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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

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第2話 ツギハギの少女

 ――ぽたり。


 水滴が落ちる音で、少女は目を覚ました。

 視界に映ったのは、崩れかけたコンクリートの天井。ひび割れの隙間から水が滲み、薄暗い室内に冷たい湿気が満ちている。


「……あれ……わたし……?」


 身体は重く、どこもかしこも痛んだ。

 状況を理解しようとした、その瞬間――


 昨日の光景が、一気に蘇る。


 銃声。

 悲鳴。

 倒れていく子どもたち。

 血の匂い。


「……いや……いやいやいや……!」


 少女は反射的に身体を起こし、その場で泣き叫んだ。

 喉が裂けるほどの叫びが、狭い部屋に響き渡る。


 すると、すぐ隣で横になっていた女が目を覚まし、状況を察するなり、迷いなく少女を抱きしめた。


「大丈夫……安心して」


 優しく、しかし強く。


「ここは安全よ。あなたに危害を加える人はいない」


 震える背中を撫でながら、女はそう言った。


「……それじゃ、足りないだろ」


 少し離れた場所から、低く呆れた声が飛ぶ。


「ミア、ちょっとどけ」


 女――ミアは一瞬ためらったが、ゆっくりと少女から身体を離した。


 壁にもたれていたリボルが、帽子の影から少女を見下ろす。


「先に言っておく。

 ……あの場にいた女子供は、お前以外――全員、空に帰った」


 一瞬、時間が止まった。


 少女の目から、光が消える。


「……そんな……」


 膝が崩れ、床に落ちる。


「……わたしの……せいで……

 わたしが……あの場にいたから……」


 嗚咽が言葉を砕いた。


「違う」


 リボルは即座に言い切った。


「お前は、悪くない」


 静かだが、揺るぎのない声。


「本当に悪いのは、命令を出した連中だ。

 人を家畜みたいに扱う……クソ野郎共だ」


 リボルは一歩近づき、しゃがみ込む。


「……だから提案がある」


 少女は顔を上げない。


「俺と一緒に、そいつらを叩き潰さないか」


 震える声で、少女が答える。


「……でも……復讐は……よくないって……

 神様が……」


 リボルは、少しだけ首を傾げた。


「その神様は」


 間を置いて、問いかける。


「お前が地獄にいた時、助けてくれたか?」


「…………」


 答えは、出なかった。


「いいか、小娘」


 リボルは立ち上がり、背を向ける。


「本当にピンチな時、誰も助けてくれないことの方が多い。

 これは、お前の信仰の問題じゃない」


 そして、淡々と続ける。


「それに――俺たちはな」


 帽子の影から、わずかに鋭い目が覗く。


「こんな指示を出したクソ野郎共のボスに、

 脳天へ一発、ぶちかましたい気分なんだ」


 少女は、泣き濡れた顔のまま、静かに息を呑んだ。


 ――選択の時は、すぐそこまで来ていた。


 やがてリボルたちは廃墟を後にし、車で移動を始めた。

 夜明け前の道路は静まり返り、フロントガラスの向こうでは街灯が一定の間隔で流れていく。エンジン音だけが、車内の沈黙を埋めていた。


「……そういえば」


 運転席のリボルが、何気なく口を開く。


「小娘。名前はなんていう」


 後部座席で毛布に包まれていた少女は、少し間を置いてから小さく答えた。


「……セリーナ……」


「わかったセリナ遅くなったが俺達の自己紹介をさせてくれ俺はリボル・クリッカー見た目の通りガンナーだよろしくな、

それとこいつはスラン・アナシス元犯罪者で今は俺のところでハッカーをしている、

そして彼女はミア・アルケイドこのの部隊の解析担当だ」


「改めてよろしくねセリナちゃん」


「今更だが頭が痛いとかないか」


「大丈夫です」


 その一言に、セリーナは驚いたように目を瞬かせる。


「……おじさん、優しいんだね」


「優しくはないさ」


 即座に返ってきた声は、ぶっきらぼうだった。


「俺も、あんたの孤児院を襲ったクソ野郎共と、たいして変わらん」


 少し間を置いて、付け加える。


「……あと、俺はまだ三十六だ」


「それ、おじさんだよ」


 セリーナは即答した。


「……え。本当に?」


 リボルはハンドルを握ったまま、眉をひそめる。


「おい、スラン。

 この前、お前は俺はまだおっさんじゃないって言ってたよな。

 どういうことだ」


 助手席のスランは、苦笑しながら肩をすくめる。


「いやー、それはほら……年齢によって価値観は違うっていうか。

 俺から見たら、リボルはまだお兄さんですよ」


 それを聞いて、セリーナはスランの方を見た。


「……スランおじさんも、優しいんだね」


「ごめんね、お嬢さん」


 スランは申し訳なさそうに手を合わせる。


「俺、まだ二十五なんだ」


 すると、後部座席から即座に声が飛ぶ。


「十分おっさんじゃねぇか」


 ミアだった。


「うっ……」


 スランは言葉に詰まり、前を向く。


「……もうすぐ着くよ。

 ボスのいる場所だ」


 再び車内に、緊張が戻る。

 だが、ほんの一瞬――

 確かにそこには、温度のある時間が流れていた。


 そこは、巨大な都市部の一角にそびえ立つビルだった。

 スラムとは対照的に、夜でもネオンと街灯に照らされ、ガラス張りの外壁が冷たい光を反射している。

 人の流れは絶えず、ここで何が行われていようと、誰も気に留めない――そんな場所だ。


「……だりぃな」


 スランが小さく呟く。


「そうも言ってられんだろ」


 リボルは車を降りながら答えた。


「今回の件を、どう報告するか考えなきゃならん」


「ほらほら、そんなの後でいいって。

 さっさと行って、パーッと終わらせようぜ」


「……そうだな」


 三人と一人――セリーナを連れて、ビルの中へ入る。


 エレベーターを降り、二階の奥。

 人の気配がほとんどないフロアの、一室の前でリボルは立ち止まった。


 ――コン、コン。


 ノックを二度。


「失礼します」


『入っていいぞ』


 低く、落ち着いた声が返ってくる。


 ドアを開けると、広い執務室。

 重厚な机の向こうに、腕を組んだ人物――ボスが座っていた。


「ボス。お疲れ様です」


「……お疲れ様ですじゃないだろ」


 ボスの視線が鋭くなる。


「これは、どういうことだ」


 その視線は、自然とセリーナへ向けられていた。


「ボス、これは子猫です」


 リボルは即答する。


「……どう見ても人間だろ」


「子猫です」


「……はぁ~……」


 ボスは深く息を吐いた。


「まぁいい。それより――」


 表情が切り替わる。


「お前たちが始末した男二人の情報を出せ」


「イエス、マム」


 リボルは簡潔に報告を始めた。


「あの男たちは、この子猫――セリーナを追っていました」


「目的は?」


「……現時点では不明です」


 ボスは黙り込み、指先で机を軽く叩く。


 ボスは舌打ちし、机に肘をついた。


「……チッ。少しは生かして、情報を引き出すこともできただろう。なぜ、そうしなかった」


 室内の空気が一段冷える。


「確認しました」


 リボルは姿勢を正したまま、淡々と答える。


「あの二人は雇われただけの傭兵です。

 末端で、知っていることも限られていた。

 ――よって、その場で処分しました」


「……はぁ~……」


 ボスは深く息を吐き、天井を仰ぐ。


「まぁいい。結果は結果だ」


 そして視線を戻し、リボルを真正面から見据える。


「それで、リボル。

 その少女をどうするつもりで、ここに連れてきた」


 一瞬の間。


「……まさか、お前が引き取るつもりか?」


「はい」


 迷いのない返答だった。


「私が引き取るつもりで、ここに連れて来ました」


 ボスは眉をひそめる。


「理由は?」


「相手は、公共機関の目がある場所でも平然と殺しをやる連中です。

 このまま放置すれば、再び狙われる可能性が高い」


 静かだが、説得力のある声。


「……なるほどな」


 ボスはしばらく考え込み、やがて小さく頷いた。


「よろしい」


「ボスところで現時点で吸血鬼や魔術師の仕業の可能性は」


「現時点では低いだろう」


 ただし、と釘を刺すように続ける。


「ただし少女に何か問題が起きた場合――

 すべての責任は、お前が取れ」


「……承知しております」


 リボルは即答した。


「それではいい夜を」


 短く一礼し、踵を返す。


 重厚な扉が閉じられると同時に、

 ひとつの決断が、後戻りできない現実として確定した。

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