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第七話 王宮訪問(1)守礼門

 衣装をいくら綺麗に整えても、王宮に入るにはどうにも不釣り合いに見える青年四人が、守礼門の前に来ていた。

 門を守る二人の衛兵は怪訝(けげん)な表情を浮かべた。


「許可状を出せ」


 ぶっきらぼうに左の衛兵が言い放つ。

 レインたちは、許可状ではなく()()()をこれ見よがしに差し出して、衛兵の様子を窺う。

 

 おそらく何も聞かされていなかったのだろう。

 招待状を見るなり、二人の衛兵は目を丸くする。

 招待状と四人の顔を交互に何度も見比べ、やがて背筋をぴんと伸ばした。


「国王陛下の賓客とは──失礼しました。ただいま門をお開けいたします」


 衛兵の改まった声に、レインの胸の鼓動が速くなる。


(いよいよ王宮の中に……!)


 レインの緊張と期待が最高潮に達した、そのとき──


 不意に、守礼門の横から小柄な少女が突如現れた。


「少し待たれよ」




(え、誰?)


 レインは思わず心の声がそのまま漏れそうになった。

 衛兵はその少女の登場に驚いた様子で、慌てて頭を下げている。


(偉い身分の人なのだろうか? とてもそうは見えないが……)


 レインが眉をひそめる中、隣にいたシトラスが丁寧な口調で少女に問いかけた。


「失礼を承知でお伺いしますが、あなたはどちら様でしょうか? 我々は国王陛下からご招待を受けて、これから中に通されることになっているのですが」


 少女はそれを聞いても特段驚いた様子は見せない。


其方(そなた)らが国王陛下の賓客であることは知っておる。私は、其方らの手荷物及び身体の検査をするように陛下から仰せつかったのじゃ」


 少女の割に口調は年老いている。一体何者なのか? レインが詳しく聞こうとすると、少女は手を前に出してそれを制止し、話を続けた。


「私はグレナ・ユフスカイ。身体検査官じゃ。こう見えて、君たちの五倍は歳をとっているよ」


 レインの年齢は十五歳なので、その五倍といえば、相当なご高齢だ。

 二人の衛兵もわずかに顔を上げて、怪訝な表情を浮かべた。

 しかし、すぐに何事も無かったかのように、衛兵は少女に再び頭を下げた。


 ──どうやら、この場の全権が少女に一任されているようだ。

 レインは、ここは素直に検査に従った方が良い、と思い直し、鞄を下ろして中を見せようとする。

 すると、少女は微笑みながらその動きを制止した。


「その必要はない。君が『王国創始記リバイバル』第四巻を鞄の中に入れていることは分かっている。その理由はよく分からんが、別に害があるわけではないから、そのままで良い」


 この発言には、レインは心底驚き、目を見開いた。

 他の三人も一様に驚いて目を丸くしている。

 それもそのはず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 グレナと名乗る少女は、手の平を空中でゆっくりと動かしながら、レインの頭からつま先までを追っていく。体には全く触れられていないのだが、レインはゾワっと全てを透かされているような不思議な感覚に陥った。


 おそらくこの少女は魔法を使っているのだろうと、レインは思い当たった。魔法を使える人間は、この国ではごく少数に限られる。そもそも国の掟により、国王陛下と、陛下に仕える者にしか魔法の使用は許されていないのだ。


(なるほど、見た目も魔法で操作しているのか? それなら先ほどの年齢五倍という発言も頷ける)


 レインは、興味深そうに少女の顔をじっと見つめた。


 やがて、レインの身体検査は滞りなく終わり、次はシトラスの番となった。

 少女は再び滑らかに手を動かしながら、鞄の中身を言い当てていく。


「其方は、薬草図鑑を持ってきたようだな。歴史書やら薬草図鑑やら──君たちは随分と変わり者だな」


 その声色は、どこか呆れた響きが混ざっていた。

 

 少女による検査は淡々と進み、次にランドリー、そしてサラの確認へと移る。


「二人は木刀を持ってきたようだな。剣士たるもの、刀は命じゃからのぅ。良い心がけじゃ」


 (えっ……ハルシュとほとんど同じ事を言っている)


 レインは驚きを隠せない。

 ランドリーとサラも顔を見合わせて驚いている。


「なぜそんなに驚いている。わしは当たり前のことを言っただけじゃ」


 少女は首を(かし)げて、不思議そうな顔を浮かべた。




 しばらくして、全員の検査が終わったが、少女の表情はどこか()えなかった。


「特に問題はない……と言いたいところじゃが、一つ聞きたい。皆がつけている、そのペンダントは何じゃ?」


 これは四人にとって不可解な質問だった。

 ベンダントにはイスリナ神教の紋様が施されているが、何も害はないはずだ。

 イスリナ神教はこの国で広く知られていて、庶民の半数が信仰しているし、紋様も同じく有名なはずだった。


 ──なのに、この少女は何も知らないのだろうか?


「あの……質問の意図がよく分からないのですが」


 レインがそう尋ねると、少女は、冴えない表情のまま言葉を付け加えた。


「もちろん、それがイスリナ神教のペンダントであることは知っておる。だが、ごく微弱だが何か得体のしれない不思議な力がそこに宿っているのじゃ」


 少女の視線はペンダントに釘づけで、表情には困惑の色が浮かんでいた。

 しかし、不思議な力と言われても、四人の誰にも心当たりはない。


「私たちには思い当たる節はまったくありませんが、強いて申し上げれば、それはイスリナ神の力なのではないでしょうか?」


 ランドリーが生真面目(きまじめ)に答えると、少女はふふっと笑った。


「まぁ、今はそういうことにしておこう。四人ともここを通って良いぞ」


 少女はランドリーの言葉に納得したわけではなさそうだったが、これ以上ここに留めても仕方がない、と思ったのか、ようやく通行を許可してくれた。


 レインは、少女が「ペンダントを外せ」などと言ってくるかもしれない、と内心で少し警戒していたが、結局何も言われなかったので、ひと安心した。

 このペンダントは大事なお守りなのだから、そう易々(やすやす)と外すわけにはいかない。


 少女の通達を聞いて、(そば)に控えていた衛兵二人が声を張り上げる。


「「守礼門、開門!」」


 その言葉と同時にゆっくりと門が勝手に開き始める。


 (あれ? もしかしてこの二人も魔法が使えるのか?)


 レインは大きく目を見開いた。

 これから先も、驚きの連続になる──そんな予感が胸をよぎる。


 緊張と高揚感の入り混じる気持ちで、レインたちは王宮に足を踏み入れた。




 四人の視界に飛び込んできたのは──

 朱色で塗られた外壁に、金色の装飾が施された王宮殿。

 まさに招待状と同じ色で彩られ、荘厳な雰囲気を醸し出している。


 その入り口には、丸眼鏡をかけて鼻の下に口髭を生やした青年が立っていた。


「ようこそ王宮へ。私は王宮案内人を務めます、ニーアス・カーテルです。どうぞよろしくお願いします」


 そう言って青年は丁重に頭を下げた。


 ついに、四人が王宮の中へ!

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