第四十五章 エイリアンの“置き土産”
未経験の敵。
亀のような宇宙船が飛び立った。しばらく宇宙を飛んだ後、ワープ空間に入った頃を見計らったように、
『全員、会議室へ来い』
余計なことは何も言わないジェイニーの簡潔な放送が入る。エリスとダイアナとケイシーは会議室へ。
これまでの戦艦の会議室よりも狭いが、窮屈感は感じさせない広さはある。
何度か修復した跡のある椅子にエリスとダイアナとケイシーは並んで座った。見た目に反して頑丈。
指令では今回の戦闘は宇宙戦ではなくデリングビッドでの戦い。エイリアンは既に姿を消しているが“置き土産”があり、これがかなり危険だと。ただ“置き土産”に関してはシークレット扱いで、ここで知らせられる。
明かされた情報だけでも、従来のエイリアンとの戦いではないことは解る。そのことを理解したうえでエリスとダイアナとケイシーは任務に参加した。
デリングビッドは鉱物資源が豊富な小型の星で多くの人が生活している。これらの情報はネットを検索しても出てくる。
会議室に入ってきた男たち。全員が荒くれ者や海賊みたいな様相、船に来た時に出会った男たちの姿も。
どうやら、この船に乗っているのはこんな風体の奴らばかりのようだ。
会議室の正面にジェイニーが立つ。
「向かう先はデリングビッドのルーマトゥ地区。こいつらが今回の敵、エイリアンの“置き土産”だ。しっかりと見とけ」
マイクを使わなくても声が会議室全体に聞こえる。大きいというより、聞こえる声と言う表現がピッタリ。
それぞれの目の前に画面が浮かび上がり、映像が映し出される。
「何これ」
ダイアナの口から言葉が漏れ出す。
「ヒューマノイドタイプ。いや、違う」
再度確認するためにも映像を拡大して見直すケイシー。
形的に言えばヒューマノイドタイプだが身長は2mも無く、その姿はエイリアンと言うより……。
「これって……」
エリスには映し出されたものに見覚えがあった。今生ではなく、前世で。と言っても直接見たわけではない、映画や漫画などの創作物で見たことがある。
『ゾンビだ』
心の中で呟く。
浮かび上がる画面には薄暗い路地をふらふらと徘徊する大勢の人が映っていた。姿形は人ではあるが、生気のない青白い顔、見開いたま瞬きしない眼は知性を感じさせず、中には体を損傷しているのもいる。服は血で染まっていても、もう出血はしていない。
戦場を駆け巡った経験のある兵士ならば見たことがある、こいつらは死体だ。
常識では死体は動いたりはしない。だが、画面にはぞろぞろと動く死体が映っているではないか。
「オイオイ、冗談なら質が悪すぎるぞ」
強面の顔色が良くない。無理もない、あまりにも異常すぎる光景。
「見ての通り、“置き土産”は死体だ。ドローンに確認させたが、生命活動はしていない。“置き土産”らは死体の分際で動き回っている常識を忘れちまった連中だ。こいつらが今回の駆逐対象。未知の化け物に襲われ、こうなった。こんなことは前代未聞の出来事。“置き土産”は生きている人間を見つけると襲い掛かって来る。集団でな」
これまでエイリアンに負ければ、待っているのは死。なのに死んでさえも動き回り、生者を襲う。
前代未聞の出来事に偽りはなし。
「“置き土産”の身体能力は大したことねぇ、攻撃も噛みつきと引っかきなどの原始的なものばかり」
それなら、エイリアンに比べればましな方かと、みんなが思いかけた矢先。
「ただな、一番気を付けなくてはならないのは“置き土産”に噛まれたら、“置き土産”と同じになっちまうことだ」
とんでもない爆弾を落とした。
それを聞いた強面の顔色がさらに悪くなる。戦場で戦うからには、いつも死とは隣り合わせ。その覚悟が出来て兵士になっても、死んでも動き回る覚悟は出来ていない。
『やっぱり、ゾンビだ』
ゾンビに噛まれたら、ゾンビになるのはゾンビ作品のお約束。口に出して言うと、いろいろややこしいことになるので心の中だけでとどめておく。
「どうした、テメーらビビッているのか?」
会議室にいる部下たちを見回す。その通りなので誰も何も言い返せない。
「おいおい、こんなの動いているだけの死体じゃねぇか。こんなのに怯えるなんて、テメーら玉付いてるのかよ」
前は付いていたのが一人いるが、今はどうでもいいこと。
「今までどれだけのエイリアンをぶっ殺してきた。やることは変わらないんだよ、噛まれないように死体をぶっ殺す。ただ、それだけだ」
会場全体に聞こえる声が兵士たちの心に火を着けた。
「姐さんの言うとおりだ」
「死体にびびってたら、戦場で戦えやしねぇ」
「やってやるやるぞ」
「そうだそうだ!」
一人が声を上げ拳を振り上げてたのをきっかけに、次々に拳を振り上げて行った。
「何か、何かローズモンド先生を思い出すな」
ケイシーにエリスとダイアナは共感。
ホラー映画のお約束。




