第2話 幼児のくせに毎日ログが来るんだが?
転生してから、たぶん数か月が経った。赤ん坊の頃は、寝て起きて飲んで泣くだけのループだったが、成長ログシステムはそのたびに律儀にポップしてきた。
◆ 今日の一歩 ◆
・発声練習を続けましょう
・周囲の音をよく聞き、言葉のパターンを覚えましょう
(……赤ん坊にタスクだすの、世界でもお前くらいだぞ?)
そうツッコみながらも、この“今日の一歩”を意識すると、確かに耳が言葉を拾うのに敏感になっていくのが分かる。この世界の言語は、日本語に近い語順だけど、やや音が丸い。村の生活音に混じる親の会話が、徐々に意味として入ってくるのが面白い。
「ユウト、おはよう」
(はい母さん、おはようございます。返事したいのに声が出ねぇ)
「んばぁ!」
「ふふ、元気ねぇ」
……うん、幼児語の破壊力には勝てなかった。脳の指令が口に届かない。これはこれで悔しい。
◆ スキルログ ◆
《言語理解 Lv1 → Lv2 に上昇》
(おっ、上がった!)
どうやらこのシステム、地味だがちゃんとレベルアップする。ただ行動をした分だけ伸びて、無駄な努力がゼロ。可視化されているから、前世のような「頑張ったのに空振り」もない。やっぱこれ、めちゃくちゃ強くないか……?
■ 生後8か月頃
身体が安定してきて、少しずつハイハイができるようになってきた。母さんが布を畳んでいる横で、俺は小さな拳を握って床を這う。
「ユウト、危ないからそっち行かないの!」
(任せろ母さん、俺には今日の一歩がある)
◆ 今日の一歩 ◆
・まずは近くのものに手を伸ばしてみましょう
・掴む動きの反復で筋力と器用さが成長します
(はいはい、分かってますよ)
近くの木のスプーンに手を伸ばし、つかむ。すると少しだけ画面の色が変わった。
《器用 Lv0 → Lv1》
(この瞬間がいちばん楽しい)
努力が1ピクセルでも成果になるのが最高に気持ちいい。
「ユウト、すごいねぇ!」
母さんが頭を撫でてくれる。この世界の母さんは、けっこう若い。多分十代後半か二十歳くらい。父さんは、筋肉質の農夫で、穏やかで声が低い。
「こいつは手が器用だな。将来は良い職人にでもなるかもな」
(いや父さん、俺は学園で無双する予定なんで……)
と内心で返しつつ、今日もハイハイ訓練を続けた。
■ 生後1年、よちよち歩き記念日
あるとき、成長ログがいつもより派手に点滅した。
◆ 特別ログ ◆
『歩行データが基準値に到達しました』
→ 今日の一歩が“歩行練習”に更新されます
(ついに来たか)
両親の前で立ち上がってみる。足はガクガクするし、身体は重い。だけど、毎日ログに従って筋力をつけたおかげか、前世の映像で見る赤ちゃんよりは安定している気がする。
「ユウト、立った!?」
(任せろ)
俺は――一歩踏み出した。
ドッ。
転んだ。
「きゃっ!」
「ユウト、大丈夫!?」
(痛いけど……でも、いける)
再び立ち上がる。そして、もう一歩。
トッ、トッ、ドサッ!
「歩いた……! 歩いたよ!」
母さんの声が震える。父さんが大きな手で俺の背中を撫でる。
「すげぇぞ、ユウト!」
その瞬間、ログが弾けるように更新された。
◆ 大成長ログ ◆
《歩行 Lv1 解放》
《身体能力が全体的に上昇しました》
《今日の一歩が“単語の習得”に更新されます》
(おおー、次は言語フェーズか)
地味だが、毎日やれば必ず前に進む。このシステム、やっぱり最強の“成り上がり装置”だ。
■ そして迎える、初めての言葉
それは、歩行が安定してきた頃だった。母さんが食器を洗っている横で、俺は積み木を積む練習をしていた。今日の一歩は「身近な人の名前を覚えて発声すること」。
母さんの名前は「リア」。
(父さんは“ガイ”)
俺は深呼吸するように息を吸って――
「……り、あ」
自分でも驚くほど小さな声だった。
「……今、言った?」
母さんが手を止める。その目が大きく見開かれた。
「……りあ……!」
「ユウト……! ユウト……!」
抱きしめられて、顔を泣きながらすり寄せられた。
(そんな泣く!?)
「初めてが……私の名前……!」
なるほど。言葉ってのは、家族にとってそれほど特別なのか。そしてまたログが光った。
◆ スキルログ ◆
《発声 Lv1》
《言語理解 Lv3 → Lv4》
(よし。この調子で、どんどん積むぞ)
まだ世界は小さな村の中しか見えていない。けれど、その外にある“学園”という巨大なステージへ行くために――基礎の積み上げは、いまが最重要なんだ。
(次は……魔力だな)
そう、そろそろ「アレ」が来る頃だ。この世界では、生後一年から二年の間に、子供の“魔力適性測定”というイベントがあるらしい。両親も、村の人たちも、みんな口を揃えて言う。
「ユウトは器用だから、魔術が得意かもな」
「いやいや、ガイさんの息子だし、身体強いよ、きっと!」
(ふふ……みんな、期待しててくれ)
なぜなら今日の成長ログには、こんな一文が追加されていたからだ。
◆ 特別予告 ◆
【近日中に“魔力探知技能”の開花が見込まれます】
(来た……!)
学園成り上がりへの、最初の本格ステップ。
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