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危機管理を覚えなさい

作者: 命野糸水
掲載日:2026/02/04

12月といえば街中がイルミネーションで包まれる月だと思う。プレゼントをねだる子供達、それに応えるサンタ。トナカイも活躍する、そんな季節である。


また12月は新年に向けての準備を行う季節でもある。大人はディスカウントストアや百均などでポチ袋を調達して、その中にお金などを入れる。


ここでお金などと書いたのは、ポチ袋に入れて渡すお年玉が近年は現金とは限らないからである。現金以外に商品券やクオカード、図書カードなどを入れる人もいる。


いや、もしかしたらもうポチ袋にお金を入れて渡すという文化は古くなってしまったのかもしれない。


今や支払い方法はキャッシュレスが流行っている。お年玉もキャッシュレスで払う傾向に世の中が変わっていても不思議ではない。


そんな12月の中でも今日は26日。サンタクロースやトナカイが仕事を終えた次の日。そんな日に俺は目の前に座っている男と話をしていた。


ここは薄汚れた灰色っぽい壁に囲まれた狭い部屋。椅子が二つと机が一つ置かれているこの部屋で今行われているのは取調である。


そう、俺は日本で唯一拳銃の所持が認められている職業の警察官。目の前に座っているのは事件を起こして自ら出頭してきた容疑者である。


「では取調を始める。名前は佐藤昴、職業はフリーター。これで間違いないな」


俺は目の前に座っている男に確認した。


「あぁ、間違っていない。本来ならそのフリーターという部分は別のものに変わっている予定だったけどな。まぁあくまで予定であって現段階で変わっていないのだからしょうがない。佐藤昴、職業はフリーターだ」


佐藤昴、この容疑者はずいぶんと回りくどい言い方をする奴らしい。


「佐藤、あんたには昨日の12月25日、三本木にある憩い広場に飾られているクリスマスツリーの飾りに小型爆弾を仕込み爆発させた容疑がかけられている。間違いないな」


「あぁそれも間違いない。ただな、俺は出頭した時にもそう言ったはずだ。俺が憩い広場のクリスマスツリーの飾りに小型爆弾を仕掛けて爆発させたと。


爆発して混乱している人々たちを存分に眺めて楽しんだから出頭したと。あんたは言ったことを覚えられない奴なのか」


いや、佐藤は確かに出頭した時にそう言っていた。ただ警察内のルールとして確認しなければならないのだ。


「佐藤、あんたの証言はしっかり覚えている。でもな、一応確認しろと上から言われているんだ。だからそう言わないでくれ。違う質問をするが爆弾は誰が作ったんだ。他にはあるのか。まずはそれを確認したい」


他に爆弾があるのなら一刻も早く爆誕処理班に連絡し、周囲にいる人を避難させなければならない。これ以上佐藤の思い通りにはさせない。


「爆弾は俺が全て作った。安心しろ、仕掛けたのは三本木の憩い広場に飾られているクリスマスツリーの飾りだけだ。他に爆弾はないから爆弾処理班を向かわせる必要はないし周辺の人を避難させる必要もない」


佐藤、お前はなぜ俺が心の中で思っていた心配事を知っているんだ。お前はエスパーか。いや、それは違うだろう。こいつはエスパーではない。爆弾作成者であり容疑者だ。


「爆弾の作り方はどこで習った。誰に教えられた」


「爆弾の作成方法は昔工学部にいた時に、そこにいた同級生に習った」


なるほど、佐藤は工学部に在学中に爆弾の作成方法を知ったのか。なら今回もその同級生に聞いて作成した可能性があるな。


「その同級生の名前は何だ。今どこにいる」


「名前は確か田中だったと思う。下の名前は忘れた。今そいつがどこにいるのかは知らん。俺は工学部を卒業したが、田中は確か途中で工学部を辞めた。そこからあいつがどこで何をしているのかも知らんし会ってもいない。


連絡先も残念ながら知らん。よってあんたたち警察側に渡せられる情報はない。嘘をついていると思うのなら工学部側に確認すればいい。田中が辞めたことについては確認できるだろう」


爆弾の作り方は同級生の田中に教えてもらった。佐藤はそう言っているが果たして本当なのだろうか。まぁそれはいいか。後で工学部側に確認すればいい話だ。


確認すれば田中という人物がいたことも佐藤がそこに在籍して後に卒業したことも分かるだろう。それよりも佐藤には他にも聞かなければならないことがある。


「なぜあんなことをした。目的はなんだ。なぜあの場所だったんだ。答えろ佐藤」


「おいおい、警察よ。そんなにいっぺんに聞くなよ。安心しろ。俺はちゃんと丁寧に一つずつ答えてやるから。そう焦るな。それよりもボールペンと紙を用意してくれないか。動機などを説明する時に使いたい」


ボールペンを取調の際に容疑者に渡す。これは禁止行為となっている。理由は以前取調中にボールペンを渡した容疑者がそのボールペンで警察を刺すという出来事があったためである。


また容疑者が自らの体にボールペンを刺し自殺しようとしたということもあった。

そのようなことが起こってからボールペンを渡すのは禁止になっている。


「すまないがそれはできない。ボールペンを渡すことは禁止になっているからな」


「おいおい、もしかして俺がボールペンをもらったことであんたたちに抵抗するんじゃないかなんて思っているのか。馬鹿にするな。そこら辺の底辺な奴らと違って俺は抵抗なんてしない。


警察から逃げたかったのなら今頃逃げてる。わざわざ爆発したクリスマスツリーを眺めた後に出頭なんかしていない。なぁそう思うだろ」


それは佐藤の言う通りだ。佐藤は自ら出頭した。警察から逃げたいと思っていないだろう。しかし自らを傷つける可能性がある。その点からやはり佐藤にはボールペンを渡せない。


「佐藤、あんたがボールペンで俺を脅して逃げたりしないことは俺も分かっている。分かっているのだがボールペンは渡さない。ルールなんだ許してくれ。


それにあんたにボールペンを渡したことで、あんたが自らの手にボールペンを刺して自殺を図る可能性だってある。だから渡さない」


「おいおい、今度は自殺かよ。どうやらあんたは俺が警察から逃げたい奴だと考えているらしいな。ふざけるな」


佐藤は机を大きく叩いて立ち上がった。


「俺はあんたら警察から逃げたりしない。そこら辺の逃亡犯と一緒にするな」


「佐藤、すまない。ルールなんだ」


俺は謝ることしか出来なかった。と同時になぜ俺は犯罪者に頭を下げなければならないのかと腹もたった。それは俺自身がルールに縛られているせいだ。


ならルールを破ればいいのだが、破れば首が飛ぶか僻地に異動になる。ルールは絶対だ。


「ちっ」


佐藤は舌打ちをしながら座った。


「佐藤、紙とボールペン無しで動機を言ってくれ。なぜあんたはあんなことをしたんだ」


「しょうがねぇーな。無しで言ってやるよ」


佐藤はボールペンと紙を使えないことに渋々納得したらしい。動機を話し始めた。


「まず俺がなぜ爆弾という手段を選んだのか。それはだな、爆弾の作成方法は多くの人が知らない。それを俺は知っている。爆弾の作成方法、それは俺の数少ない知識だ。


その知識を活かして大勢のやつを混乱に巻き込むことが出来る、爆弾が俺にとって手段として打ってつけだったってわけだ」


そんな無駄な知識、使わずに済めばあんなことにはなっていないのに。佐藤は道を外してしまった。


「ただ俺は死者を出したくなかった。殺人犯にはなりたくなかった。そのため爆弾は小型爆弾にした。火薬を調整して威力を弱めた。実際に怪我人は複数人出たかもしれないが死者は出ていないだろ」


佐藤の言う通り怪我人は複数出たが死者は出ていない。


「佐藤、お前のいう通り死者は出ていない」


「そうだろ。俺の火薬調整がうまくいったってことだ。次になぜ俺があの場所のあそこに爆弾を仕掛けたのかについて教えてやる。こんなに素直に取調に応じる奴は珍しいだろうからな。しゃんと目に焼き付けておけ」


何を偉そうにしているのだろうかこいつは。爆弾で大勢を怪我させたんだぞお前は。そんなに誇らしげに語るな。


「俺は爆弾による攻撃をすることはすでに決めていた。その後設置場所について考えた。最終的に三本木を含めた3ヶ所まで絞った。残りの候補は上谷交差点付近と都庁近くだ。


ただロケハンした時に他の二つは辞めた。ことを起こして後に眺めづらいと思ったからだ。


三本木の憩い広場にあるクリスマスツリーの飾りの近くには商業施設がある。そこからはクリスマスツリーを眺められた。だから爆弾設置場所はそこにした」


佐藤は計画的に今回の犯行に及んだ。ロケハンをし、爆発後の混乱状態を見ることができる場所を把握した。次は動機と日時について聞く必要がある。


「動機はなんだ。なぜ昨日にした」


話を聞く限り俺はクリスマスに関係があるのだろうと思っていた。よくカップルを見るとイライラするという奴がいるが、佐藤もその1人かもしれない。


「クリスマスは幸せで浮かれている奴が多い。そういう奴らには危機感を与えなければならない。そのために俺はクリスマスツリーの飾りに爆弾を仕込み爆発させた。危機感を教え込むために何」


「カップルを見るとイライラするということか」


「いや、それは少し違うな」


佐藤は否定した。どうやら佐藤はそのタイプではないらしい。


「カップルに限らずに危機感がない奴らを見るとイラッとする。そういう奴らには危機感を与えないといけない。あんたも教習所に通っていた時に言われていただろう。かもしれない運転を心がけろと」


なぜ今佐藤の口から教習所の話が出たのかは分からない。分からないが、かもしれない運転に関しては分かる。


子供が飛び出してくるかもしれない、自転車が飛び出してくるかもしれない。目の前で何かが起こるかもしれない。そのかもしれないと思いながら運転しなさいと。確かに教習所で何度も言われていた言葉だ。


「そのかもしれないを与えたのさ。いつ何があるか分からないんだぞと。それを教えるための爆弾だ」


危機感を与えるために行動した。佐藤はまるで自分がヒーローであるかのように語っているがそれは間違っている。危機感を与えることが目的なら別のやり方もあったはずだ。


「もういい。分かった。佐藤、あんたの目的は危機管理を覚えさせるためにクリスマスツリーの飾りにこ 小型爆弾を仕掛けて爆破させた。そうだろう」


「そうだ。理解が早くて助かる」


これで必要なことは聞き取れたはずだ。取締も終わりだ。


「これで取締を終える」


佐藤に取締終了を告げると俺は取調室を出た。


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