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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

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第8話 レオーネ・ラプンツェル

 車内は、モニターの青白い光だけが支配していた。

 ミアとスランは膝にノートパソコンを載せ、地下から送られてくる映像とデータに食らいついている。


 重苦しい沈黙を破ったのは、ミアだった。


「ねぇ……リボルが送ってきたこの写真なんだけど」


 画面に映るのは、荒れた地下空間。

 暗く、ノイズが走り、輪郭は曖昧だ。


「薄暗くてよく見えないけど……わかる?」


 スランは眼鏡を押し上げ、画面に顔を近づける。


「……いや。解像度が低すぎる。形はあるけど……」


 その時、後部座席で小さく息を呑む音がした。


「……あります」


 セリナの声は、震えていた。


「人の……形をしたものが、たくさん……」


「人型……?」


 ミアの顔色が変わる。


「……まさか」


 その瞬間――

 ドンッ!!


 車体が大きく揺れ、金属が歪む鈍い音が響いた。


「な、何!?」


 直後、トランクが勢いよく開き、派手な声が飛び出す。


「はーい!お待たせぇ!」


「うわっ!?」


 スランが悲鳴に近い声を上げる。


「レ、レオーネ!? なんでここに!?」


「決まってるじゃない」


 夜風を背に、レオーネは堂々と腰に手を当てた。


「無断参加よ。ヴァンパイアハンターとして見逃せない案件だもの。感謝しなさい?」


「いや無断で来てる時点で感謝もクソもないから!」


「あら冷たいわね。そういうとこ、キュンキュンしちゃう」


「……誰かこいつ殺してくれない?」


 冗談めいたやり取りを切り裂くように、セリナが顔を上げた。


「……来ます」


「え?」


 次の瞬間――


 バァンッ!!


 車のすぐ近くでアスファルトが爆ぜた。

 地面が割れ、裂け目から黒い影が溢れ出す。


「グールだ!!」


 腐臭と共に這い出してくる、人だったものの群れ。

 数は一瞬で把握できないほど。


「あらまぁ……」


 レオーネは唇を吊り上げる。


「なんてエキサイティングなお出迎えかしら」


「言ってる場合か!逃げ――」


「前もよ!!」


 ミアの叫びに、スランが顔を上げる。


「うわっ……囲まれてる!!」


 前後左右。

 逃げ道は、すでに塞がれていた。


 その時、セリナが震える声で叫んだ。


「レオーネお姉さん……助けて!」


「――任されたわ」


 レオーネの声が、低く、鋭く変わる。


「ここからは……私のステージよ」


 彼女はトランクに手を伸ばし、

 中から引きずり出したのは――巨大な鎌。


 刃には聖紋が刻まれ、淡い光が走る。

 完全に聖別された武具だった。


「数は……ざっと二百。

 それと、気配が重いのが十八体……強化型ね」


 グールの群れが一斉に襲いかかる。


 だが、レオーネは一歩も退かない。


「はぁっ!」


 踏み込み一閃。

 特殊な形をした斧が円を描き、三体の首が同時に宙を舞う。


 返す刃で地面を叩き、衝撃波が走る。

 前列のグールがまとめて吹き飛んだ。


「ふふ……鈍いわねぇ!」


 背後から飛びかかる個体を、振り向きざまに刃で貫く。

 聖光が炸裂し、肉体が灰へと崩れ落ちる。


 血も恐怖も、彼女の動きを止めない。


「車には――指一本触れさせないわ」


 レオーネは車を背に、盾となるように立つ。

 笑みを浮かべながら、殺意だけは研ぎ澄まされていた。


「持久戦になりそうね」


 そう言って、斧を構え直す。


 その姿は、戦場に立つ怪物だった。


 「は?」


 レオーネは、思わず素の声を漏らした。


 聖生された斧で首を刎ね飛ばしたはずのグールが、地面に転がった頭部とは無関係に、まだ動いている。

 胴体は痙攣し、四肢を引きずるようにしてなお前進してきた。


「……冗談じゃないわね」


 夜の路地は、割れたアスファルトと腐臭で満ちていた。

 月明かりの下、無数の影がうごめき、呻き声が重なり合う。


「聖生武具で首を跳ねても止まらない?」


 レオーネの目が、細く鋭くなる。


「――従来の吸血鬼式じゃないわ。

 魂と肉体の接続が歪められてる」


 次の瞬間、三体が同時に跳びかかってきた。


「なら――」


 ズンッ!!


 地面を蹴り、レオーネは前に出る。


「斬り刻むしかないじゃない!」


 鎌が嵐のように振るわれた。

 一振りで腕を断ち、返す刃で脚を裂き、さらに踏み込んで胴体を両断する。


 断面から黒い血が噴き出し、聖光に焼かれて蒸発する。


「動くなら――」


 回転しながら薙ぎ払う。

 五体、六体がまとめて吹き飛び、壁に叩きつけられた。


「動けなくなるまで壊すだけよ!!」


 背後。

 強化型のグールが跳躍し、コンクリートを砕く拳を振り下ろす。


「遅いッ!」


 鎌の柄で受け流し、懐へ潜り込む。


 ドンッ!


 腹部を蹴り抜き、体勢を崩した瞬間――

 頭から腰まで、縦一文字に切断。


 それでも、上半身が這いずる。


「……しぶとすぎるわ」


 レオーネは舌打ちし、鎌を突き立てる。


 聖光が爆ぜる。


 グールの内部から光が溢れ、膨張し――

 次の瞬間、肉体は粉砕され、灰となって散った。


「核心部まで壊せば、さすがに終わりね」


 周囲を見渡す。

 まだ数は減らない。

 だが、恐怖はない。


 あるのは、戦場に立つ者の高揚だけ。


「二百体だろうが三百体だろうが――」


 鎌を肩に担ぎ、唇を歪めて笑う。


「かかってきなさいディナーにしてあげる」


 次の波が押し寄せる。


「……でも、これじゃジリ貧よね」


 レオーネは荒い息を吐きながら、周囲を見渡した。

 アスファルトは割れ、聖光と黒血が混じり合い、夜気は焦げた臭いで満ちている。

 倒しても、倒しても、グールは尽きない。


 数は減っている。

 だが、時間が足りない。


「……仕方ないわね」


 覚悟を決めたように、レオーネは胸元から十字架を引き抜いた。

 それを両手で強く握りしめ、血に濡れた唇を引き結ぶ。


「主よ――」


 声が、夜に響く。


「我、迷いし者なり。

 願わくば、魂迷える者たちに救済を」


 十字架が、白く輝き始める。


「――ホーリー・スパーク」


 空気が震え、無数の光の矢が放たれた。

 それは雨のように降り注ぎ、グールたちの胸、頭、四肢を正確に貫いていく。


 断末魔すら上げる間もなく、

 雑魚のグールたちは次々と光に包まれ、塵となって消滅していった。


 路地は一瞬で静まり返る。


「……これで、大体の雑魚は消えるはず」


 レオーネは膝に手をつき、息を整えながら呟いた。


「残ったのは――」


 煙の向こうに、なお立ち続ける影。


 筋肉が異様に発達し、全身から禍々しい気配を放つ存在。

 目が、理性ではなく獣の光を宿している。


「……上位グール」


 その瞬間だった。


 ドンッ!!!!


 空気が爆ぜたような衝撃。


「――っ!!」


 レオーネの身体が宙を舞い、

 そのまま壁へ叩きつけられる。


 コンクリートが砕け、レオーネの身体は壁にめり込んだ。


「ぐはっ……!」


 口から血が溢れ、喉を焼く。

 視界が一瞬、白く飛んだ。


 膝から崩れ落ち、地面にひざまつく。


「……な、に……?」


 震える腕で身体を起こそうとするが、力が入らない。

 肺が悲鳴を上げ、息を吸うたびに激痛が走る。


 ゆっくりと、影が近づいてくる。


「……こいつ……」


 レオーネの目に、初めて明確な警戒と焦りが宿った。


「まさか……」


 影の奥で、赤い瞳が妖しく光る。


「吸血鬼……?」


 聖光すら耐え抜いた存在。

 ただのグールではない。


 レオーネは血に濡れた十字架を、なおも強く握りしめた。


(……冗談じゃないわよ)


 それでも、唇を歪めて笑う。


(ここで倒れるなんて――)


 私の流儀じゃないでしょ


 夜は、まだ終わっていなかった。

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