第1話「誰にも知られない成果」
ファンタジー書きたくて、書き始めました
「おーいレイル、また薬草か? いい加減、他の依頼受けたらどうだ?」
朝のギルドカウンター。
冒険者たちの声が、皮肉と笑いを交えて響いてくる。
「魔物すら避けて通るってウワサだぜ。ま、スライム使いなんてそんなもんか」
「仲魔に使われてるってオチじゃない? あのピンクの子、妙に賢いし~」
――くだらない。
レイル・ウィズナーは一言も返さず、無言で依頼報告書を提出する。
「薬草、二種十束。指定地点、地図印あり。証拠の根と茎、これで」
受付嬢は目を伏せ、そっと受け取った。
彼女も、俺がここに居づらいのを察している。
「……Fランク依頼、確認しました。報酬は後ほど、350ルムになります」
「……了解」
──それだけじゃ、足りない。
宿代が1泊30ルム×7で210、食費が15×7で105。
洗濯代や道具の修繕で……週に400ルムは飛ぶ。
350じゃ、赤字だ。
「ぷに……」
肩のスライム――モモンが、小さく鳴いた。
その声には、苛立ちでも憐れみでもない、“無言の理解”がこもっていた。
俺は小さく頷き、誰とも目を合わさずギルドを出た。
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◆
森の空気は、朝の霧に満ちて静かだ。
だが、その奥に、昨日の痕跡は確かに残っている。
「……牙狼。昨夜のやつだ」
まだ温もりが残る。斬られたのは喉、焼け焦げているのは心臓部。
――完璧な討伐。
だが、この成果は、誰の記録にも残らない。
「モモン、処理を頼む」
「ぷにぃっ♪」
桃色の身体が死骸を包み、泡立つように分解していく。
音も匂いも残らない。痕跡ゼロ。完全消去。
“なぜ、俺が評価されないか?”
“なぜ、俺はいつまでもFランクか?”
――俺自身が、証拠を消しているからだ。
本当は、仲魔が魔物を倒すたび、証明物を提出すれば、報酬も、評価も上がる。
だが、それは危険だ。
テイマーが魔物を従え、“戦果を出す”など、
今のこの村では異常として扱われる。
仲魔と共にある者は、魔物に近いと恐れられ、
力を見せれば、国からさえ目をつけられる。
「ぷに……」
モモンが、沈黙のまま俺の足にまとわりついた。
「分かってる。俺たちは、まだ目立つべきじゃない」
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◆
薬草採集を終え、村に戻った頃には夕方。
ギルドの裏口からそっと抜けようとしたその時――
「おかえりなさい、レイルさん」
出迎えたのは、ギルド兼宿屋の娘、エマだった。
手に持っていた鍋の蓋を開け、湯気の向こうで微笑んでいる。
「今日も草のお仕事だったの?」
「まあな。これで宿代くらいにはなる」
「ぷに~♪」
モモンが、鍋の匂いに釣られて身を伸ばす。
「ふふ、かわいい。今日のは鶏のスープ。レイルさん、ちゃんと食べてる?」
「最低限な」
「宿代、食費、洗濯、修繕、……意外と大変よね。薬草依頼だけじゃギリギリでしょ?」
レイルは一瞬だけ目を細めた。
「……ああ。けど、他には頼れないからな」
「そういえば、昨日、鍛冶屋のドロックさんが言ってたよ」
「……何を?」
「“誰かが珍しい魔物素材を売ってくれる”って。森のどこかに、すごい狩人がいるんじゃないかって」
モモンが「ぷに?」と首を傾げた。
レイルは無言のまま、スープを受け取った。
「……ありがとな。助かる」
「また明日ね」
エマはそのまま、厨房へと戻っていった。
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◆ 夜。
宿の一室、灯りもろくに点けず、俺は小さな財布を開いた。
――今週の手取り、350ルム。
そこに、ドロックが買ってくれた牙狼の爪と骨、80ルム分。
合計430ルム。
「ギリギリ、黒字。……モモン、明日は何食いたい?」
「ぷに~♡(あまいの♡)」
「……パン耳とスープで我慢しろ」
「ぷにぃ……(がっかり)」
ボソッと呟く声に苦笑して、俺は少しだけ笑った。
この日常が、ずっと続くと思っていた。
だが――
この村での“最後の平穏”は、すぐそこまで来ていた。
ずっとなろう読者でしたが、自分でも世界を作ってみたくなりました