【お友達】なので、二人で出かけることに、なんにも問題はないはずです! 男だから、女だからで態度を変えるのっていけないと思います! そんな意味がわからないルールとか持ち出して、あたしをいじめないでください!」と涙目で睨まれる結果となった。

 令息たちからの「平民だからって差別するなー」という野次付きである。

 そこから、私はすっかりと悪役にされてしまった。

 少なくとも、彼女たちの中の私は凶悪な悪役そのものだったようだ。

 平民の彼女と婚約者が二人で出かけるのを咎める令嬢たちには「そんなにあの悪役令嬢みたいなことを言うなよ! それとも、君もあの公爵令嬢みたいな平民差別者なのか」なんて言わていた。



 そうやって、味を占めた令息たちは他の令嬢相手にも【二人だけの外出】に誘い出したり、騙し討ちで二人きりになろうとするものまで現れた。

 婚約している者同士だからいいだろう、なんて肯定する男性貴族まで現れたほどだ。

 ついに外国でも「あの国の女性は、婚前に男性と二人きりになるらしい」と奇異の目で見られたり、そういう目で見られる被害者まででてきた。

 酷い醜聞であり、国として恥ずべきことである。



 更に悪いことに、このとき、王子殿下には婚約者がいた──それこそが、何を隠そう、祖国の公爵令嬢だった、この私である。

 つまり、王子殿下は平民と恋をしたのではなく、貴族の婚約者がいながら、平民と浮気をしたというわけだ。

 公爵令嬢どころか、公爵家相手への侮辱である。

 そして、王家はそれを責めることのなく、知らないふりをした。

 そのときの王家が、王子殿下がすぐに平民の娘に飽きると思ったのか、それとも公爵家と公爵令嬢を舐めていたのかはわからない。



 当然、王族を模範とする祖国の貴族たちも乱れた。

 王族を見習い、貴族が平民の娘を囲うのが流行ったのである。

 あるものは囲った人数を競い、あるものは娘の美貌を競った。

 そうなると、婦人と令嬢たちは面白いわけもない。

 女性貴族からの王家への支持は過去最低となった。



 そんな最中、更なる爆弾が王子殿下から落とされた。



「お前のように我が国民である平民を差別し、特待生をいじめるような女とは婚約破棄だ!!」

 と、公衆の面前──よりにもよって卒業パーティーで言い放ったわけである。

 さすがに意味が分からなかったので「いじめとは? もちろん、証拠はあるんですよね?」と聞いてみたのだが、全く要領を得ない。

 とにかくお前が悪い、悪いんだ、認めろ、認めろと喚く始末。

 ついには特待生が泣きだし、王子殿下は「こんなに泣いているんだから、彼女が嘘をついているはずがない! お前が彼女をいじめたんだろう! 今だって証拠をだせなんて言って、僕をいじめやがって! お前には人の心がないのか!!」なんて言い出した。

 それに令息たちの下品な野次と、令嬢たちの金切り声が飛び交い、卒業パーティーはめちゃくちゃになった。

 あれはきっと、学園史上初の大騒動だったはずだ。

 そして、その騒動は学園では収まらなかった。

 騒動は国中に波及し、女性貴族たちからの王家批判の声は日に日に大きくなっていく。

 それに賛同する男性貴族や娘や妻を奪われた平民たちが、勢いを増して徒党を組みだしていき──ついに、王家が重い腰を上げた。



「この騒動は全て王子の婚約者が引き起こしたものであり、王家への反乱だ。国民たちは皆、王家を乗っ取ろうと企む公爵令嬢に騙されている。王子の婚約は直ちに解消され、この騒動の責任者である公爵令嬢は国外追放、公爵家はその責任をとり財産の半分を王家へ納めることとする」

 これが王家の答えだった。



 結果、ついに堪忍袋の尾がキレた父は公爵領の独立を宣言。

 祖国からの激しい反発と武力による威嚇があったが、学園で親交のあった帝国の皇女の支援を得て、我が領土は公国となった。



「婚約し直してやってもいい。お前は生意気な女だが、我慢して嫁に貰ってやるから感謝しろ~ってことが、かなりの上から目線で書いてありますねぇ」

 皇女が朗らかに笑い、獲物をいたぶる猫のような笑みを浮かべた。

「はぁ、さようですか」



 暖かな日差し。

 涼しい風。

 そして、目線の先には、ついに私宛の手紙をじっくり読み始めた皇女。

 私の一族が代々守ろうとしていた祖国はもうすぐ滅ぶ。

 だが、皮肉なことに、我が公国(私たち)はかつてないほどに穏やかだった。



「あの女はその場で叱られないための嘘ばかりついて、それがバレたら泣くだけで、何の役にも立たないんだ~、ですって。あなたに助けを求めて、逆ギレして、助けを求めての繰り返しだわ。

 ねぇ、この手紙の写しを頂戴よ。わたくし、落ち込んだときはこの手紙を読めばいつだって笑顔になれると思うわ!」

 皇女がそう言って、ころころと笑う。

 私は大きな溜め息を吐いて口を開いた。




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