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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

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第5話 侵入作戦前日

 それは、驚くほど快調な朝だった。


 薄いカーテン越しに差し込む陽光が、部屋を柔らかく照らしている。

 リボルは簡素なキッチンに立ち、フライパンを温めながら朝食の準備をしていた。片手には、湯気の立つコーヒーカップ。


(……ボスには情報を伝えた。

 あとは、どう動くかだな)


 そんなことを考えていると、背後から控えめな声がした。


「おはようございます……おじさん」


「……セリーナちゃん」


 リボルは肩を落とす。


「もうおじさん呼び、やめてくれないか。

 なんか俺が誘拐犯みたいに聞こえるからさ」


「わ……わかりました。

 じゃあ、どうお呼びすれば……?」


「うーん……そうだな」


 少し考えてから、真顔で言う。


()()、と呼びたまえ」


「……先生?」


「そうだ」


「わかりました、先生」


「よろしい。では、朝食にしよう」


 そう言った、その瞬間だった。


 テーブルの上に置いてあったスマートフォンが、間の抜けた着信音を鳴らす。


「……誰だよ、こんないい朝に」


 画面を確認し、リボルはため息をつきながら通話に出た。


「はい、しもしも。ボス」


『しもしもじゃねぇんだよ、このアホンダラ』


「……」


 横で聞いていたセリーナが、小さく首を傾げる。


「先生、それは……少し失礼だと思いますよ」


「……そうなのか?」


 スマホに向かって咳払いする。


「それで、ボス。何の用ですか」


『敵の本拠地が割れた。

 三日後深夜三時二十分。指定した場所に来い』


「はいよ。ワカリマシタ〜」


『……あとで覚えておけよ』


 通話は一方的に切れた。


 リボルはスマホを置き、コーヒーを一口飲む。


「……相変わらずだな」


「だ、大丈夫なんですか、先生……?」


「大丈夫だよ、セリーナ」


「セリナで大丈夫です」


 そう言って、何でもないことのように続ける。


「そうかセリナ少し申し訳ないがこの任務にはついて行ってもらういいな」


「……え?」


 セリーナの目が大きく見開かれる。


「それは……どういう意味ですか……?」


「文字通りだ。現場に一緒に行く」


 しばしの沈黙。


「……でも」


「大丈夫だ」


 リボルは、安心させるように笑った。


「スランとミアもついてる。

 俺一人じゃない」


「……はい」


 セリーナはまだ不安そうだったが、小さくうなずいた。


「それと……少し申し訳ないがな、セリナ」


 リボルはコーヒーカップを置き、真剣な顔で続けた。


「今回の事件のせいで、しばらく学校には通えない。

 だから俺がセリナに最低限、生きていくために必要な知識を叩き込む」


「え……」


「覚悟しておけよ」


「ふわわ……」


 セリーナは目を泳がせ、わずかに後ずさる。

 その様子に、リボルはほんの少しだけ表情を緩めた。


その時セリーナの影からミニウォズが意気揚々に出で来た。


「ようお前らいい朝だな」


そう言いミニウォズはセリーナのご飯にあるスイートチェリーを全て平らげた。


「私のチェリーが」


「なんの用だウォズ」


「リボルお前の任務私も同行しよう」


「は?」


「しばらく世話になるぜ」


リボルは呆れたようにため息を吐く。


「もしこんなの飼ってるのバレたら俺のクビ消し飛ぶんだが」


「そこら辺は問題ない隠蔽魔術を使うもしバレるとすればよほど神聖な魔力を持っていない限りバレることはないだろ〜う〜ろ〜う〜ろ〜う〜」


セリーナがウォズを鷲掴みにして上下に振る。


「私のチェリーかーえーせー」


「それは無理な相談だ〜〜〜」


「そうだセリナと言ったか私と友達なろう」


「友達?」


「そうだ友達だいい条件だろ」


「わかったウォズちゃん」


 (チョロ!!!)

 

 ――その瞬間だった。


 バンッ!


 ノックもなしに玄関のドアが勢いよく開く。


「ボンジュール、リボル!

 お邪魔するわねぇ!」


「突然なんだよ!」


「あれどこいったのウォズちゃん?」


 腕を大きく広げ、優雅に踏み込んできたのは派手な服装と、朝から全力のテンションのレオーネだった。

 ミニウォズはどこかに隠れたようだ。


「いやね、ここに吸血鬼がいるって、私の第六感が(ささ)いたのよ」


「吸血鬼なんて、うちにはいねぇよ」


「ほんとにぃ?」


 疑わしそうに部屋を見回し、やがて満足したようにうなずく。


「……ま、いいわ」


 そう言って、セリーナの方へ歩み寄る。


「おはよう、セリーナちゃん。

 早速、手袋使ってくれてるのね。私、嬉しいわ」


「あ……ありがとうございます、レオーネさん」


「いい子ねぇ」


 頭を撫でようとして、リボルに睨まれ、そっと手を引っ込める。


 ふと、テーブルの上に目をやったレオーネは、眉をひそめた。


「……ちょっと待って。

 今日の朝ごはん……まさか、コーンフレークだけ?」


「うるせぇぞ」


「育ち盛りの少女に、愛も色気もない朝食……

 罪深い男ね、あなた」


「余計なお世話だ」


 レオーネは鼻で笑い、腕を組む。


「それとね、聞いたわよ。

 三日後、深夜三時二十分。

 都市中心部のビルに侵入作戦、でしょ?」


「……こいつ」


「ヴァンパイアハンターとして、見逃せない案件ね私の第六感が行けと行っているわ」


「ついてくる気か」


「もちろん」


「お前、個人事業主だろ。どうやって潜入するつもりだ」


 レオーネはにっこり笑い、指を立てる。


「あなたの車のトランクに乗せてもらうわ」


「……は?」


「ワクワクしちゃう」


「はぁ……」


 リボルは深いため息をついた。


「ただし、条件がある」


「なぁに?」


「もし、セリナがピンチになったら――

 必ず、加勢してくれ」


 一瞬だけ、レオーネの表情が真剣になる。


「……わかったわ。

 その条件、喜んで飲む」


「よし」


 話は終わりだ、と言わんばかりにリボルは背を向ける。


「……で」


 振り返り、鋭く言う。


「お前、なんで勝手に台所占領してんだ」


「あなたの料理が、あまりにも“しょぼくれてる”のが悪いのよ」


「いいから帰れ!」


「あら、冷たいわねぇ」


 レオーネは大げさに肩をすくめ、ドアへ向かう。


「じゃあ、今夜を楽しみにしてるわ。

 死なないでね、リボル?」


 ウインク一つ残し、派手にドアを閉めて去っていった。


 静寂。


「……嵐みたいな人ですね」


 セリーナがぽつりと言う。


「慣れろ」


 リボルはコーンフレークをスプーンですくいながら答えた。


「今夜は、もっと嵐になる」


 その言葉の重みを、朝の光だけが静かに照らしていた。

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