第54話 最後の干渉――世界から、欠片を切り離す
それは、
戦いと呼ぶには静かすぎた。
だが――
破壊よりも、はるかに残酷な行為だった。
■ 儀式の始まり
夜明け前。
学園の最深部、
封印区画のさらに奥。
誰も立ち入らないはずの場所で、
世界そのものに触れる儀式が始まっていた。
クロウ・リーヴェンは、
円陣の外側に立っている。
位相教団の紋章が、
床に浮かび上がる。
「――開始」
合図と同時に、
空間が“音を失った”。
風も、
魔力の流れも、
概念として薄れる。
(……来た)
ユウトは、
はっきりと感じた。
これは攻撃ではない。
奪取でもない。
切断だ。
■ 世界からの切り離し
「欠片は、
この世界にとって“ノイズ”だ」
クロウの声は、
どこまでも落ち着いている。
「選択肢が多すぎる世界は、
必ず破滅する」
「なら――
選択そのものを、
弱めればいい」
魔導陣が、
ゆっくりと回転する。
ユウトの胸の奥で、
欠片が――
引き剥がされる感覚を発した。
(……っ)
痛みは、ない。
ただ――
自分の一部が、
存在しなかったことにされていく。
■ 抵抗しない理由
エリスが叫ぶ。
「ユウト!
干渉しなさい!」
だが、
ユウトは首を振った。
「……壊せない」
力を使えば、
儀式は止まるかもしれない。
でも――
それは“選択を奪う”行為になる。
(……それは、
俺が拒否した未来と同じだ)
リリアが、
一歩前に出る。
「……ユウト」
声が、
震えている。
「このままだと……」
ユウトは、
彼女を見た。
「……大丈夫」
「これが、
俺の選択だ」
■ リリアの気づき
その瞬間。
リリアの未来視が、
完全に崩れた。
見えない。
分岐もない。
ただ――
今だけが、ある。
(……ああ)
(この人は、
本当に――)
リリアは、
歯を食いしばった。
(未来を守るために、
未来を見る力を捨てるんだ)
■ 欠片の正体
クロウが、
最後の言葉を告げる。
「欠片とは――
“世界が完全になることを
拒否する装置”だ」
「本来、
存在してはならない」
「だが――
人は、それを“物語”と呼ぶ」
(……物語)
ユウトは、
小さく笑った。
「……なら」
「俺は、
物語を選ぶ」
■ 切断完了
魔導陣が、
静止する。
光はない。
爆発もない。
ただ――
何かが、終わった。
ユウトの胸の奥から、
欠片の感触が消えた。
(……静かだ)
力もない。
違和感もない。
ただ――
普通だった。
クロウは、
目を閉じた。
「……完了」
「これで、
世界は少しだけ、
安定する」
■ 代償
ユウトは、
その場に座り込んだ。
立てないわけじゃない。
ただ――
立つ理由が、一瞬分からなくなった。
リリアが、
駆け寄る。
「……ユウト」
触れる。
今度は、
何も起きない。
共鳴も、
安定も、
ない。
(……それでも)
ユウトは、
彼女の手を握り返した。
「……生きてる」
それだけで、
十分だった。
■ クロウの敗北
クロウは、
静かに言った。
「私は……
正しかったと思っている」
「それでも」
視線を上げる。
「君たちの選択を、
否定はしない」
「正しさより、
意味を取った」
一歩下がる。
「……それが、
人間か」
■ 夜明け
空が、
白み始める。
世界は、
何も変わらない。
争いも、
不安も、
消えていない。
でも――
選べる。
間違えることも、
後悔することも。
すべて、
自分で。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




