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【本編完結済】LostKingdom  作者: 神吉李花
第一章 知らない記憶に私は目覚める。そしていろいろ奪われる
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001 はじまりの朝【表紙イラストあり】

挿絵(By みてみん)

 初夏のキラキラとした朝の光が、薄い翠色の床に金色の陽だまりを作っている。

 学生寮の廊下にまだひとけはなく、遠くから早起きの鳥の声がときおり届くだけだ。


「なんか……、また、おっきくなった……?」


 私は胸元を見て、きつくなった体育着の合わせを緩めた。

 次いで、動いたときに揺れすぎないように確かめながら下着の紐も少し緩める。あまり緩めると揺れて痛いし恥ずかしいが、ちょうどいいところに合わせるのもまぁまぁ慣れてきていた。でも、そろそろ新しいものにしないといけないかもしれない。


「はぁ……」


 私は水道の水栓をひねる。

 蛇口からあふれる水が、桶のなかに溜まっていく。水があふれそうになる瞬間を見計らうように水栓に添えていた手を動かして水を止めた。私は手を出して、その水を勢いよく掬い上げる。

 

 冷たい水が頬にあたり、目覚めたばかりのぼんやりした頭を覚ます。私は滴る水滴を首に掛けたタオルで無造作に拭き取って、目の前の鏡を見た。


 (……ひどい顔)


 鏡の中のもう一人の私が、じとっと眉をひそめて心底嫌そうな表情をしていた。あごの下のあたりで切りそろえられた黒い髪、金色の瞳。服装はこれから朝練に出かけるための、部活用の体育着。

 

 見慣れた自分の顔だ。可愛さはと言えばそうあるわけでもなく、たいした特徴も無い十人並みの容貌だ。瞼は腫れて目の下には微妙にクマが出ているし、左頬には小さなニキビがひとつ。いいとこ三十点くらいだろうか。

 

 胸だけは無駄に成長しているが、自分が女であることを嫌でも自覚させられるようで見るたびに嫌な気分にさせられる。私は大きくため息をつく。


 ――私、ナスカ・セツ・エイシャは、定期的に夢を見る。

 

 月が満ちる日に、ひとつ。月が無くなる日に、ひとつ。

 

 嫌な夢と幸せな夢のふたつだ。

 

 それは私が帝国の『帝都』に存在している学校『帝国学院』で生活するようになってから、ひと月も欠けずに訪れている。

 

 遠い記憶のように見えるけれど、私には夢に関る出来事に思い当たる記憶がない。でも、その夢たちはどちらもあまりにも生々しい色と匂いと感触があって、現実と非現実の境がわからなくなってしまうようなものだった。

 

 そして、昨夜は嫌な方の夢を見る日だった。

 

 何度も何度も目が覚めて、うとうとと眠ると再び繰り返される映像。

 今日も一度、自分の声で目が覚めた。きっと、寮の同室の相方のことも起こしてしまっているだろう。なんて謝ろうか…と悩みながら自室の扉を開ける。


 部屋の中はまだ薄暗かった。相方の寝台のカーテンはといえば、閉められたままだ。

 

 どうやら、私の支度の音にも気づかないくらい寝入っているらしかった。私は彼女を起こさないように気を遣いながら、洗面具を棚にしまった。そのまま部屋を抜けて、足音をなるべく立てないようにして寮の廊下を小走りに外に向かう。



 この帝国学院には、二種類の生徒がいる。

 

 ひとつは、もともと帝国に住んでいる人たち。そしてもうひとつは、私のように帝国に支配されている国の支配者階級の子女たちだった。帝国の目指す所は、『王という存在をなくし、平等な世界を作ること』だというが、それはあくまでも建前だということのようだ。

 

 もちろん、表向きには私たちは平等ということになっている。待遇も、学校の規則上でも、違いがあるわけでもない。……が。

 いくつもの、暗黙の了解があるのだ。

 

 例えば、制服の学章の付け方に、ほんの少し違いがあるとか。

 

 ドアを開けるとき、私達が自主的に道を譲るとか。

 

 授業や部活で使った器具を率先して片付けるのは私達の役目だとか。

 

 いやがおうにも『違い』を意識させられるルールたちばかりだ。それらはすべて、強要されているわけじゃない。でも、守らなければ、どうなるのか。

 

 ……どうなるんだろう。

 

 本当のところは、私にもよく分からないのだった。

 まぁ、面倒なことになるのは間違いないし、逆らう理由だって、特にあるわけじゃない。だから、私はそれを受け入れていた。



 ――でも、それって。

 ――人間は、永遠に平等なんかにはなれないってことじゃんね。



 私はそんなことをふわふわと考えながら、運動場へ向かう。

 校内でも一番低い位置にある、海に面した広い運動場の一角に運動場の管理棟があった。

 

「おや、おはよう」


 管理棟の守衛が私に声をかける。私はぺこりとお辞儀をして、挨拶を返す。

 

「おはようございます。第三体育館の鍵、お願いします」


 私は、鍵管理ノートに『刀剣技術研究部 第三体育館』と記入して、鍵を受け取る。

 

「ま、言っても結局は一年の仕事だもんね、これ」


 私は頭をかきながら、準備室へ向かった。


 ――第三体育館、訓練室


「やぁっ!」


 私は、思い切り剣を振るった。部屋の中に木刀を打ち鳴らす音が響く。

 体を動かすのは、好きだった。少し重みのある木刀を握り、振るう。背中の筋肉が軋んで、力が解放される。じわじわと、汗がにじんでくる。

 

 体を動かしている間は、何も考えなくっていい。その時間は、きっと誰にでも平等だ。だから、私はこの部活を選んだ。自分の思いの向くままに、自分の剣を研究する部活。

 

 一通り手合わせが終わったところで、私は額に流れる汗をぬぐいベンチに腰掛けた。

 ふいに、私の頬にぴとりと冷たいものが触れた。

 

「ひゃっ……⁈」


 慌てて振り向くと、そこには主将のセイ先輩が悪戯っぽい笑顔を浮かべて立っていた。手にはお茶の水筒を二つ持っている。


「おつかれ。お茶、飲む?」


「あ、先輩……!」


 刀剣技術部の主将である先輩。

 東方にある国の貴族出身で、私のように……人質として帝国学院に入った。帝都民以外はなることができないと言われている学院の警備隊の地位まで、純粋な努力で上り詰めた実力者だ。


 私はそんな彼にあこがれていた。

 

「練習の調子はどう?」


 先輩は水筒を私に渡してよこし、隣に座った。

 なんだか、ドキドキしてしまう。私は慌てて水筒を開けて、お茶を飲み干す。冷たいお茶がのどを冷やしたが、顔のほてりはおさまった気がしない。ぱたぱたと手のひらで顔を扇ぐ。

 

「刀剣技術研究部は他の剣道部とかみたいに試合に出る訳でもないし、地味だからなかなか新入生が入ってくれなくて……」

「ぼく達の代が引退したら廃部のはずだったけど、キミが入ってくれてよかった。周りに先輩しかいなくてやりにくいと思うけど」


そう言って先輩はくすくすと笑った。


「そういえば、キミはどんな理由でこの部活に入ったんだっけ」


 先輩が首をひねる。そういえば、ちゃんと話したことがなかった気がする。

 

「それは……技術の研究や勉強するの、面白そうだって思ったので。あと、なにより体を動かすのが、好きで……」


私はなんだか照れくさくて髪の毛をいじりながらうつむいた。


「せっかくだから、一度手合わせしようか」


「よーし、負けませんよ!」


私は、とびきりの笑顔で剣を構える。



 ――いつの日からだろうか。私の心の中には、一つの思いが芽生えていた。

 

 いま目の前で剣を合わせている先輩みたいな、かっこよくて強い男の子になりたい。努力して強くなって、誰かを守ることのできる王子様みたいなひと。

 

 私は大切な人を守るために戦うのだ。この体は、魂は、そのためにある。

 いつも、剣の柄を握るたびにそのことを強く感じていた。

 

 自分自身の体に感じている違和感の正体も、それが原因なのかもしれない。だけど私は男の子になるなんてことできない。いくら髪を切って男の子っぽくふるまっていても無理な話だ。それに、このままでは王子様になんて程遠い。

 

 そんなことを考えていると、先輩の剣があっという間に私の剣を弾き飛ばした。

 

 ――ああ、やっぱり勝てないなぁ。


 私は転がっていく木刀をぼうっと眺めていた。


  ***


 朝練が終わり食事を取って寮に帰ると、入寮者表の表示に手紙ありの札がかかっていることに気が付いた。昨夜のうちに、手紙が届いていたのだろう。


 私は手紙入れに入っていた手紙を手に取り、自室へと急いだ。

初の小説投稿です。応援よろしくお願いします!!!


◆今回分かったこと◆

1. 主人公はナスカ・セツ・エイシャ

2. ナスカはまだまだ成長中

3. 学院にはけっこう上下関係がある


このお話の行く先は……ハッピーエンドを目指します!


ということで、ここまで読んでいただきありがとうございました。

まだ慣れていないので、誤字脱字の報告助かります。

もし面白かったらブックマークと広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけると早起きのモチベと作者の健康に繋がります。よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
みずみずしい青春ですね♪
はじめてまして Xとブルスカの方から知り、読ませて頂きました。 だいぶ時間も経ってからの拝見になってしまい今更ながらの感想、気になる点になってしまうのですが宜しければご了承お願い致します。 最初の段階…
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