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第三章 入学式

 12歳になったエリスくん。

 なり、エリスは軍学校に入学。

 フェガヌが襲撃された時から、この日のために学習と鍛錬を続けてきた。もうエイリアンの悲劇を生み出さないために。


 校内を歩く新入生の中にダイアナの姿を見かけた。

 家族を失ったダイアナは伯父と暮らすことになった。暮らし始めた頃こそ、重く沈んではいたが、エリスやアランやシャーロットや伯父たちの支えもあり、今は立ち直って元の明るさを取り戻すことことが出来た。

 そしてダイアナもエリスと同じ道、エイリアンと戦う道を選ぶ。

 知らない人ばかりの校内で知り合いがいると、強い支えになる。

 ダイアナもエリスに気が付いて駆け寄ってきた。

「一緒に合格できてよかったね、エリス」

「うん、そうだね」

 入学するには試験があり、2人とも無事に合格できた。特にエリスは二位の成績。

「ひあっ」

 突然、エリスが変な声を上げた。

「顔も可愛いけど、プリプリお尻も可愛いな」

 いきなり見知らぬ少年にお尻を触られたのである。

「こんな可愛い女の子と同学年になれるなんて、俺はラッキーだな」

 爽やかな笑顔で挨拶する少年の顔面に、

「僕は男だ!」

 思わずパンチをねじ込み、鉄拳制裁。

 ぶっ倒れる見知らぬ少年。

 ついやってしまった、どうしようと思っていたら、

「第2位がどんな奴かと思って身に来たら、薄汚いヒューマンではないか」

 唐突に背後から嫌味を言われた。

「その上、乱暴者ときている。所詮は下賤の出身だな」

 背後を見てみれば、少年は侮蔑を込めた目でエリスを見る少年が四人の取り巻きを連れて立った。特徴的なのは尖った耳、取り巻きの耳も尖っている。

「エルフ」

 前世ではファンタジー世界の住人でしかなかったエルフは、対エイリアンを目的に同盟を組んだ星レーフォの住人として実在している。

「私の名前はフィリップ・カディオ。いずれはスペリオルになる男だ。覚えておきたまえ」

 フィリップの言葉には自身に対する絶対の自信と、他人に対する完全な蔑みが隠すことなく発せられていた。

「お前たちなぞは、せいぜいノーマルかスチール、頑張ってビーストが関の山。身の程を理解しておくんだな、ヒューマン共め」

 言いたいことだけ言って鼻で笑い、去っていくフィリップと取り巻きたち。

「エルフはプライドが高いと聞いてはいたけど……」

 あれはプライド以前の問題だろう。初対面にも関わず、エリスは決して好感を持てない相手だと思う。

「いけ好かない奴だな」

 エリスに鉄拳制裁を受けた見知らぬ少年が呟く。

 ダイアナが手を差し出して助け起こす。

「ありがとう」

 立ち上がった見知らぬ少年の耳元で、

「今度、エリスのお尻を触ったら私の蹴りがあなたの顎を砕くわよ」

 ダイアナは囁いた。

「本当にすまなかった!」

 素直に謝って、頭を下げる。

「あの……」

 頭を上げながら、エリスとダイアナを見る。

「できれば名前を教えてくれないかな、俺はケイシー・エイムズって言うんだ」

 名前を聞いたので先に名乗る。

「僕はエリス・リーン」

 相手が名乗ったので自然の乗った。この世界で身に付いた貴族のたしなみが自然と出た。

「私はダイアナ・キブソン」

 エリスにつられ、名乗る。

 見知らぬ少年、ケイシーはエリスとダイアナを交互に見つめ、頭を掻きながら何か言いにくそうにしていたが咳払い一つ。云わないで後悔するよりも言って後悔する方がいい。

「さっきはあんなことしちゃったけど、君たちとは仲良くしたい」

 ダイアナは訝しげに見ていたたけど、エリスはそれ程悪い奴ではないと思った。少なくてもフィリップよりはまし。

「二度とあんなことをしないなら」

 ばつが悪そうな顔をしたケイシーを見て、先ほどの言葉に下心は無いと感じさせた。

「エリスが認めたなら」

 エリスが認めた人物なら、ダイアナも認めることが出来る。

 学校生活で友達は多い方がいい、それは星が違っても同じ。


「新入生の皆さん、私が校長のエックハルト・デーニッツです」

 ずんぐりむっくりだががっちりとした体格の校長、エックハルトも前世ではファンタジー世界の住人であったドワーフ。

 優しそうなお爺さんと言った顔だけど、歴戦を潜り抜けた英雄としての気質はエリスは感じ取っていた。

「エイリアンとの戦いは大変過酷なものですが、皆さんなら無事に乗り越えられと私は信じております」

 講堂での入学式。集まった新入生たち、人間であるヒューマン以外にもエルフにドワーフ、リトルグレイやレプティリアンなど地球で話題になった者も見受けれれる。

「校長がドワーフだと、反吐が出そうだ」

 小声で吐き捨てているのは、やはりフィリップ。取り巻きのエルフたちも嫌な顔をしている。

 お前らこそ、反吐が出そうだと言いたがったが、今は我慢しておく。折角の入学式を台無しにはしたくない。

「皆様に宇宙の女神のご加護があらんことを」

 エックハルトは宇宙の女神に祈りを捧げる。新入生たちも祈りを捧げたが、フィリップと取り巻きたちは祈りを捧げとはしない。周囲のみんなが捧げているのに。

 正面を向いて、頭を下げる動作。フィリップは他者に対して頭を下げること、ましてやエルフ以外に頭を下げることが嫌なのだ。


 エリス、ダイアナ、ケイシーは同じ1年A組に。

 教室で待っていると、担任の教師が入ってきた。

 口笛を吹きそうになるのを何とか堪えたケイシー、

「何、鼻の下を伸ばしているの」

 鼻の下を伸ばすことは堪えることが出来ず、ダイアナに突っ込まれる。

 それほどに教室に入ってきた教師は美女であった。プロポーションも抜群で絵にかいたような出来る美女。

 尖った耳から、エルフであることが解る。

 フィリップみたいな性格なら、そんな教師に一年間もお世話になるのは嫌だなとエリスはつい思ってしまう。

「私はローズモンド・アレンビー、諸君たちの教師だ」

 大きくはないが堂々と響きわる声で名乗る。

「校長はああ言ったが、信じられて生き残れるほどエイリアンとの戦いは甘いものではない。弱い奴や油断すれば、即時死が訪れる」

 ここで一度、言葉を切り教室にいる新入生たちの顔を見る。その眼差しにはフィリップのような他者を見下す意図は微塵も感じさせない。

「だからこそ、私は諸君たちを鍛え上げる! エイリアンと戦っても生き残れる強者に。一切容赦するつもりはないないから、覚悟しておけ」

 見た目の美しさからは信じられない荒々しい発言に教室にいた新入生は唖然となっいた。

 初対面だがローズモンドの言動から、エルフでもフィリップとは全く違う性格なのはよく分かった。


 本格的な授業は明日から。

 下校前、

「昼食を一緒に食べないか、今朝のお詫びに奢るかにさ」

 とエリスとダイアナはケイシー誘われた。あんなことをやったと言うのにもう友達のように接してくる。

 図々しいと言えばそれまでだけど、嫌な気持ちを持たせることはなく、奢ってくれるならばそれはそれでいいかと。

「解った、一緒に食べよう」

 誘いに応じる。憎めない奴と言うのはケイシーのようなタイプなのかも。

 ほんの少しだけダイアナは警戒をしたが、エリスが一緒に食べることにしたのなら、まぁいいかな気持ちで共に食堂へ。


「すげえ、先生だったな」

 食後のお茶を飲みながら、ケイシーは率直なローズモンドの感想を述べた。

「でも間違ったことは言っていない」

 ダイアナの故郷であるフェガヌは滅ぼされた、エイリアンによって。だからこそ、解ることもある。

「その通りだと僕も思う。エイリアン(あいつら)は慈悲の心は持ってない」

 まだ子供だったジョニー、アルビン、ビリー、ネイサンを見逃してくれなかった。フェガヌにい生きとし生けるもの全て滅ぼしてしまった。

 エイリアンに滅ぼされた星は1つや2つではない、数知れない星が滅ぼされている。

「直接、エイリアンとかかわったことのない俺でも、連中の凶悪さは知っているからな」

 軍学校に入った以上、それぐらいの知識を持っていて当然。また入学した生徒の中にはダイアナのようにエイリアンの被害者もいる。

「でもまぁ、俺たちは本気で出来ることをやり抜くだけだよ」

 エリスもダイアナもケイシーに同意見。

 初めて会った時には軽そうに見えたけど、物事の芯は捉えている感じ。

 ガッシャーン、いきなり物の壊れる音が聞こえてきた。何事かとエリスとダイアナとケイシーが音のした方向を向く。

「私の前を歩くんじゃない」

 侮蔑たっぷりの目でフィリップと取り巻きが倒れているドワーフの少年と見下ろしている。床の上にはトレイと食器と昼食が散乱。

「ただ昼食を運んでいただけなのに……」

 抗議を試みるドワーフだったが、

「下等なドワーフが私の前を歩くだけで罪になるのさ」

 さらに侮蔑の言葉を叩きつけるフィリップ、くすくす笑っている取り巻き。悔しそうにドワーフの少年は涙目になる。

 どうやら昼食を食べようとしていたドワーフの少年を前を通り過ぎたと言う理由だけで、取り巻きが突き飛ばしたのだ。

 何か言ってやろうとエリスが立ち上がろうとするよりも早く、

「いい加減にしろ!」

 ケイシーが立ち上がった。

「ヒューマンが何を偉そうに」

 フィリップが見せた他者を馬鹿にする笑み、エルフの端正な顔なのに嫌な印象を与えるに十分すぎる。取り巻きも浮かべる同じ笑み。

「お前がそんなに偉いのか」

 声を荒げることなく、言い放つ。

「試してみるか、愚かなヒューマン」

 嫌な笑みをより嫌なものにする。

「喧嘩を売るってなら、買うぜ」

 右で作った拳を左掌に打ち付ける。

 ふんと鼻で笑うフィリップは、

「ノオ・モロエ・モロエ・ホー」

 呪文を唱え出すと重ね合わせた掌の間に炎が生成し始める。エルフの特徴、それは魔法が使えると言うこと。

「何をしている!」

 食堂に教師たちが入ってきた。

 舌打ちしてフィリップは魔法を詠唱を止めると、掌の間生成し始めていた炎も消える。

「大したことありません、ただ身の程知らずに身の程を教えようとしただけですよ」

 それだけ言い残し、取り巻き共に食堂を出ていく。

「入学早々、騒ぎを起こすんじゃない」

 入学式直後なのでこれだけにとどめて置いた教師たち、初日は大目に見てあげよう。

 エリスとダイアナは床に散乱する食器や昼食の片づけを手伝う。

「ありがとう、俺はギード・バッハマン。整備士を目指しているんだ」

 ドワーフの少年が名乗る。

「僕はエリス・リーン」

「私はダイアナ・キブソン」

 それぞれ名乗る。

「俺の名前はケイシー・エイムズ」

 ケイシーも片付けに参加。

「俺が整備士になった暁には、今日のお礼に君たちの機体を整備さしてもらうよ」

 このセリフにはそれぞれの目的が叶うとの意味が込められていた。

「ああ、しっかり整備してくれよな」

 それに笑顔で応じるケイシー。フィリップの笑顔とは違う親し気な笑顔。

 最初こそ、あんな出会い方をしたが今はエリスもダイアナもケイシーに好感を持ち始めていた。



 軍学校の生活が始まります。

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