第五十章 再び地球へ
修学旅行以来の地球来訪。
自室で準備をしているエリス、荷物を詰めたトランクケースの蓋を閉じた。傍から見れば旅行に行くようである。
前に地球に行った時は修学旅行だったが、今回は任務。戦闘になる可能性は高い。
エイリアンが危険なのは身をもって知っている、イヴィルならば危険度は爆上がり。
「一人の犠牲も出すものか」
一人の犠牲者も出さずに戦いを終えるというのは理想論でしかない。しかし、理想とは叶えるもの。
トランクケースを手に自室を出る。
玄関ではアランとシャーロットが待っていてくれた。
「地球のお土産を楽しみにしているわよ」
シャーロットに笑顔で答えて玄関から出る。
いつものように無人タクシーで空港へ向かい、そこから宇宙港へ。いつもと違うのはダイアナとケイシーの隣に見知らぬダンディな男性が立っていること。
ダイアナとケイシーとは待ち合わせをしていたが、ダンディな男性は初対面のはず。
「誰?」
思わず聞いてしまう。
「ボクだよ、ジョナサンだよ」
「ええっ!」
確かに声はジョナサンのものだが、姿がヒトデ型ではなく、人型になっている。
「擬態したんだよ、地球であの姿では出歩けないからね」
ヒトデ型で町を歩き回ったら、騒ぎになること間違いなし。着ぐるみと思ってくれればいいけど。それはそれで問題があるが、宇宙人よりもコスプレイヤーの方が受け入れやすい。
地球行の宇宙船に乗るため、一同は格納庫へ向かう。
格納庫にあったのは三角形の黒い宇宙船。
『なんかステルス戦闘機みたいだ』
それがエリスの抱いた感想。
この三角形の宇宙船はあくまで移送用なので、戦艦の程の戦闘力はない。
ジョナサンに続いてエリス、ケイシー、ダイアナの順番で宇宙船に乗る。
船室は外観とは違い、白をベースとしていて明るい造り。
全員が用意してあった席に着いて数分後、宇宙船は格納庫から飛び立つ。
振動が無く、宇宙を飛んでいることをあまり感じさせない。
向かう先は地球。前世の故郷であり、今世では二回目の来訪。
「何か飲むかい」
ジョナサンが冷蔵庫を開けた。中にはスイーツや各種飲み物が用意されている。
「僕はリンゴジュース」
「私はアイスティー」
「俺は炭酸が入っていれば何でもいいや」
エリスとダイアナとケイシーはそれぞれの好みを注文。
棚にはスナック菓子もあり、乗客たちは好きなだけ飲食してもいい。
壁のパネルを操作すれば画面が浮かび上がり、テレビ番組や映画が視聴でき、音楽を聞くことも。
地球に着くまで、くつろげるようになっている。
ワープを経て地球に到着。宇宙船のステルス機能をONにして機械だけではなく、目視からも見え無くする。
『パーフェクト・ステルス機能とか言えるのかな』
そんなことを心の中で呟いているうちに宇宙船は大気圏へ。
たまに誤作動して宇宙船が見られてしまうことがあり、YouTubeにアップされたりする。
「私が富永です」
「私は炭田です」
二人の男性がエリスたちを出迎えた。二人とも中肉中背であまり目立たない容姿と服装。町で見かけてもあまり印象に残らない。彼らが地球在住のエージェント。
「あちらに車を用意してありますので」
富永が進みだし、皆は付いていく。
「この人たちはボクたちの行動をサポートしてくれたいるんだ。時には隠蔽工作も」
面識のあるジョナサンが教えてくれた。
『MIB、都市伝説じゃなかっんだ』
UFOや宇宙人を見た人たちの所へ現れ、脅して口止めをする男たちの都市伝説。映画にもなっている。最もエリスが見た映画では黒いサングラスに黒服と言ういかにもな出で立ちをしていた。
駐車場に止めてあるのはどこにでもある白のワンボックスカー。運転は富永、助手席には炭田。後部座席にはエリスとダイアナとケイシーとジョナサンが並んで座った。
ワンボックスカーが発車、駐車場を出る。
「並のエイリアンならば我々でも対処出来たのですが、イヴィルとなれば手に余る相手なので」
助手席の炭田が申し訳なさそうに話す。富永も炭田も訓練を乗り越えてエージェントになったのだから、それなり戦闘力はある。
これまでもエイリアンの危機から、地球を護ってきた。
「それで、要請したんですね」
「はい」
前世では地球で生まれ生活していた。生まれ変わっても大切な場所であることには変わらない。エイリアンだろうがイヴィルだろうが、好き勝手にはさせないとエリスは強く誓う。
ワンボックスカーが着いたのは少し表通りから離れた雑居ビルの駐車場。
一階が丸ごと駐車場になっており、エリスたちは二階の一室に通された。
株式会社曙事務所とドアのプレートに書いてはある。部屋の中は机と椅子が四組あるだけで他には何もない。
富永が奥のドアを開けた。白い天井と白い壁と白い床があるだけの狭い部屋。
奥の壁のタイルの一枚を横にずらすと後ろにはスロットがあり、富永がポケットから取り出したカードを差し込む。
音もなく壁が開き、そこにはエレベーターがあった。
先に富永が入り、
「どうぞ」
炭田に促され、エリスたちはエレベーターへ。
スイッチを押す富永。壁が閉まり、続いてエレベーターのドアが閉まって下降。
エレベーターのドアが開き、富永、炭田、ジョナサン、ケイシー、エリス、ダイアナの順番で降りる。
地下では六人のエージェントが働いていた。全員がヒューマン。地球で活動するので目立たないようにしている。
部屋の設備は地球のテクノロジーを越えたものばかり。地上の事務所は目くらましでここがMIBの拠点。
働いている職員たちの間を通って進む。都市伝説や映画のように黒スーツではなく、ラフな動きやすい服を着ていいる。
都市伝説通りの黒ずくめ服装は目立つてしまう。あえてMIBは黒スーツ姿で現れると印象を流すことで、ミスリードしているのだ。
職員の大半が日本人。中にはエリスとダイアナとケイシーにジョナサンをチラッと見る者もいる。ここで働いていると言う事はエイリアンの存在を知っているが、それでも宇宙から来た客人は気になる。戦士であり、さらにまだ少年少女でスペリオルなのだから。ヒューマンに擬態しているジョナサンに関しては独特の姿をしたライパ星人であることは資料で知っている。
「どうぞ」
富永に勧められて入った部屋は会議室。
「お好きに席へお座りください」
当然だと言わんばかりにダイアナはエリスの隣に座る。出遅れたな感じでケイシーは向かいの席に座った。ケイシーの隣にジョナサンが座る。
最後に部屋に入った炭田がドアを閉じた。
エリスたちの見やすい位置に画面が浮かび上がる。映像は軍施設で見たYouTubeと同じもの。
一応、削除はしたものの、コピーした映像がねずみ算式広まっていった。
削除しても再投稿のいたちごっこ。
「地球の日本の海にエイリアンが確認された。形状からしてイヴィルの可能性が高い」
富永は一旦、間を置いてから話を続ける。
「ここまでは既に聞いている情報だろう」
その通りなので思わずケイシーが頷いた。
「本格的な海水浴シーズンが来る前にエイリアンを処理したかったのですが、今年は暑くなるのが例年よりも早く、もう海水浴シーズンが始まってしまったんです。また、あのYouTubeの映像を解析して場所を特定、面白半分に訪れる人もいましてね。現場にはかなりの観光客が来ています」
富永がそこそこの観光客のいる海水浴場の映像に切り替えた。純粋に海水浴目的で来た人やUMA目当ての人もいる。
『特定班、しっかり仕事しているんだな』
とエリスは内心、そんなことを思っていた。
「皆さんには海外からの観光客を装ってもらいます」
これだけの観光客がいる中、極秘裏に活動するのは難しい。ならば観光客に紛れてしまえばいい。
「一応、目撃者の記憶は消すことが出来るので、気を張ることなく調査に専念してください」
『ニューラライザーもあるんだ』
映画に出ていた目撃者の記憶を消す、ペン型の道具も本当にあった。
「では、皆さん、こちらへ」
炭田に更衣室に案内された時、エリスはまたも嫌な予感がした。
三角形の黒いUFOは見たことがあります。




