第5話 幼児、魔力訓練を始める(早すぎるだろ)
成長ログの「早期教育モード」開放から数日。
俺は今――庭で正座していた。
(……幼児を正座させるなよ)
いや正確には“ちょこん”と座っているだけだが、雰囲気は完全に修行シーンである。
◆ 今日の一歩 ◆
・魔力をゆっくり体の中で回しましょう
・暴走に注意しましょう(※重要)
(最後の一文が一番怖い)
暴走?
幼児の魔力って暴走するものなの?
俺まだ一歳半だよ?
ログに突っ込んでいると、母さんが麦茶を持って近づいてくる。
「ユウトー? また庭でじーっとして……なにしてるの?」
(魔力訓練です)
「……風邪ひくわよ?」
(いや違うんだって!!)
母さんには当然“魔力の巡りを感じている幼児”なんて分からない。
ただの固まった赤ちゃんである。
■ 魔力の巡りは“あったかい”
ゆっくり深呼吸すると、胸の奥がポワァ……と温かい。
(あ、これいいな……なんか瞑想っぽい)
魔力が指先に流れるイメージをする。
すると――
指がほんのり光った。
「!?」
光ったんだけど!?
幼児の指が、ほの青く発光してるんだけど!?
「ユウト? さっきから手がキラキラして――」
母さんの声が完璧に“何この現象”のテンションで震えていた。
(やばい! 消えろ消えろ消えろ!!)
◆ スキルログ ◆
《魔力操作 Lv2 → Lv3》
《魔力集中 Lv1 解放》
(上がるなぁぁ!!)
レベルアップ演出のせいで光が強まる。
完全に怪奇現象である。
「ユウト!? 今の何!? なんか光ったわよね!? え、え、病気!?」
(病気じゃないから!! 魔力だから!!)
「ガイーーー!! ユウトの手が光ったーーー!!」
父さんがすっ飛んでくる。
「どこだ!? 何が爆発した!?」
(爆発はしていない。事件にするな)
■ 父さん、速攻で勘違いする
「こ、これは……魔術の兆候じゃねぇか!?」
(いや実際そうなんだが、リアクションでかすぎる)
「これ……才能がすごいんじゃねぇか……? 未分類って聞いてちょっと心配してたが……すげぇぞユウト!!」
父さんが俺を持ち上げ、くるくる回る。
(やめろ、酔う!! 俺は幼児だ!!)
母さんまでテンションが上がる。
「やっぱり学園行くよね……!?」
(おむつしてる幼児に進路相談をするな)
■ だがその夜、事件は起きた
昼の騒ぎもおさまり、夜。
俺はベッドで成長ログを見ながら小さく息を吐いた。
◆ 今日の一歩(達成)
・魔力操作:良好
・魔力集中:良好
※ ただし幼児体質のため連続使用は禁止
(禁止って……俺そんなにやってないだろ!?)
と思ったら、胸の奥が少しだけ熱い。
軽い筋肉痛の魔力版みたいな感覚だ。
(やっぱ魔力の使いすぎよくないのか……)
と思っていた――その瞬間だった。
胸の奥が“ドクンッ”と脈打ち、体がピクッと震えた。
(え? なにこれ?)
勝手に魔力が膨らむ。
(おいおいおいおい!?)
幼児の体からしたら出力が明らかに過剰だ。
そして――
指先が勝手に光り、
枕元の木の玩具が、
ボフッ!!
と、謎の勢いで転がった。
「……」
(……今の俺だよな?)
間違いない。
完全に俺の魔力の暴発である。
◆ システム警告 ◆
《魔力暴走の兆候を確認》
《未分類魔力は“自律増幅”する傾向があります》
《当面の間、訓練は控えめにしてください》
(自律増幅!?)
まさかの“勝手に強くなるタイプ”だったんだが。
(いやこんなん……そりゃ暴走するって……)
けど、悪い気はしない。
むしろ――
(これ、めちゃくちゃ伸びしろあるってことじゃん……!)
ワクワクの方が大きかった。
■ 翌朝、村に広まっていた
「ユウトが夜、家の中で魔法使ったらしい!」
(誰が言った。両親か? それとも枕か!?)
「しかも光って、物が飛んだんだってよ!!」
(飛んだのは玩具であって俺じゃない)
「未分類って……もしかして伝説系……?」
(伝説系ってなに)
村のおばちゃんが俺を見て震える。
「ユウト、怖い子じゃないわよね……?」
(怖くないです。よちよち歩きの普通の幼児です)
父さんが胸を張って言う。
「うちの子は……“天才魔術師”になるんだ!!」
(昨日より話がでかくなってる!!)
母さんも言う。
「いや、天才に育つっていうか……もう天才よね……?」
(落ち着け夫婦)
こうして村人たちは、さらにざわつくのであった。
■ そしてログが追撃してくる
◆ 特別成長ログ ◆
《魔力量の自然増幅を確認》
→ “未分類魔力特性:拡張型”が付与されました
▼ 追加一歩
・深呼吸を習慣化しましょう(暴走抑制)
・魔力を少しだけ外に逃がす練習をしましょう
(……外に逃がすって、幼児に高度なことを求めすぎじゃない?)
しかし――どこか嬉しかった。
前世では、
がんばっても誰にも褒められず、伸びない努力が山ほどあった。
でも今は――
(努力すれば、ちゃんと強くなる)
(強くなれば、みんな喜ぶ)
(この世界は……俺に優しいな……)
そう思いながら、俺は今日も“幼児修行”を続けるのであった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 感想 をいただけると励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いします!




