第52話 固定案――選ばなくていい未来の、正しさ
会議室の空気は、冷静だった。
怒号もない。
対立もない。
ただ、
正しさが並んでいるだけだった。
■ クロウの提示
クロウ・リーヴェンは、
机の上に一枚の魔導図を投影した。
複雑だが、整然としている。
「これが、固定案の全貌です」
淡々と、感情を挟まずに続ける。
「欠片と鍵――
ミナト・ユウトと、アークライト・リリアの関係を
現在の安定状態で恒久固定する」
俺は、図を見る。
線は、揺れていない。
分岐もない。
「これにより」
クロウは言った。
「暴走の可能性はゼロ」
「未来視による精神摩耗も消失」
「位相教団は、
あなた方を狙う理由を失う」
学園長が、静かに頷く。
「犠牲は?」
クロウ「ありません」
即答だった。
■ 正しすぎる案
研究官の一人が言う。
「理論的には、
これ以上ない解決策だ」
別の者も続く。
「世界の安定性は上がる」
「予測不能な未来も減る」
「学園の安全も保証される」
誰も、
「間違っている」とは言わない。
(……そりゃそうだ)
俺自身、
否定できない。
■ リリアの未来
クロウが、
リリアを見る。
「あなたの未来視も、
不要になります」
リリア「……」
「見なくていい未来」
「悩まなくていい未来」
「選ばなくていい未来」
クロウは、
穏やかに微笑んだ。
「苦しまなくていい」
その言葉は、
優しかった。
(……本当に)
■ ユウトの違和感
でも。
胸の奥で、
欠片が――
沈黙したまま、拒絶している。
(……違う)
俺は、
ゆっくり息を吸った。
「……クロウさん」
クロウ「はい」
俺「この未来で――
誰が、責任を取るんですか」
一瞬、
間が空いた。
クロウは、
少し考えてから答える。
「責任?」
「不要になります」
「誰も選ばない。
だから、誰も背負わない」
(……やっぱり)
■ 選ばなくていい未来
俺は、
図から目を離した。
「……それって」
言葉を探す。
「誰かが間違えても、
誰も間違ってないって言える世界ですよね」
会議室が、静まる。
俺は、
続けた。
「守れなかった命も」
「救えなかった人も」
「全部、“仕方なかった”で済む」
クロウは、
否定しない。
「それが、
合理的というものです」
■ リリアの一言
その時。
リリアが、
小さく口を開いた。
「……その未来」
視線は、
魔導図ではなく、
床に向けられている。
「……私が見た限り」
声が、
少し震えた。
「誰も泣かない代わりに、
誰も、前に進んでいません」
顔を上げる。
「……静かで、
優しくて」
「でも――
置いていかれた人が、
見えません」
(……リリア)
■ ユウトの沈黙
まだ、
答えは出さない。
出せない。
この案は、
正しい。
でも――
正しさだけで、
選んでいいものじゃない。
クロウは、
立ち上がった。
「結論は急ぎません」
「ただし」
視線が、
俺に向く。
「固定案を拒否するなら、
最後の衝突は避けられない」
「それでも、
選びますか」
俺は、
何も答えなかった。
■ ラスト
会議室を出た後。
廊下で、
リリアと並ぶ。
距離は、
昨日と同じ。
リリア「……ね」
俺「うん」
「もし……
全部終わったら」
少し間を置いて。
「……普通になっても、
一緒に考えてくれる?」
俺は、
即答した。
「……それしか、
できない」
リリアは、
小さく笑った。
その笑顔が――
この世界で、
まだ“選ばれていない未来”に見えた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




