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世界が見捨てた職業で、僕は抗う  作者: KAZAMI Reo(風見レオ)
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第1話「誰にも知られない成果」

ファンタジー書きたくて、書き始めました

「おーいレイル、また薬草か? いい加減、他の依頼受けたらどうだ?」


朝のギルドカウンター。

冒険者たちの声が、皮肉と笑いを交えて響いてくる。


「魔物すら避けて通るってウワサだぜ。ま、スライム使いなんてそんなもんか」


「仲魔に使われてるってオチじゃない? あのピンクの子、妙に賢いし~」


――くだらない。


レイル・ウィズナーは一言も返さず、無言で依頼報告書を提出する。


「薬草、二種十束。指定地点、地図印あり。証拠の根と茎、これで」


受付嬢は目を伏せ、そっと受け取った。

彼女も、俺がここに居づらいのを察している。


「……Fランク依頼、確認しました。報酬は後ほど、350ルムになります」


「……了解」


──それだけじゃ、足りない。


宿代が1泊30ルム×7で210、食費が15×7で105。

洗濯代や道具の修繕で……週に400ルムは飛ぶ。


350じゃ、赤字だ。


「ぷに……」


肩のスライム――モモンが、小さく鳴いた。

その声には、苛立ちでも憐れみでもない、“無言の理解”がこもっていた。


俺は小さく頷き、誰とも目を合わさずギルドを出た。




森の空気は、朝の霧に満ちて静かだ。

だが、その奥に、昨日の痕跡は確かに残っている。


「……牙狼。昨夜のやつだ」


まだ温もりが残る。斬られたのは喉、焼け焦げているのは心臓部。


――完璧な討伐。


だが、この成果は、誰の記録にも残らない。


「モモン、処理を頼む」


「ぷにぃっ♪」


桃色の身体が死骸を包み、泡立つように分解していく。

音も匂いも残らない。痕跡ゼロ。完全消去。


“なぜ、俺が評価されないか?”

“なぜ、俺はいつまでもFランクか?”


――俺自身が、証拠を消しているからだ。


本当は、仲魔が魔物を倒すたび、証明物を提出すれば、報酬も、評価も上がる。

だが、それは危険だ。


テイマーが魔物を従え、“戦果を出す”など、

今のこの村では異常として扱われる。


仲魔と共にある者は、魔物に近いと恐れられ、

力を見せれば、国からさえ目をつけられる。


「ぷに……」


モモンが、沈黙のまま俺の足にまとわりついた。


「分かってる。俺たちは、まだ目立つべきじゃない」




薬草採集を終え、村に戻った頃には夕方。

ギルドの裏口からそっと抜けようとしたその時――


「おかえりなさい、レイルさん」


出迎えたのは、ギルド兼宿屋の娘、エマだった。


手に持っていた鍋の蓋を開け、湯気の向こうで微笑んでいる。


「今日も草のお仕事だったの?」


「まあな。これで宿代くらいにはなる」


「ぷに~♪」


モモンが、鍋の匂いに釣られて身を伸ばす。


「ふふ、かわいい。今日のは鶏のスープ。レイルさん、ちゃんと食べてる?」


「最低限な」


「宿代、食費、洗濯、修繕、……意外と大変よね。薬草依頼だけじゃギリギリでしょ?」


レイルは一瞬だけ目を細めた。


「……ああ。けど、他には頼れないからな」


「そういえば、昨日、鍛冶屋のドロックさんが言ってたよ」


「……何を?」


「“誰かが珍しい魔物素材を売ってくれる”って。森のどこかに、すごい狩人がいるんじゃないかって」


モモンが「ぷに?」と首を傾げた。

レイルは無言のまま、スープを受け取った。


「……ありがとな。助かる」


「また明日ね」


エマはそのまま、厨房へと戻っていった。



◆ 夜。

宿の一室、灯りもろくに点けず、俺は小さな財布を開いた。


――今週の手取り、350ルム。

そこに、ドロックが買ってくれた牙狼の爪と骨、80ルム分。


合計430ルム。


「ギリギリ、黒字。……モモン、明日は何食いたい?」


「ぷに~♡(あまいの♡)」


「……パン耳とスープで我慢しろ」


「ぷにぃ……(がっかり)」


ボソッと呟く声に苦笑して、俺は少しだけ笑った。


この日常が、ずっと続くと思っていた。


だが――


この村での“最後の平穏”は、すぐそこまで来ていた。


ずっとなろう読者でしたが、自分でも世界を作ってみたくなりました

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