第49話 再結――それでも、離れないと決めた夜
走っていた。
どこを、どう通ったかなんて覚えていない。
ただ、胸の奥が叫んでいた。
(間に合え……)
欠片が不安定に脈打つ。
制御は崩れかけ、
空間の“線”が視界の端で揺れていた。
(……リリア)
名前を呼ぼうとして、
喉が詰まる。
(頼む……)
■ ぎりぎりの場所
そこは、旧研究棟の最奥。
封印区画の一つ手前。
光が、
乱れた呼吸のように明滅していた。
(……いた)
リリアは、
壁に手をついて立っていた。
光は出ている。
でも、弱い。
未来を“見ている”というより、
必死に“押し流している”感じだった。
(……間に合った)
その瞬間、
膝の力が抜けそうになる。
■ 再会
俺は、
一歩だけ踏み出した。
「……リ」
声が、
出なかった。
リリアが、
ゆっくりこちらを見る。
目が合う。
それだけで、
胸がいっぱいになる。
彼女は口を開き――
でも、言葉にならなかった。
唇が、
小さく震える。
「……ゆ……」
途中で、
息を吸い直す。
「……ユウト」
その呼び方が、
胸に突き刺さった。
(ああ……)
(生きてる)
■ 近づけない距離
俺は、
もう一歩進もうとして――
止まった。
(……今、触れたら)
(また、壊れるかもしれない)
リリアも、
それが分かったのか、
一歩を踏み出せずにいた。
二人の間に、
ほんの数歩。
でも――
それが、今は遠い。
■ 言葉にならない後悔
「……ごめん」
最初に出たのは、
その一言だった。
リリアは、
首を振る。
「……ちがう」
声が、
かすれている。
「……私が……
もっと、ちゃんと……」
言葉が、
途中で崩れた。
リリアは、
ぎゅっと胸元を押さえた。
「……怖かった」
たったそれだけ。
責める言葉でも、
怒りでもない。
ただの、
本音。
それが、
何よりも重かった。
■ 再結
胸の奥で、
欠片が静かに震える。
暴れない。
光らない。
ただ――
落ち着いていく。
まるで、
長い間迷っていたものが、
ようやく“居場所”を見つけたみたいに。
俺は、
ゆっくり息を吐いた。
(……これが)
(再結)
世界は、
何も変わらない。
敵も消えていない。
危険も、終わっていない。
でも――
俺の中だけ、
確かに“戻った”。
■ 触れないまま
俺は、
そっと膝をついた。
同じ高さで、
リリアを見る。
「……離れたの、
正しかったかもしれない」
言葉を選びながら、
続ける。
「でも……
俺には、無理だった」
リリアの目に、
涙が溜まる。
「……私も」
二人とも、
泣かない。
ただ、
声が少しだけ揺れる。
(触れなくても、
分かる)
(ここにいる)
■ 代償の影
足音が、
静かに近づいた。
エリスだった。
表情は硬い。
けれど――
責める色はない。
「……禁令違反よ」
俺「……うん」
「でも、
分断は失敗だった」
一拍置いて、
続ける。
「責任は、
私が取る」
(……エリス)
リリアが、
小さく頭を下げた。
「……すみません」
エリスは、
目を伏せる。
「……謝らなくていい」
「ただ、覚えておきなさい」
「“一緒にいる”という選択は、
いつも正解じゃない」
「それでも――
選んだなら、
背負うこと」
俺は、
静かに頷いた。
■ 静かな夜
その後、
二人は並んで座った。
距離は、
少しだけ空けたまま。
手は、
触れない。
でも、
同じ方向を見る。
窓の外、
夜の学園。
(……これで終わりじゃない)
(むしろ、始まった)
胸の奥で、
欠片は静かだった。
安定している。
でも、完成ではない。
(それでいい)
(俺は――)
(誰かと一緒に、
選ぶ)
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