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シルバーバレット  作者: 顔のない人間
第一章 廃棄空間地点クラン

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第12話 厄介な男

Dフロア

――クソ。


リボルは息を荒くしながら、頭の中で弾数を即座に整理した。


(実弾があと十発。

ブラッドバレットが一発。

銀弾が……二発)


選択を誤れば、それだけで終わる。

冷や汗が、首筋を伝った。


「……かなりヤバいな」


その目前で、ウィスタがよろよろと足を引きずりながら口を開いた。

ぎこちなく、壊れた人形のように。


「……おとうさん……おかあさん……どこ……」


「――喋った、だと?」


リボルの指が、思わず引き金から外れる。


「……お前、父さんと母さんに会いたいのか?」


問いかけるが、その声は届かない。

ウィスタは虚ろな目のまま、空を掴むように手を伸ばす。


「……うぅ……」


「……クソ」


胸の奥が、嫌な音を立てた。


(やりにくいにも程があるだろ……)


その瞬間――


バリッ!


空気を引き裂くような稲妻が走り、次の瞬間、閃光とともに男が着地した。


「――よっ」


「……げ」


リボルは顔をしかめる。


「本当に来やがったか」


雷の残光を背に、クライドが肩をすくめる。


「生きてるか、リボル」


「うるせぇ。今こいつを確かめてる最中だ」


クライドはウィスタを一瞥し、鼻で笑った。


「確かめる?

この化け物をか?」


その声音は冷酷だった。


「知ってるだろ。吸血鬼化した人間は――二度と戻れない」


「……ああ、わかってる」


リボルは低く答える。


「なら、俺がこのまま片付けてもいいぜ」


雷光が、クライドの足元で静かに跳ねた。


「……いや」


リボルは銃口を下ろし、視線を逸らさずに言った。


「お前は下に行け。この拠点のボスを締め上げてこい」


一瞬の沈黙の後、クライドは肩をすくめた。


「はいはい、了解しましたよ」


そう言いながら、懐に手を入れる。


「……あ、そうだ」


取り出したのは、弾のケースを二つ。


「こっちは弾の詰め合わせセット」


ひとつを投げ渡し、次に――小さな木箱を掲げる。


「で、こっち。

もしハズしたら、ボスが殺すって言ってた」


リボルは木箱を受け取り、静かに息を吐いた。


「……上等だ」


銃を握る手に、再び力がこもる。


「なら――外すわけにはいかねぇな」


雷と銃声が交錯する夜は、まだ終わらない。


◆◆◆


敵本拠地――

厚い防音壁と強化ガラスに囲まれたその部屋は、異様なほど静まり返っていた。

外では銃声や爆発音が断続的に響いているはずなのに、ここだけはまるで別世界のようだ。


「……ボス。そろそろ潮時かと」


控えめな声で、側近が切り出す。

額には汗が滲み、視線は落ち着かない。


「そうだな」


リチョーはグラスを傾け、残ったワインを一気に飲み干した。

その表情に焦りはない。ただ、長年修羅場を潜り抜けてきた者特有の、冷えた判断があった。


「ここは去るとしよう。駒は十分に撒いた」


その瞬間――


バリィィィン!!


雷鳴のような轟音とともに、天井が内側から吹き飛んだ。

粉塵と破片が雨のように降り注ぎ、室内の照明が激しく明滅する。


「……もう来たか」


リチョーは一瞬だけ天井を見上げ、薄く笑った。


次の瞬間、雷光をまとった影が床に着地する。


「どうもこんにちは〜」


軽い調子の声が、重苦しい空気を切り裂いた。


「特殊怪異部隊・第一部隊bチーム隊長、クライドで〜す。

今日はあんたを確保しに来ました」


稲妻が消え、姿を現したクライドは、肩に乗った埃を払うように首を鳴らした。

その目は、獲物を前にした狩人のそれだった。


「私がね」


リチョーは鼻で笑い、ゆっくりと立ち上がる。


「そうそう何の準備もせず、ここに留まっているとでも思ったのかい?

――雷神殿」


そう言うや否や、机の下に隠された赤いボタンを迷いなく叩いた。


ゴォン――!


天井の装甲シャッターが開き、

次の瞬間、三体の人口吸血鬼が無造作に投下された。


床に叩きつけられたそれらは、骨のきしむ音を立てながら立ち上がる。

赤く濁った眼、歪んだ肉体。

そこに理性はなく、ただ命令だけが刻まれている。


「上官命令だ」


リチョーは冷たく告げる。


「そこにいる男を足止めしろ」


命令を受けた瞬間、人口吸血鬼たちは一斉にクライドへと襲いかかった。


「……やれやれ」


クライドは一歩前に出て、腰を落とす。


「チェスト」


その短い号令と同時に、

空気中に無数の緑色の光点が生まれた。


それはまるで、深い森の中を舞う微精霊の群れ。

幻想的な光景とは裏腹に、空気は一気に張り詰める。


「一つだけ言っておこう」


クライドの声が低く響く。


「俺は――化け物退治なら、この国でナンバーワンだ」


「オン」


その言葉を合図に、緑の光が一斉に収束した。


次の瞬間、

全長二メートルを超える光の剣が、空間から突き出る。


ズブリ、と鈍い音。


剣は人口吸血鬼の身体を貫き、床ごと縫い止めた。

三体すべてが、磔にされたかのように動きを封じられる。


「……すごいな」


リチョーは感嘆すら込めた声で呟きながら、

今度は青いボタンを押した。


その口元には、満面の笑み。


「だが、すまないね。これで終わりだ、雷神」


拘束されていたはずの人口吸血鬼の身体が、異様な音を立てて膨張し始める。


骨が軋み、筋肉が盛り上がり、

やがて一体は五メートル級の巨体へと変貌した。


通路を完全に塞ぎ、

巨大な影がクライドを見下ろす。


「……なるほど」


クライドは剣を構え直し、静かに息を吐いた。


その背後で、リチョーの身体がゆらりと揺らぐ。


「さらばだ、諸君」


次の瞬間、彼の姿は霧のように掻き消えた。


「また次の機会で」


残されたのは、

逃走した黒幕と、道を塞ぐ巨大な怪物。


クライドはその光景を前に、不敵に笑った。


「……逃げ足だけは一流か」


そして、剣を握り直す。


「さて。仕事の続きといくか」


雷神と巨獣――

再び、激突の時が迫っていた。


◆◆◆


Dフロア――


破壊された照明が火花を散らし、薄暗い空間に焦げた臭いが漂っていた。

壁には無数の弾痕、床には血と瓦礫が混じり合い、ここで何が起きたのかを雄弁に物語っている。


リボルは無言のまま、倒れ伏したウィスタの前に立っていた。

銃口はすでに下げられている。


――パン。


乾いた音とともに、銀弾がウィスタの頭部を貫いた。

しかし、反応はない。


「……やっぱりか」


リボルは小さく息を吐いた。

撃ったのは“止め”ではない。

会話の可能性を断ち切るための一撃でもなかった。


「これでも、駄目か」


その時――

背後の影が、不自然に揺らいだ。


「おい、リボル」


低く、冷静な声。

影の中から、上位吸血鬼ウォズが姿を現す。


「知っての通りだ。一度吸血鬼化した人間は、二度と元には戻らない」


「わかってるよ」


リボルは振り返らずに答えた。


「そんなこと、最初から承知の上だ。

俺はただ……あの哀れな“子供”と、会話が成立するかどうかを試しただけだ」


ウォズは一瞬、目を細めた。


「……お前は、つくづく子供に甘いな」


その声には、嘲りと同時に、どこか皮肉が滲んでいた。


「かつて“助けられたはずの子供”を、散々見捨ててきた男が、だ」


沈黙。


リボルの表情が、ほんの一瞬だけ強張る。

だが、すぐにいつもの無精ひげ混じりの苦笑に戻った。


「ウォズ。俺は昔のことは気にしない主義でね」


彼はウィスタから視線を外し、壊れた天井を見上げる。


「俺が気にするのは今だけだ。

この最悪な現状を、どうやって少しでもマシな方向に持っていくか。それだけだ」


「無理だと言っている」


ウォズは即座に切り捨てる。


「それはお前が決めることでないだろう」


リボルは淡々と続けた。


「とりあえずできるだけやってみて無理なら諦める」


「つくづく面白い男だお前は」


ウォズは小さく笑った。


「でも勘違いするな。俺は正義の味方じゃない」


リボルは銃をホルスターに戻す。


「勝てないと判断したら、即座に逃げる。

だからこそ、逃げる前にやれることは全部やるだけだ」


ウォズは肩をすくめた。


「……相変わらず、厄介な男だ」


少し間を置いて、彼は話題を変える。


「それよりもだ。外の状況だが――思った以上に好調だ」


「そうなのか」


「特にクライドだ」


ウォズの視線が、天井の向こう――戦場の気配がする方向へ向く。


「昔より、明らかに強くなりすぎている。

かつては、お前の足元にすら及ばなかった男だというのに」


リボルは、ほんのわずかに口角を上げた。


「……人は変わるさ」


そう呟いた声には、誇らしさと、どこか遠い寂しさが混じっていた。


Dフロアの静寂の中

二人はそれぞれの過去と今を胸に、次の戦局を見据えていた。

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