第13話 終わりの一撃
銃声が、途切れることなく空間を打ち続けていた。
リボルの呼吸は荒く、床に散った薬莢が金属音を立てて跳ねる。
(――今だ)
連続射撃の反動で、ウィスタの巨体がわずかに揺らぐ。
姿勢が崩れた、その一瞬。
リボルは迷わなかった。
懐にしまっていた木箱を引き寄せ、蓋を弾くように開く。中には、鈍い光を宿した上級銀弾。
それを一発、リボルバーに装填する。
カチリ、と乾いた音がやけに大きく響いた。
銃口は、ウィスタ――いや、“彼”の核へと静かに向けられる。
「……すまないな」
リボルの声は低く、怒りも憎しみも含んでいなかった。
「もし、自我がまだ残っているなら……最後に名前を聞かせてくれないか」
一瞬の沈黙。
その沈黙の中で、かすれた声が、確かに届いた。
「……ヘンリー頼むよおじさん僕を解放して」
リボルは、目を伏せる。
「そうか、ヘンリー」
引き金にかけた指に、わずかな震えが走る。
それを意志の力で抑え込み、彼は静かに言った。
「……達者でな」
――パン。
銃声が、静まり返った空間を切り裂いた。
上級銀弾は正確に核を貫き、光が一瞬だけ弾ける。
次の瞬間、ヘンリーの身体は音もなく崩れ、
灰となって、床に溶けるように消えていった。
残ったのは、冷えた空気と、微かな焦げの匂いだけ。
リボルはしばらくその場に立ち尽くし、
やがて、ゆっくりと銃を下ろした。
「……これで、終わりだ」
それが誰に向けた言葉だったのか――
彼自身にも、もう分からなかった。
「あーあ……気分、悪ぃ」
リボルは吐き捨てるように呟いた。
火薬と血と灰の匂いが肺の奥に残り、呼吸のたびに胸の奥がざらつく。
その空気を誤魔化すように、クライドがわざと軽い調子で声をかけてくる。
「よー、リボル」
「ところでクライド敵の大将はどうした?」
「……げ」
短く返した声の先、視界が一気に開けた。
◆◆◆
そこはもはや地獄絵図だった。
アスファルトの裂け目、地下から噴き出す闇。
グールが、まるで巣を荒らされた蟻の群れのように、無秩序に湧き続けていた。
「クソ……キリがねぇ」
歯を食いしばるソフィアとクリッドの背後で、軍服を着た兵士たちが慌ただしく動く。
指揮官が怒号を飛ばした。
「各自、盾を用意! 巣を中心に円形陣を形成しろ!
包囲完了後、集中射撃!」
「了解!」
重い盾が地面に突き立てられ、銃口が一斉に闇へ向けられる。
それでも、数が多すぎた。
押し寄せる影の波に、兵士たちの喉が無意識に鳴る。
そのときだった。
街灯に照らされた電柱の影――
そこに、黒いスーツを纏ったウォズが静かに立っていた。
(……これは、まずいな)
彼は戦場を俯瞰するように眺め、冷静に状況を分析する。
(ソフィア嬢とクリッドが奮起しているようだが……
この数では、数分も持たん)
小さく息を吐く。
(……仕方ない。手を貸すか)
ウォズはゆっくりと片膝をつき、地面に手を置いた。
その動作は祈りにも、呪詛にも似ていた。
「――光なき魂よ」
低く、だがはっきりとした声が夜に染み込む。
「我が命ずる。
その身を我が糧とし、その魂を我に捧げたまえ」
「――クレッセンド・アクティベータ」
その刹那ウォズの足元から、根のような黒い影が爆発的に広がった。それは地面を這い、壁を這い、グールたちを絡め取る。影に触れたグールは次々と灰へと還元され、風に攫われるように消えていく。
戦場が、一瞬で静まり返る。
「……一つ、貸しだぞ。盟友」
誰にともなく呟くウォズの声は、淡々としていた。
その光景を目の当たりにしたソフィアとクリッドは、思わず足を止める。
「な……なに、これ……?」
ソフィアの声は震えていて持っていた魔導式サブマシンガンを降ろした。
「気を抜くな、ソフィア。敵の攻撃かもしれん」
クリッドは警戒を解かず、杖を構え直す。
理解が追いつかない――だが、確実に何かが起きたていた。
兵士たちも同様だった。
「グールが……消えていく……?」
「嘘だろ……」
次の瞬間、辺り一面が灰色の土煙に包まれる。
視界が塞がれ、咳き込む声が上がる。
そして――
煙が晴れたとき。
そこに、ウォズの姿はなかった。
影の中へ溶け込むように、
彼はすでに戦場から消えていた。
ただ、残された者たちの胸には、
説明のつかない寒気と――
確かに救われたという、言葉にできない実感だけが残っていた。




