第三章 ダイアナとデート
デートになるのかな。
椅子に座りVRヘッドギアを被っているエリス。空中に浮かんだスクリーンを見ているアラン。VRヘッドギアを装着しているからと言ってもゲームをしているわけではない。
仮想空間でコクピットに座り、向かってくる敵を撃ち落とす。五感を仮想空間にフルダイブさせているので、その体感まるで現実のよう。
撃墜されることもあるが仮想空間なので死ぬことはないが、その際に受ける衝撃は結構リアル。人によっては乗り物酔いの状態になることも、慣れればならなくなるけど。
前世で趣味だったシューティングゲーム。コクピット視線もやったことがあり、その時の経験が役に立ってくれた。
VRヘッドギアを外し、一息吐く。
「ほう、今回も無傷で敵を全滅させたか」
スクリーンで戦果を見ていたアランは感心。
「10歳でこの成果、もしかしたら、お前は宇宙の女神に祝福されているのかもな。これなら私や父や祖父がなれなかった“スペリオル”になれるかもしれん。いや、これは親バカか」
口では親バカと言いながらも期待されていることが、ひしひしと伝わった来る。
その気持ちは解っても前世の記憶をしっかり持っている身では戦争は出来るだけ避けたいなと、この時は思っていた……。
部屋に戻ったエリスは本棚から、一冊の“処置”に関する本を取り出す。
一度、勉強したことも復習を行う。こうやって知を深めていく。
軍学校を卒業後、“処置”を受けることが出来る。
“処置”を受けるために肝心なのが才能や資質や適性や耐性など。
才能や資質や適性や耐性などがなかったり本人が“処置”を望まなければ、生身のままのノーマル。ノーマルでも出来る者は出来る。
本人の希望や戦争で体の器官が損傷した場合、耐性があればサイボーグ化施術を受けることが出来る。これがスチール、父親のアランも該当。
スチールの上位になるのが肉体強化改造施術、また他の生物の能力を移植する場合もある。これがビースト。
最高位で究極とされるのがスペリオル。軍学校に入学した者なら、誰も彼もが憧れて目指す。
スペリオルとは精霊と融合し、超人となった者のこと。身体能力はスチールやビーストを遥かに上回り、精霊の力が使えるようになる。
また精霊によっては生身で宇宙空間を行動が出来るようになったり、老いを克服することも。
勿論、簡単になれるものではない。才能、資質、適性、耐性に軍学校での鍛錬で心技体の全てを鍛え上げる必要がある。そして何より、精霊に選ばれなくてはならないのだ。
選ばれたとしても融合に耐えられないと、精神や肉体が破壊されてしまう。
毎年、1人か2人がスペリオルになれればいい方、1人もなれないのが普通だと言っても過言ではない。
胸ポケットに入れたカード型スマホが振動したので出てみると、
『ヤッホー、エリス。私だよ』
「ダイアナ」
相手はダイアナであった。
『今ね、伯父さんの買い物に付き合ってラースに来ているんだよ。時間があったら、会えないかな……』
言葉の端々から、伝わってくるドキドキした気持ち。
スマホで時計を確かめてみれば、まだ昼過ぎで時間は十分にある。今日の特訓も学習も終わっているし、父親も相手がダイアナなら許可してくれること間違いなし。
「解った、待ち合わせは何処にする?」
予想通りにアランは許可してくれた。
大喜びで準備しているエリスの姿を見たアランとシャーロット。
「デートとは、エリスも一人前の男の子だな」
「あなたったら、まだエリスは10歳なのよ、遊びみたいなものでしょ」
そう言いながら、両親はエリスを微笑ましく見ていた。
「エリス~、ここだよ~」
待ち合わせの駅に行くと、ダイアナが待っていて大きく手を振っていた。
待った、今来たところだよと、まずは地球でも定番の会話を交わして街の散策を開始。
「あのね、お兄ちゃんは用事があるから、来れなかったんだ」
「ジョニーにも会いたかったな。みんなは元気にしてる?」
「元気も元気、元気すぎるぐらいだよ」
「そうなんだ」
女の子と遊びに行くなんて、前世も併せてエリスには初めての経験。一応、漫画やラノベやアニメの記憶は残っているので応用することに。
デートと認識すると真面に思考が出来なくなりそうなので、ただの遊びと自身に思い込ませる。
ラースで生まれ育ったので見どころは幾つも知っているのでダイアナを案内し、またスマホで調べた楽しそうなスポットを見て回る。
楽しくて楽しくてダイアナは大喜び、テンションもも高くなる。
そんなダイアナと一緒いるうちに、自然にエリスのテンションも高くなっていく。
ポケットの中のカード型スマホが振動したのでダイアナが取り出す。
「もしもし」
『ようダイアナ、デートの進行具合はどうだ』
電話の相手はジョニー。
『折角気を利かせたんだから、思いっきり仲を進めるんだぞ』
たちまち顔が真っ赤になるダイアナ。
「お、お兄ちゃんのバカ―!」
思わず言葉が飛び出す。
「電話、ジョニーだったんだ。何の話していたの?」
エリスが聞くと、ダイアナの顔の赤さがさらに増す。
「ななななな、何でもないです~」
こっそりカード型スマホを背中に回し、通話を切る。
日が傾き、エリスの帰る時間がやってきた。ダイアナは伯父さんと一泊して明日にはフェガヌに帰る予定。
寂しそうに俯いているダイアナ。
「来年の夏にはフェガヌに行くから、その時、遊ぼう」
エリスに言われた途端、ダイアナは明るい顔をパッと取り戻した。
「ジョニーたちも一緒に」
“ジョニーたちも一緒に”その言葉に、ダイアナは口を尖らせる。
前世の記憶を持っていても、恋愛の経験は無かったために鈍いエリスであった。
帰宅して夕食を済ました後、今日も勉強を始める。
モニターを開く。今日の勉強の内容は宇宙の研究。
地球でも宇宙の研究をやってはいたが、この宇宙世紀の世界は知識のレベルが圧倒的。地球が得ていた宇宙の知識は無限に広がる大宇宙に対し、ささやかなもの。
ふと思い付き何気なく地球のことを検索してみたら、なんとヒットしたではないか。
興味を引かれたエリスは早速、見てみる。
地球と呼ばれている太陽系の第三惑星。辺境に該当する惑星であり、知的生命体が生存していて文明を築いているが、我々の文明と正式に接触するレベルには達していないと判断されている。
ただ過去に何度か接触したことはあり、幾つかの国とは試験的に僅かな交流したことがある。
「UFOや宇宙人を見たや、アメリカが宇宙人と密会したと言うのはそれほど与太話じゃなかったんだ」
モニターのスイッチを消した時、何やら外が騒がしくなっていることに気が付く。
部屋を出てみると、何やらバタバタしている使用人たち。
使用人の1人を捕まえ、何があったのか聞いてみた。
「フェガヌがエイリアンに襲撃され、壊滅したそうです」
「!」
聞き終えた途端、父親を捜す。父親なら、詳しい話を知っているはず。
心のどこかで、エリスは誤報であってくれと願う。
父親のアランは玄関ホールにいて、使用人たちと何やら話をしている、醸し出している雰囲気がヤバイ、嫌な予感しかしない。
階段を駆け下り、
「フェガヌがエイリアンに襲撃されたと言うのは、本当なんですか」
問われるなり、辛辣な顔になるアラン。その表情で解った、本当なんだと。
すぐにダイアナの元へ向かおうとするエリス。
「明日まで待て」
そんなエリスをアランは止めた。
「ダイアナを放っておけないよ」
フェガヌが壊滅したのなら、ダイアナの家族は……。それを思うと居ても立っても居られない。
「解っている」
アランの顔はエリスと同じ思いだと言う事を教えてくれた。
「今夜はそっとしておいてやりなさい」
頭の中が冷静になっていく。今すぐにダイアナに会って何が出来と言うのだろうか? アランの言っていることは正しい、今夜はそっとしてやるべき。
アランに今夜は寝なさいと言われたので一礼して部屋に戻ったが、一睡もできなかった。
朝が来て、より詳しいフェガヌの情報が入ってきた。それは生存者は0と言う絶望的なもの。
エリスはすぐに車でダイアナに会いに行く。自動運転なので1人でも行けたが、アランは一緒に来てくれた。
昨夜は眠れなかったのに、車の中でも少しも眠くならなかった。心の中に渦巻く重苦しが睡魔に勝っているから。
ダイアナの泊っているホテルに行くと、伯父と一緒にロビーにいた。
エリスの姿を確認するなり、抱き付き胸に縋り付いて泣く。
アランはダイアナの伯父と辛そうな顔をお互いに見合わせた。今は黙って見守る、それが大人の判断。
エリスの胸で泣き続けるダイアナ。
ジョニー、アルビン、ビリー、ネイサン、彼らと過ごした夏の日々を浮かび上がってくる。どれもこれも楽しい思い出だった。
悲しみがこみ上げてくる。
前世では平和な日本で過ごしていたエリス、戦争は出来るだけ避けたく、軍学校行くのも正直乗り気ではなかった。
でもこの時初めてこれ以上、エイリアンによる悲劇を起こしたくないと思った。二度とダイアナのような思いを持つ者を出したくないと。
では自分にできることは何か……。
異世界転生ではなく、異星転生でした。
最初は異世界転生にしようと思ったのですが、宇宙が舞台なら異星転生でいいかなとこのような形に。
異星転生なら、地球も出そうと思って出しました。
ちなみにUFOを三回見ました。三回目には二種類の未確認飛行物体を一度に目撃。