子どもって体力無限にあるよね:8月6日
その1です。
正直言うと、私は前世であまりアクティブな人間じゃなかった。
小さい頃は友達と外で走って遊んだり、ツツジの蜜を吸ったり、トノサマバッタの足に紐を付けて遊んだけど……小学四年くらいにはそういった事は卒業して、絵を描いたりゲームしたりが中心に。
そもそもあまり友達が多くなかった。
クラスメイトとは話すけど、一緒に遊ぶことは少なかった。友達関係は、狭く深くって感じだった。
高校でもカラオケとか誘われたりしたけど、大人数で密室ってのが辛くて断ったり。今思えば、ちょっと感じ悪かったかもしれないな〜なんて。
何が言いたいかというと、私はお家が好きなんですよと。
暑い日に太陽光に焼かれながら遊ぶなんて受け付けませんよと。
「じゃあ次はテラーがまものやくな! おれはぼうけんしゃ!」
「ずるい! ぼくもぼうけんしゃがいい!」
「じゃあオレはドラゴン! さいきょうの!」
「ボクはゆうしゃ!」
あーでもないこーでもない、と騒ぐ男子を私はぼーっと見つめる。
この子達は、私の近所の子供たち。みんなの歳は私と大差ない。精神年齢は違うけど。
簡単に説明すると、ここは同年代の子との関わり合い方を学ぶ、前世で言う幼稚園みたいなところ。
ある程度の社会性を身につけるために私も通わされている。
今は自由時間で、広い校庭でみんなと遊んでいる最中。
ぼうけんしゃごっこで。
いや、別にいいよ?
私も空気読めない訳じゃないし、歳相応の遊びに付き合うのは全然苦じゃないよ?
でもさぁ、こんな暑っつい日に外で遊ばなくてもいいじゃん。
元気過ぎない?太陽に殴られてるようなもんだよ?
建物の中で遊ぶ選択もできるっちゃできる。
でも、周りがそうさせてくれないのよ。
「フィーネちゃん、あついねー」
木陰で一緒に休んでいたセリナちゃんが、チラチラとこちらを見ながらアピール。
「そうだねー」
「あついよねー」
「ねー」
「……」
「……ちょっとだけだからね?」
そう言うと、ぱぁっと顔を綻ばせるセリナちゃん。
私は苦笑いしながら、差し出された手にポトリと小石サイズの氷を落とした。
どこから氷を持ってきたのかって?
魔法です。
氷魔法は、水魔法の温度設定を下げると使えます。
魔法を使うには色々と手順があるけど、まあこれくらいならノータイムでできる。
「ふあーつめたい!」
私のあげた氷をほっぺたに付けてはしゃぐセリナちゃん。可愛い。
私も暑いので、氷を作っておでこに当てた。
魔法マジで便利。
「あー! ズルい!」
「フィーネ! おれにもこおりくれ!」
あ、見つかった。
自分で言うのもアレだけど、私くらいの歳で魔法を使う子はほとんどいない。
だから、みんな私の魔法目当てで群がって来る。でも悪い気はしない。
「ぼうけんしゃごっこおわったの?」
「これからだ! おれがぼうけんしゃで、フィーネはまほうつかい!」
「ボクはゆうしゃだぞ!」
この世界には秘境や遺跡がいっぱいあって、冒険者はそういった所を探索する人々のことだ。
勇者は、魔族というやばい種族の頂点に立っていた、魔王とかいう死ぬほどやばい奴を昔倒した人の事だ。
どっちも子供たちの憧れの的。感覚的に前世で例えるなら、冒険者はY〇uTuber、勇者は……なんだろ……織田信長になりたい、的な?
違うか。
それにしても、異世界系の作品ってよく冒険者が出てくるし、実際にあるんだ!とはなったけど、思ったより普及してないというか。世間からの目はホントにY〇uTuberがドンピシャな気がする。
まあ、危険な所を冒険したり、凶暴な魔物(動物が魔力暴走ってのを起こすとなるらしい)を倒して一攫千金とか、夢はあるけど真っ当に生きる人からすれば「何してんの?」って感じだろうし、仕方ないんじゃないかな。この国の治安を守っているのは騎士団だし。
でも、冒険者って華があるんだよね。子供たちが憧れるのも分かる。
「フィーネ、こおり!」
「はいはい、せんせいにバレないようにね」
「ありがとう!」
集まってきた子らにも氷をあげた。
実は、魔法の使用は先生に禁止されている。
そりゃ魔法には火魔法とか雷魔法とか危ないのもある訳で、大人がそんな魔法も使える四歳児を自由にさせるわけがない。責任能力のせの字もないような歳の子供が、他の子を怪我させるリスクなんて無いのが一番だからね。
だから、勝手に魔法を使うと怒られる。これくらいなら黙認してくれる事もあるけど、火魔法なんて使った日はものすごい説教をくらう。
……あれは怖かった。使った私が馬鹿だったんだけどね。
氷で少し涼んで、冒険者ごっこや校庭の遊具で遊んだ後は、待ちに待った昼ごはんの時間だ。