第49話 再結――それでも、離れないと決めた夜
走っていた。どこをどう通ったかなんて、覚えていない。ただ、胸の奥が叫んでいた。間に合え、と。欠片が不安定に脈打ち、制御は崩れかけ、空間の“線”が視界の端で揺れている。名前を呼ぼうとしても、喉が詰まって声にならなかった。
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たどり着いたのは、旧研究棟の最奥。封印区画の一つ手前だった。光が、乱れた呼吸のように明滅している。
(……いた)
リリアは壁に手をついて立っていた。光は出ている。でも、弱い。未来を“見ている”というより、必死に“押し流している”ような姿だった。間に合った、と思った瞬間、膝の力が抜けそうになる。
俺は一歩だけ踏み出した。「……リ」。声が、出なかった。リリアがゆっくりこちらを見て、目が合う。それだけで、胸がいっぱいになった。彼女は口を開きかけて、唇を小さく震わせ、息を吸い直してから、ようやく言った。
「……ユウト」
その呼び方が、胸に突き刺さる。ああ、生きてる、と思った。
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もう一歩進もうとして、止まった。今、触れたら、また欠片が暴れて、彼女を巻き込むかもしれない。リリアも同じことが分かったのか、踏み出せずにいる。二人の間に、ほんの数歩。それが、今はやけに遠かった。
「……ごめん」と、最初に出たのはその一言だった。リリアは首を振る。「……ちがう。わたしが、もっとちゃんと……」。言葉が途中で崩れた。彼女はぎゅっと胸元を押さえて、「……怖かった」とだけ言った。責める言葉でも、怒りでもない。ただの本音だった。それが、何よりも重かった。
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胸の奥で、欠片が静かに震える。暴れない。光らない。ただ、落ち着いていく。長いあいだ迷っていたものが、ようやく居場所を見つけたみたいに。
(……これが、再結ってやつか)
世界は何も変わらない。敵も消えていないし、危険も終わっていない。でも、俺の中だけは、確かに“戻った”。
俺はそっと膝をついた。同じ高さで、リリアを見る。
「……離れたの、正しかったのかもしれない。でも――俺には、無理だった」
リリアの目に、涙が溜まる。「……わたしも」。二人とも泣かなかった。ただ、声が少しだけ揺れる。触れなくても分かる。ここにいる、と。
***
足音が静かに近づいた。エリスだった。表情は硬いが、責める色はない。
「……禁令違反よ」
「……うん」
「でも、分断は失敗だった。責任は、私が取る」
(……エリス)
リリアが小さく頭を下げた。「……すみません」。エリスは目を伏せる。「……謝らなくていい。ただ、覚えておきなさい。“一緒にいる”という選択は、いつも正解とは限らない。それでも選んだなら、背負うこと」。
俺は静かに頷いた。
その後、二人は並んで座った。距離は少しだけ空けたまま、手は触れない。それでも、同じ方向を見ていた。窓の外には、夜の学園。
これで終わりじゃない。むしろ、ここから始まる気がした。胸の奥で、欠片は静かだった。安定している。でも、完成じゃない。それでいい、と俺は思う。一人で全部を背負うんじゃなく、誰かと一緒に選んでいく。それが、俺の決めたやり方だった。
お読みいただきありがとうございました。次回、再結の翌日。静かすぎる日常に残る、小さな違和感。




