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戦術の変化

 戦車が初めて投入されたのは、1916年9月の「ソンムの戦い(7月から継続中)」でしたが、印象的な戦果を挙げることはできませんでした。戦車は英仏両軍によって断続的に投入され続け、1917年11月の「カンブレーの戦い」で今までにない数が集中投入されましたが、ドイツの予備部隊が集まってくるとイギリス軍の旗色は悪くなり、カンブレーの戦い全体では連合軍がトータルで土地を失ったとすら言われています。紹介するとき、戦車投入初日の鮮やかな進撃だけが強調されているのです。


 1916年になると、ドイツでもイギリスでもフランスでも、フランスに行った日本軍観戦武官が「戦闘群戦法」と呼んだ歩兵戦術の変化が現れました。第3部分「砲兵の進化と分岐」で触れたように、手榴弾をどっさり持った兵士や、小銃擲弾と使い古し小銃を持った兵士が、小銃を持った兵士と分業するようになり、やがて軽機関銃が歩兵中隊にまで入ってくると、だいたい半個小隊(2個分隊)に1丁の軽機関銃が配備されて射撃支援班のようになり、小銃を持った突撃班を含めて分業チームができていったのです。


 特にドイツ(プロイセン)には、「委任戦術」と呼ばれる伝統がありました。命令に反しない範囲で(いや、しばしば命令違反があったようですが結果オーライ、しくじったら厳罰で)、下級指揮官の裁量を許すのです。どうも指揮官と言っても、もともとは士官までしか考えていなかったようですが、第1次大戦に入って歩兵戦術を模索しているうちに、下士官にも兵にも階級なりに作戦目的を周知させ、それを実現するための自主判断を求めるようになりました。とくに「最前線陣地を独断で引き払って後退する権限を、下士官に与えるかどうか」はドイツ軍内で異論もあったことが知られています。


 無線や野戦電話はまだまだ普及途上ですから、互いに末端は周囲の事情が分かりません。攻撃開始直後には、襲い掛かる側が一方的に友軍の計画概要を知っています。防御側が混乱している短い時間を最大限に使って、攻略に時間がかかりそうな敵は放置して奥に進み、より深いところの敵に接触して戦果を広げろ……とドイツ軍は指導しました。こうした攻撃部隊を突撃隊(StosstruppenまたはSturmtruppen)と呼びましたから、どうしても名を呼ぶならドイツ軍は突撃隊戦術とか呼んだだろうと思いますが、受ける側のフランス軍は、これを浸透戦術と呼びました。正しい情報がすぐには伝わらないことを利用し、わずかな戦力でも深く進んで大きな戦果を挙げる、いわば「(だま)しのテクニック」です。


 しかし1916年にもなると、ドイツが西部戦線で期待をかけたヴェルダン攻勢も失敗し、英仏の弾薬生産も軌道に乗って、せっかく研ぎすました攻撃スキルはしばらく封印となりました。むしろドイツが並行してまとめ上げた弾性防御(柔軟防御)の戦術が、早く失地を取り戻したい連合軍を苦しめたのです。すでに触れたように、この戦術は突撃隊戦術や委任戦術と重なり合うところがありました。


 この戦術の要点は「必要なら退く」という点にあります。できる限り我が布陣情報を隠し、敵の布陣を知る駆け引きがノーマンズランドを隔てて繰り返されますが、敵の砲撃がまず降ってくるようなところに、我が主力は置きたくないわけです。しかし反撃は即時でなければ相手が機関銃を持ち込んで固めてしまいますから、予備隊は多少バクチになるとしても、なるべく前に置きます。そして何重にも防衛陣地を敷いて、反撃が間に合うような工夫をするのです。


 このころのドイツ軍は、守りやすい地形を最大限に利用することを決意しました。逆斜面(ハウスの本では反斜面)と言って、「尾根のこっち側」に陣地を集め、尾根から顔を出した敵は(相手がまだ様子をつかめないうちに)一斉射撃できるようにするのです。そのためにドイツ軍は、なるべくつながった尾根を選び、1917年2月にはその西側=尾根の向こう側から退却してしまいました。そうやって築いた陣地帯がヒンデンブルク線です。2019年の映画『1917 命をかけた伝令』は、この史実を踏まえて、ドイツ軍の後退が罠であると前線部隊に伝え、攻撃を中止させに行くイギリス軍伝令を描いていました。


 通信方法や指揮系統の整理で悩み、苦しんでいるのは、戦車部隊だけではありませんでした。西部戦線の両軍どちらも決定的な成功を得られなかった1917年、戦車は次第にその存在感を増していくことになりました。

 だいぶ古くなりましたが、むかし第1次大戦でのドイツの陸戦戦術について、かなり長い解説を書きました。よろしければご参照ください。


第1次大戦ドイツの陸戦戦術概観

https://seesaawiki.jp/maisov/d/GreatWarTactics

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