表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

第15話 帰省

車に乗り込んでいるのは五人――前部座席にリボルとスラン、後部座席にセリーナ、ミア、そしてソフィア。


エンジン音だけが一定のリズムで響き、誰もが戦いの疲労を身体の奥に沈めていた。

後部座席のセリーナはシートにもたれ、すでに眠りに落ちている。小さく上下する胸が、かろうじて彼女が疲労困憊であることを示していた。


ミアがフロントガラス越しの闇を見つめたまま、深く溜め息をつく。


「……ソフィア」


その声音は、優しさよりも現実の重さを含んでいた。


「親友として、はっきり言っておくわ。

私たちが戦っているものは――成果にも加算されない。

死んでも訃報すら出ない。感謝も、自己満足すら得られない」


一瞬、言葉を切り、続ける。


「やりがいのない戦いよ。

……それでも、あなた本当に分かってる?」


車内の空気が、わずかに張り詰める。


「僕はいいと思うけどな」


割って入ったのはスランだった。ハンドル越しに軽く肩をすくめる。


「ちょうどアタッカーが一人じゃ心細かったところだし」


「それでもでしょ」


ミアは即座に返す。


「この銃バカについていけたらの話でしょう?」


「せめて隊長って言ってくれよ」


リボルは前を見たまま、ぼやくように言った。


ミアは視線をソフィアに向ける。


「ねえ、ソフィア。

あなたはこの人について行って、何がしたいの?」


その問いは、試すようでもあり、守るようでもあった。


ソフィアは一度、ぎゅっと拳を握る。

震えそうになる心を押さえ込み、はっきりと口を開いた。


「……私、リボル先輩と一緒に肩を並べて戦いたいんです」


声はまっすぐだった。


「そのために、今日まで第一部隊で実戦を重ねてきました。

成果も、ちゃんと上げてきました」


その様子を、リボルはバックミラー越しに静かに見ていた。


「……ソフィア嬢」


少しだけ低い声。


「一つ、聞いておく。

君は――人を殺したことはあるかね」


一瞬の沈黙。


「……()、は……殺していません」


言い切るまでに、ほんのわずかな間があった。

だが、その目には迷いよりも覚悟が宿っていた。


リボルは、その目を見て――ほんの少しだけ、嬉しそうに口角を上げた。


「そうか」


小さく息を吐く。


「……君も、こっち側に来てしまったか」


それは歓迎とも、警告とも取れる声音だった。


「いいだろう。次の任務、お前を連れていく」


車内の温度が、わずかに下がる。


「精一杯、現実ってやつを叩き込んでやろう」


ソフィアは即座に答えた。


「望むところです」


やがて車は停車し、スランとミアがドアを開ける。


「じゃ、私たちはここで」


「また連絡くれよ」


ドアが閉まり、再び静寂が戻る。


――数時間後。


東の空が淡く染まり始め、日の出の光が無人の道路を照らしていた。

街の気配はなく、ただ車だけが一定の速度で進んでいる。


後部座席では、ソフィアがセリーナの肩に頭を預け、静かに眠っていた。

戦場で張り詰めていた神経が、ようやく緩んだのだろう。


リボルが前を見たまま、短く告げる。


「……もうすぐ着くぞ。お前ら」


朝焼けの光が、車内に差し込み始めていた。


「……とりあえず、もう朝だしな。泊まっていくか、ソフィア嬢」


リボルはエンジンを切りながら、どこか投げやりにそう言った。


「はい。そうさせていただきます」


ソフィアは背筋を伸ばして即答する。その声音には、緊張と期待が入り混じっていた。


「起きろ、セリナ。家に着いたぞ」


後部座席で丸まっていたセリナが、もぞもぞと身じろぎする。


「ん〜……先生、もう着いたの……?」


眠たげに目をこすり、ふとソフィアに視線を向ける。


「……この人、だれ?」


ソフィアは一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。


「はじめまして、セリナさん。

私はソフィア・アスペイン。しばらくの間、リボル先輩とご一緒に行動することになりました」


「ソフィアさん……」


セリナは一瞬きょとんとし、それからはっとしたように目を見開く。


「え、一緒に……この家に住むの?」


セリナは不安そうにリボルのほうを振り返る。


リボルは腕を組み、少し考え込むような顔をしてから答えた。


「……一応な」


「やった!」


空気が一転する。


「ソフィアお姉ちゃん、家案内するね!」


セリナは一気に元気を取り戻し、ソフィアの手を引こうとする。


その様子を見ながら、リボルは小さく口ずさむ。


「……こんな小さな家、案内する必要あるのか?」


「あるの」


「……そうか」


納得したのかしていないのか分からないまま、リボルは車を降り、無言でトランクのほうへ歩いていく。


「さてと……もういいぞ、レオーネ」


勢いよくトランクを開けと、中には頭に包帯を巻いたレオーネが、器用に寝転んでいた。どうやって自分で巻いたのかは謎だ。


「あら」


レオーネは片目を細め、苦笑する。


「てっきり忘れられてるのかと思って、ヒヤヒヤしてたわ。

……会話は全部聞いてたけどね」


トランクから軽やかに降りると、ソフィアに向き直る。


「よろしくね、ソフィアちゃん。

私はレオーネ・ラプンツェル。個人で居酒屋とヴァンパイアハンターをやってる者よ」


冗談めかした口調だが、その眼差しは鋭い。


「時々世話になるかもしれないけど、よろしくね」


「……は、はい!」


ソフィアは反射的に頭を下げた。


「さて」


レオーネは軽く伸びをする。


「私は今夜の仕込みがあるから、ここで失礼するわ。

次に会う時は――せいぜい立派になっておくのよ」


そう言い残し、朝の街へと歩き去っていった。


その背中が角を曲がって消えた直後だった。


――影が、動く。


家の塀の陰から、ぬるりと黒い人影が現れる。


「……やあ」


影から姿を現したのは、黒いコウモリのウォズだった。


その瞬間。


「――吸血鬼!」


ソフィアは一切の躊躇なく武器を抜き、即座に構える。


「待て待て待て!」


リボルが慌てて割って入る。


「こいつは……ええと……」


言葉を探すリボルを、ウォズが面白そうに遮る。


「考えるなよ、盟友。俺たちの仲じゃないか」


「ウォズちゃん!」


セリナが安心したように声を上げる。


「お、セリナか。元気そうだな」


「え……?」


ソフィアは武器を構えたまま、リボルを見る。


「リボル先輩って……吸血鬼、飼ってるんですか?」


「飼ってるっていうか……」


リボルは頭をかく。


「ただ勝手についてきてるというか……」


「処分しても、いいですよね?」


「それは待ってくれ」


リボルは即座に否定する。


「こいつには……利用価値がある」


ウォズは肩をすくめ、薄く笑った。


「……だそうですよ、お嬢さん」


朝の静けさの中、妙に騒がしい共同生活の幕が、こうして上がった。

ここまでが一区切りです。

この先、少しずつ世界の裏側が見えてきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ