第51話 静かな歪み――安定の裏で進む“計画”
その違和感は、
はっきりした形を持っていなかった。
ただ――
確実に、そこにあった。
■ 学園は、落ち着きすぎている
数日が過ぎた。
侵入事件の後とは思えないほど、
学園は平穏だった。
警備は強化されたまま。
結界も万全。
怪しい動きは――報告上、ゼロ。
(……おかしい)
エリスも、
同じことを考えていた。
エリス「位相教団は、
失敗のあと必ず“修正”を入れる」
俺「修正?」
「より成功率の高い手段に、
切り替える」
(……つまり)
「今は、動かない期間」
(嵐の前の静けさ、か)
■ 変わったのは、欠片だけじゃない
隔離訓練区画。
今日の訓練は、
“観測のみ”。
俺は、
空間の線をなぞるように意識を向ける。
(……見える)
でも、
以前より“整理されすぎている”。
(……自由度が低い)
エリスが言う。
「欠片は今、
“最短で安全な未来”を
選び続けている」
俺「それって……」
「“遠回り”を、
切り捨てている」
(……遠回り)
(失敗とか、
寄り道とか……
そういう可能性を?)
胸の奥が、
少しだけ冷えた。
■ リリアが見た“欠けた未来”
同じ日。
光属性調整室。
リリアは、
未来視の訓練をしていた。
(……やっぱり)
未来は、
一本の太い線。
安全。
安定。
破滅は、見えない。
(でも……)
“救われなかった誰か”も、
見えない。
(……これは)
(未来が良いんじゃない)
(選択肢が、消えてる)
リリアは、
小さく息を吸った。
(ユウト……
これ、伝えるべき?)
■ 偶然を装った呼び出し
その夜。
俺は、
学園長室に呼ばれていた。
学園長、
エリス、
そして――
見慣れない人物。
黒髪、
穏やかな笑み。
「初めまして。
私は クロウ・リーヴェン」
(……誰だ?)
学園長が紹介する。
「学園外から来た、
位相理論の専門家だ」
クロウは、
柔らかく言った。
「君が“安定した欠片保持者”か」
(……この言い方)
「素晴らしい成果だ。
再結は成功だった」
俺「……それを、
確認しに?」
クロウは、
少しだけ目を細めた。
「いいや」
「固定しに来た」
室内の空気が、
一段冷える。
エリスが、
一歩前に出た。
「……“固定”とは?」
クロウは、
淡々と答えた。
「欠片と鍵の関係を、
今の形のまま」
「二度と、
揺れないように」
(……揺れない)
(それって――)
■ ユウトの直感
胸の奥で、
欠片が――
初めて、拒否を示した。
(……嫌だ)
理由は、分からない。
でも――
はっきりと、思った。
(それは……
俺が選ぶ形じゃない)
クロウは、
俺の反応を見て、微笑む。
「心配しなくていい」
「君は、
楽になる」
「選ばなくていい未来だ」
(……)
(それは、
救いじゃない)
■ リリアの到着
その時。
ノックもなく、
扉が開いた。
リリアだった。
「……失礼します」
学園長が驚く。
「アークライト嬢?」
リリアは、
俺を一目見てから、
クロウを見る。
「……あなたが、
“揺れを消す人”ですね」
クロウは、
少しだけ驚いたように笑った。
「未来が見えるか」
リリア「……はい」
彼女は、
はっきり言った。
「その未来――
誰かが、必ず置き去りになります」
室内が、
完全に静まり返った。
■ 見え始める“第三の選択”
学園長が、
重く口を開く。
「……クロウ。
君の提案は、
確かに“安全”だ」
「だが――
“物語”が止まる」
クロウは、
肩をすくめる。
「物語より、
生存率を取るべきだ」
俺は、
二人を見る。
(……選択肢が、三つある)
・暴走の危険を抱えたまま進む
・安定を固定し、選ばない未来へ行く
・――まだ、名前のない何か
胸の奥で、
欠片が小さく震えた。
(……まだ、
道はある)
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