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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

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第4話 アオガニ

 帰り道


 街灯の光がまばらな路地を歩いていたとき、リボルは小さく舌打ちした。


「……今日は厄日だな」


 行く手を塞ぐように、六人ほどの男たちが立っていた。

 酒と汗の混じった臭い。揃いもしない服装。

 いかにもその辺のチンピラといった連中だ。


「おいおい」


 一人がいやらしい笑みを浮かべ、セリーナを指さす。


「そんな少女を、こんな夜中に連れ歩くなんてよ。

 悪いお兄さんたちに捕まっちまうだろ?」


 リボルは視線を動かさず、静かに分析する。


(……言語がバラバラだな。

 インド語、アラビア語……それと、一番後ろの奴はアジア系か)


「おい、アオガニ共」


 低い声で言い放つ。


「今なら見逃してやる。さっさと帰って寝ろ」


 一瞬の沈黙。


「……あぁ、言葉が通じねぇか」


 リボルは肩をすくめ、今度は流暢なアラビア語で言い放った。


「سأترككم وشأنكم الآن أيها الأوغاد.

 عودوا إلى النوم.」


(――今なら見逃してやる。俺は警察だ。帰って寝ろ)


 だが、男たちは顔を見合わせ、次の瞬間、下卑た笑い声を上げた。


「そうだな」


 先ほどの男が一歩前に出る。


「その女をよこせ。

 そうしたら、お前だけは見逃してやる」


(……アラビア語じゃないのかよ。

 っていうか、普通に喋れんじゃねぇか)


 リボルはゆっくりと深く息を吸い込んだ。

 背後で、セリーナが小さく息を呑む気配がする。


「――交渉決裂だ」


 その声は、氷のように冷たかった。


「かかってこい、アオガニ共」


 夜の路地に、緊張が張り詰める。

 次の瞬間、静寂は必ず破られる――そんな確信だけが、そこにあった。


 リボルの視線が、素早く相手をなぞる。


(銃持ちが二人……残り四人は素手かナイフ程度か)


 街灯の影に、金属の鈍い光がちらついていた。


「……おい、小娘」


 低く、しかしはっきりとした声で言う。


「セリーナ。隠れていろ。

 絶対に、俺の後ろから出るな」


「……は、はい……!」


 セリーナは震える足で、近くの廃車の影へと身を滑り込ませた。


 次の瞬間――


「よし糞ども覚悟はいいか」


「やれ!」


 誰かの合図と同時に、銃口がこちらを向く。


 乾いた発砲音が夜を裂いた。


 リボルは即座に身を翻し、弾丸がアスファルトを弾く音が背後で響く。

 その動きに一切の無駄はない。


「……呆れる」


 呟くと同時に、リボルは距離を詰めた。


 一人目。

 腕を掴み、銃口を逸らす。

 短い衝撃音とともに、男は呻き声を上げて地面に崩れ落ちた。


「クソッ!」


 二人目の銃持ちが引き金を引こうとするが――


 リボルは迷わず踏み込み、拳を叩き込む。

 銃が地面に転がり、男はそのまま意識を失った。


「な、なんだこいつ……!」


 残る四人が怯えた声を上げる。


「囲め!」


 だが、遅い。


 リボルは一歩、また一歩と前へ出る。

 その眼は、もはや警告の色をしていなかった。


「逃げるなら今だ」


 誰も動けない。


 次の瞬間、路地には短い叫び声と、重たい衝撃音が続いた。

 数十秒後――


 夜は、再び静けさを取り戻していた。


 地面に倒れ伏す男たちを一瞥し、リボルは息を整える。


「……もういいぞ」


 その声に、廃車の影からセリーナが恐る恐る顔を出した。


「だ、大丈夫……ですか……?」


「ああ。終わった」


 リボルはコートを整え、セリーナの前に立つ。


「怖かったな。

 でも……もう大丈夫だ」


 セリーナは小さくうなずき、ぎゅっと手袋を握りしめた。


 夜の街は相変わらず危険に満ちている。

 それでも今、この瞬間――

 彼女の前に立つその背中は、確かに守る者のものだった。


 家に辿り着いた途端、セリーナは糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち、ソファーの上で静かな寝息を立て始めた。


「……そりゃ、疲れるよな」


 リボルは毛布をかけ、少女の額に落ちた髪をそっと払う。

 外の喧騒が嘘のように、室内は静まり返っていた。


「――もう出てきていいぞ、ウォズ」


 その言葉を合図に、部屋の隅の影が蠢く。

 まるで闇そのものが形を成すように、男が姿を現した。


 逆立つような気配。

 コウモリを思わせるマントのような影をまとった、上位吸血鬼――ウォズ。


「いやぁ、さっきはヒヤヒヤしたぜ。

 あのオカマ野郎の店に入ったときは、心臓が止まるかと思った」


「お前が言うな」


 リボルはため息をつく。


「ところで、なんでここにいる。

 旅の途中じゃなかったのか」


「それがな」


 ウォズは肩をすくめ、真面目とも冗談ともつかない顔で言った。


「最近、俺の第六感がな。

 ここは面白いことになるって囁いたんだ」


「……胡散臭い。

 本当のことを言え」


「はは、バレたか」


 ウォズは観念したように続ける。


「実はな、人工吸血鬼が作られているって噂を聞いてな。

 わざわざロンドンから飛んできた」


「人工吸血鬼なんて、昔からあるだろ」


「あれは人間と吸血鬼の強固な契約が前提だ」


 ウォズの声が、わずかに低くなる。


「だが、噂に聞く連中は違う。

 ――ゼロから吸血鬼を作る。魂も契約も無視してな」


「……バカげてる」


「だろう?」


 ウォズは薄く笑った。


「実に、バカげている。

 だからこそ、俺が来た」


 彼は自分の腕に軽く傷をつける。

 血が滴る前に、それは小さな影へと変わり、手のひらほどのコウモリの姿を取った。


「我が盟友に、これをやろう」


 ウォズはそれを差し出す。


「俺の身体の一部から生まれた使い魔だ。

 略してミニウォズ」


「よろしくな、リボル」


「……えぇ……」


「その代わりだ」


 ウォズは楽しそうに目を細める。


「最近ニュースになっている人攫いの情報を差し上げよう」


「……用件を聞こう」


「あはは。

 君は腐ってもやっぱり元正義の見方だな。こういう餌にはすぐ食いつく」


「うるせぇ。撃つぞ」


「冗談だ、冗談」


 ウォズは咳払いをしてから告げる。


「本拠地はな――この近くの都市のど真ん中だ」


「……は?」


「そのままの意味だ」


 ウォズは指で円を描く。


「都市は円状に広がっているだろ?

 その中心。

 何かの儀式でもやるつもりなんだろう。

 早めに手を打つことを勧める」


「……休む暇もねぇな」


「それと」


 ウォズは視線を、眠るセリーナへと向けた。


「あの少女だ。

 セリーナと言ったな……嫌な予感がする。

 目を離すな」


「……わかってる」


「じゃあな」


 そう言い残し、ウォズの姿は再び影へと溶けて消えた。


 静寂が戻る。


 リボルは大きく息を吐き、ソファに身を沈めた。


「……はぁ」


 眠る少女を横目に、ぼやく。


「これが……専業主婦の気持ちってやつか?」

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