第9話 ウィスタ
敵の本拠地――
分厚い鉄扉の前で、リボルは一度だけ深く息を吸った。
(……ここが終点だ)
静寂。
次の瞬間――
「はいドーン。こんにちは、クソ野郎共。そして――さよならだ」
ガンッ!
扉を蹴り破ると同時に、銃声が炸裂する。
「お前は……あの時の――」
言葉は最後まで発せられなかった。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ。
ほぼ同時。
六発すべてが、正確無比に頭部へ命中。
血と脳漿が壁に叩きつけられ、男たちは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「……昨日、どこかで見た顔だった気もするな」
リボルは淡々と呟く。
「まぁいいか。覚える価値もない」
次の瞬間――
廊下の奥から、どっと足音が響いた。
武装した敵が、二十人近く。
「侵入者だ!!」 「囲め!!」
銃口が一斉に向けられる。
だが、リボルは動じない。
「……やれやれ」
背中に手を回し、取り出したのは――
スピードシュター。
弾倉を確認し、乾いた笑みを浮かべる。
「まだまだ弾薬はある」
銃を構え、低く言い放つ。
「もっとかかってこい、アオガニ共」
ドンッ!!
先制射撃。
敵の一人の胸が弾け飛ぶ。
返す刃で二発、三発。
走りながら撃つ。
止まらない。迷わない。
敵の弾丸が壁を穿ち、火花が散る。
リボルは滑り込むように柱の影へ入り、リロード。
「遅い」
再び飛び出し、連射。
頭。喉。膝。
倒れた敵を踏み越えながら、確実に数を削っていく。
「くそっ、なんだこいつ……!」 「近づくな――」
パンッ。
言葉ごと、撃ち抜く。
敵が距離を詰めようとした瞬間、
リボルは床を蹴り、横回転。
着地と同時に二人を撃ち、
振り向きざまにもう一人の頭を吹き飛ばす。
硝煙。
血の匂い。
耳鳴り。
(冷静でいろ)
心臓は早鐘を打っている。
だが、思考は異様なほど澄んでいた。
(恐れるな。撃て。数を数えるな)
最後の数人が後退を始める。
「逃げるなよ」
リボルは歩きながら、
一人ずつ、確実に仕留めていった。
やがて――
廊下に残ったのは、
倒れ伏す二十の影と、立ち尽くす一人の男だけ。
リボルは銃口を下げ、息を吐く。
「……ウォーミングアップには、ちょうどいい」
その視線は、さらに奥――
本当の地獄が待つ場所を、まっすぐに捉えていた。
(待ってろ、クソ野郎共)
そして、無言で前へ進んだ。
◆◆◆
敵本拠地・スイートルーム
高層ビル最上階。
厚い防音ガラスの向こうでは、夜の都市が宝石のように瞬いていた。
「……外がやけに騒がしいな」
重厚なソファに身を沈めた男――リチョーは、グラスの酒を傾けながら不機嫌そうに呟いた。
片腕には女が絡みつき、甘い香水と酒精の匂いが室内に漂っている。
「一体、何事かね」
控えめに一歩下がった秘書が、震えを押し殺した声で答える。
「侵入者のようです。
人数は……一名。すでに基地内部まで到達しています」
「一人?」
リチョーは鼻で笑った。
「それと……実験体のグールが一部、外に流出した模様です。
どうなさいますか」
グラスを置き、指を組む。
「決まっているだろう。すべて都市へ放り出せ」
一瞬の沈黙。
「……誠に遺憾ですが」
秘書の声が、わずかに揺れた。
「その命令は、お受けできません」
「……ほう?」
リチョーの視線が、刃のように鋭くなる。
「理由を聞こうか」
「都市には……私の妻と子供がいます。
その要求を飲むことは、私には――」
「じゃ君いならいよ今日で君クビね」
ザンッ。
一閃。
首が宙を舞い、次の瞬間、床と壁を血が赤く染め上げる。
倒れ伏した死体を一瞥し、リチョーは肩をすくめた。
「ああ、言い忘れていたよ」
冷たい声。
「君の妻と子供――もうグールになっている」
床に転がる首を見下ろし、薄く笑う。
「……いや、聞いてるわけないか。死んでるんだし」
その傍らに立つ巨躯の男――ウィスタは、頭を掻きながらも無表情のままだった。
「ウィスタ。私をここから逃がせ」
返事はない。
「……チッ」
苛立ちを隠さず舌打ちする。
「ならせめて、門番でもしていろ。カス」
命令を受け、ウィスタは黙ってスイートルームの扉へ向かった。
その背中には、迷いも感情も見えない。
「はぁ……」
リチョーは再びソファに身を沈める。
「人身売買も、最近は滞りがちだな」
女が不安そうに囁く。
「リチョー様……次は、どうなさいます?」
その時、別の部下が慌てて駆け込んできた。
「侵入者が、すぐそこまで来ています!
至急、ご避難を――」
「必要ない」
即答だった。
「防犯カメラの映像を、リアルタイムで流せ」
口元が歪む。
「一人で我が拠点に突っ込んでくる愚か者の顔を、ぜひ見てみたい」
「……了解しました」
部屋の照明が落ち、
壁一面のモニターに、廊下の映像が映し出される。
血に染まった床。
倒れた部下たち。
そして――銃を手に、無言で進む一人の男。
「……こいつが侵入者か」
リチョーは目を細めた。
「武器は、銃一、ニ丁……?」
愉快そうに、低く笑う。
「面白い。
さて――どこまでやれるかな」
その視線の奥には、
まだ自分が捕食される側になるとは、微塵も思っていない傲慢さだけがあった。




