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世界が見捨てた職業で、僕は抗う  作者: KAZAMI Reo(風見レオ)
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第3話「鍛冶屋ドロックの無口な眼差し」

朝の村は静かだった。


昨夜の牙狼の群れが、姿を見せることはなかった。

誰も知らないまま、村は“平和な一日”を迎えている。


レイルは一夜明け、ミルとモモンを連れて村の鍛冶屋へと足を運んでいた。



【鍛冶屋 ドロック】


店の看板は煤け、扉も重く軋む。

だが、ここは村で唯一の武具屋であり、素材の買い取り所でもある。


「……よう」


ドロックは無口な男だ。

浅黒い肌に、左目を覆う焼け焦げた眼帯。腕は太く、片手でハンマーを振り上げるその姿に、威圧感がある。


レイルが素材を置くと、無言のままそれに目を通す。


「牙狼の皮……六枚、牙……八本。血晶……一欠片。スライム樹液……少量」


ぽつ、ぽつ、とだけ言いながら計算する。

彼はいつも、余計なことは言わない。

「誰が倒した」「どこで狩った」など聞きもしない。


「……四百二十ルムだ」


「助かる」


レイルは礼を言って受け取る。

昨夜の依頼報酬三百五十ルムに、この素材代が加わり――合計七百七十ルム。


(これで宿代と食費、薬草代、修繕代を払って、なんとか“生き延びる”)


そして、少しだけ余る分で――


「なにか作れるか? この子に」


そう言って、レイルは隣に座るミルを手で示した。


牙狼の子。

まだ幼く、毛並みは薄く、寒さに弱そうだ。


「……布皮のマントぐらいなら。サイズは?」


「背丈八十。前足周囲は――」


「いい。見て作る」


ドロックは工具を取り出し、余り布と獣革を手に取る。

手際は荒いが正確で、縫い目も狂わない。


三十分後、小さな獣用のマントが完成した。


「……これで三十ルム」


「安いな」


「おまえが昨夜、何をしたかぐらい……わかる」


その言葉に、レイルは目を見開いた。


だがドロックは、それ以上は言わず、溶鉱炉の奥へ戻っていく。


「……ありがとな」




「ぷにっ! ぷにぷにぃ~♪」


モモンが完成したマントにくっついて、ミルを軽く引っ張る。


「わ、ちょっ、モモン……くすぐったいよぅ!」


マントを身につけたミルは、嬉しそうにしっぽを振っていた。

幼いながらも、どこか気高く、そして――“言葉を持つ魔物”としての自我がにじんでいる。


「ありがとう、レイル。あったかい……」


「……よかった」


レイルはほっと息をついた。


戦って、倒して、素材を剥いで、売って、装備を整えて、ようやく――

少しだけ“仲魔が笑える余裕”ができる。


それだけのことが、どれほど尊いか。




その夜、ギルド宿の窓辺でレイルは布帳に金額を記した。


【収入】

・依頼報酬 350ルム

・素材売却 420ルム


【支出】

・宿代(1泊) 120ルム

・食費(2人+モモン分) 100ルム

・薬草・ポーション補充 100ルム

・マント代 30ルム


【残額】 370ルム


(……こうして並べると、やっぱりギリギリだな)


モモンは布団の上で丸くなり、ミルは尻尾を巻いてレイルの足元で寝息を立てていた。


「守るもんが増えるってのは、悪くないな」


小さく呟いた言葉を、誰も聞いてはいない。


だが、その声には確かに――

昨日より、少しだけ“希望”が混じっていた。

鍛冶屋ドロック

無口だが善良な職人。レイルの行動を察している

初クラフト

ミル用の布皮マント製作。

素材経済

ギルド報酬だけでは足りず、素材を鍛冶屋ドロックに売却

生活描写

ギルド宿での食費・薬草費・宿代が圧迫している

仲魔との関係

ミルとモモンの関係性が微笑ましく進行中


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