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戦車の誕生(2)

 チャーチルがイメージした「鉄条網破砕車」という役割は、現代で言えば、地雷処理車に近いものです。通常の戦闘チームには含まれない特殊非戦闘車両というのが一般的な扱いですが、2024年のウクライナ軍によるクルスク方面侵攻で報じられたように、攻撃開始時にこっそり、しかし集中的に用いられることはあります。


「機関銃座制圧車」は、戦闘チームに必ず含まれる歩兵が対処しにくい、攻撃力(と防御力)を持った相手に対処する兵器です。「歩兵砲」というのも第1次大戦で明確化されていった概念で、この役割を果たす兵器は、車載でもけん引式でもありえます。もちろん対戦車砲が平射歩兵砲を兼ねるのはよくあることで、バズーカ砲にすら非装甲目標向けの弾薬があったのは皆様もご存じと思います。この役割は、しばらく戦車の一部が担いましたが、現代では歩兵戦闘車/騎兵戦闘車がその代表でしょう。装甲目標を貫通する力はなくても、ある程度の射程を持った機関砲などがあれば、この役割は果たせるのです。


 わたくし、「フランス戦車のドクトリン」についてのまとまった著作を見つけたことがありませんで、現物から推し量るしかないのですが、ルノーFT戦車は後から見れば「対戦車能力のない、歩兵支援しかできない戦車」でした。M1897・75mm砲を備えたサンシャモン戦車と並行して開発され、登場したのは大戦末期でしたが、ルノーR35戦車といった役割上の後継者も生まれました。主砲をルノーFTからはずして再利用した例もあったと言いますから文字通りの継承者です。


 ルノーFT戦車の37mmピュトー砲は、砲身の短い軽便な歩兵支援砲でした。サンシャモン戦車はピュトー砲で対応できない目標を相手にすることになり、もしドイツがA7V戦車などをもっと量産できて交戦機会があれば、対戦車戦闘でサンシャモン戦車の役割は大きかったでしょう。そんな未来は訪れず、サンシャモン戦車は直接の子孫を残さず退役して、戦間期も終わりに近づいたころようやくシャールB1がその役目を負うことになりました。


 話をイギリスの菱形戦車、マークI戦車に戻しましょう。スウィントンのアイデアとは少し異なって、オチキス6ポンド砲(57mm)を積んだ「オス」戦車と、ヴィッカースやオチキスの機関銃だけを積んだ「メス」戦車が作られました。「メス」戦車は砲の生産が間に合わなかったためで、作りたくて作ったわけではないようです。6ポンド砲は世界各国で小艦艇の備砲に使われており、フランスのオチキス社のものはそのひとつに過ぎませんでした。第2次大戦で6ポンド砲がどう使われたかを考えると、適切な砲弾の供給があれば、「オス」戦車は仮にドイツ戦車がもっと発達しても、相当な対戦車能力を発揮したでしょう。自分自身が巨大な的であることを考えないことにすれば。


 こうして、低速重武装なマークI戦車やサンシャモン戦車は、塹壕防衛線を打ち破る破城槌のようなひとつのカテゴリを作り出しました。歩兵との協同はもちろん望ましいのですが、敵の砲撃が集中することもあって容易ではなく、しばしば戦車だけが突出してドイツ歩兵に群がられ、あるいはあらゆる火器で反撃され、ドイツ側に捕獲戦車部隊ができるほどでした。


 さて、ここまでわざと、騎兵のことを一切書きませんでした。騎兵の役割を車両に担わせることは、当然多くの人が思いついたことでしょう。そしてマークI戦車が形になっていくと、実戦に出て行く前に、この低速車輛では騎兵のような追撃戦ができないことは明白でした。


 そこでイギリスは、もっと高速で量産しやすい、機関銃だけを積んだ「追撃戦車」をつくりました。マークI戦車が重戦車とみなされたので、新戦車はMedium Mark Aと名づけられ、猟犬の品種名からホイペットという通称をもらいました。その役割を継ぐMark Bの登場は大戦末期となり、Mark Cは戦後になって少数が完成しましたが、Mark Dは大戦中には仕様というより希望性能リストのようなものができただけでした。これをもとに、「もしMedium Mark Dが1919年、まだ続いている大戦に配備されたら」とフラーが書き上げたのが、みんな大好きな「Plan 1919」ですが、その話はいずれ。


 ちょっと先の話までしてしまいましたが、戦車が戦闘チームで果たす役割について、初期の英仏軍は同床異夢のような状態であり、あとから考えると、後に子孫を残した戦車類型=役割類型は、すでに萌芽めいたものがありました。


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