第三十五章 再会
二回目の実戦へ。
宇宙港にやってきたエリスとダイアナ。
エリスが来ているのは男用の軍服を着やすいようにシャーロットが仕立て直してくれたもの。母親の愛が込めれているようでピッタリで心地よい。
「よう」
先に来ていたケイシーがベンチから立ち上がる。
三人が揃うのは砂漠の惑星以来。色々話したいこともあるが、まずは格納庫へ向かう。
エリスとダイアナとケイシーが入った格納庫には赤い色の戦艦があった。三人とも赤い色の戦艦には見覚えがある。
「久しぶりだな」
声をかけてきたのは初めての実戦の時にお世話になったオーギュスト。彼はサラマンダーと融合したスペリオルであり、ダイアナと同じエイリアンに滅ぼされたフェガヌ出身。
「三人ともスペリオルになれたようだな――」
エリスの所で目線が止まる。流石に女の子になっていることには僅かながらも驚きを見せる。
「後悔しているか?」
問われたエリスは首を横に振る。思うところはあるが後悔はしていない、自分で選んで進んだ道なのだから。
「得るものがあったのだな」
今度は上下に頭を動かす。ダイアナもケイシーも同じく頭を上下に動かした。
「そう、それでいい」
そう言い、戦艦のタラップを上がっていく。エリスもダイアナもケイシーも後に続く。
艦内は初めての実戦の時と変わっていない、しっかりと手入れと掃除が行き届いていることが見て取れる。
「前に乗船した時からあんまり時間たっていないのに、何か久しぶりって気がするな」
回りを見回しながらケイシーが言う。前にあったことのある兵士が顔を合わせると、挨拶してくれる。
「それはな、君たちが以前に乗った時より成長しているから、そう感じるのだよ」
なるほど、そうだったのかと、エリスもダイアナもケイシーも納得。
ケイシーの部屋は前回と同じだが、今回、エリスはダイアナと同室。理由は言うまでも無く、女の子になったから。
やがて戦艦が飛び立ち、ワープ航法に入ったところでエリスはダイアナはケイシーの部屋へ行く。
以前は一人部屋のダイアナがエリスとケイシーの部屋に遊びに来たが、男子が女子の部屋に来るのは抵抗があるだろうとの気遣い。
トムの戦艦てはやらなかったカードゲームを今回は遊ぶことにした。あの時はダイアナがエリスと二人きりを楽しんだので、今日は三人もいいかなと思ったから。初陣の後、パーティでも一緒だったし。
前は大富豪に似たゲームで遊んだが、今回はポーカーに似たゲーム。
ただでは面白くないと言う事で、三人が持ち込んだおやつを賭けてゲームを行う。
勿論、各々の持っているスペリオルの能力は使わないこと決めての勝負。
エリスとダイアナとケイシーの賭けたおやつはそれぞれの前を行ったりきたり、増えることもあれば減ることもある。軍学校三年を共に過ごした仲だけにお互いに手の内は読みやすい。
窓の外の景色がワープ空間を抜け出したことを教えてくれた。
三人はゲームの手を止める。ほどなくして、
『兵士たちは会議室に集まるように』
短くも簡潔な放送が入る。
「行こうか」
「うん」
「ああ」
エリスにダイアナとケイシーが答えた。後片付けをしてから、三人は会議室へ向かう。
初めての実戦の試練は入ることの無かった会議室。青を中心とした色の内装、机も椅子も木製でほんのり木の香りが漂う。ここが戦艦の会議室とは思えないぐらいの落ち着きを与えてくれる。
エリスにダイアナとケイシーは席に着く。
続々と会議室に入って来る兵士たち。中にはエリスにダイアナとケイシーに挨拶する者も。一瞬だけ、エリスが女の子になっていることに驚く者もいたがすぐに平静さを取り戻す。何年も軍人をやっているだけはある。
雑談している兵士もいたが会議室にオーギュストが入ってきた途端、雑談を止めて姿勢を正す。釣られる形でエリスにダイアナとケイシーも姿勢を正した。
「まずは見たまえ」
それぞれの目前にスクリーンが浮かび上がり、宇宙空間を映し出す。そこには大量の昆虫のタイプのエイリアンが漂っている。
「エイリアンの群れが惑星ウキトテに向かっている。この星には一億もの民が住んでおり、エイリアンが襲撃すればかなりの犠牲が出ることになる」
宙に浮かぶ、それぞれのモニターに惑星ウキトテの情報が映し出された。
「我々の今回の任務はエイリアンが惑星ウキトテに到達する前に殲滅こと」
簡潔に告げる。それは戦闘機に乗って戦うと言うこと。シミュレーションや練習機による模擬戦、軍学校で散々訓練を行った。最後の試練の時は見物した宇宙戦。
前世ではシューティングゲームで何度もエイリアンと戦闘機で戦った。だが今回は本番で自分たちが戦闘機に乗って戦う、練習機ではない本物の戦闘機で。
ごくりと思わず生唾を飲み込むエリス。
初陣は砂の惑星での戦いだった。今回は宇宙空間での戦い。全くと言っていい程の畑違いの戦いになる。
でもやることは砂の惑星と変わらない、勝利して生きて帰る。一人だけではなく、みんな一緒に。
会議が終わり、エリスとダイアナとケイシーは部屋に戻った。休憩は短い、時間が来れば格納庫へ赴き、戦闘機に乗ることになる。
エリスもダイアナもケイシーも解っている、軍学校の授業で学んだことと違い、これから行うのは本番だと。
かと言って軍学校で学んだことは無意味ではない、糧となり知識となり力となって体と知識にしみ込んでいる。自分たちのやることは軍学校で学んだことを無駄にしないことなのだ。
『兵士たちはパイロットスースに着替え次第格納庫へ集合、兵士たちはパイロットスースに着替え次第格納庫へ集合』
戦艦が戦場に到着した合図。三人は顔を見合わせ、お互いの意思が揺らいでいないことを確認すると更衣室へ向かう。
「あっ」
ダイアナと共に更衣室に来たエリスは戸惑った。目の前にあるドアは女子更衣室のもの、プレートにもしっかりと『女子更衣室』と書かれている。
幾ら体は女性でも心は男性。こんなシチュエーションを喜ぶ作品もあるが、エリスは嬉しくないし入り辛くて仕方がない。精霊殿やかダイアナと一緒に着替えしたことはあるが、女子更衣室には集団がいるのだ、状況が違う。
まかさ宇宙戦の前に、こんな壁があるなんて……。
「何してるのエリス、入るわよ」
エリスの気持ちを知っているのか知らないのかダイアナはエリスの手を掴み、強引に女子更衣室に連れ込もうとする。
「ちょっと待って、僕は心は男なんだよ」
「私は気にしないわよ」
「僕が気にするんだ」
抗議は虚しく、エリスは女子更衣室に連れ込まれてしまう。
女子更衣室の中ではヒューマンにエルフにドワーフにリトルグレイにレプティリアンなどの様々な種族の女性が着替中。入ってきたエリスとダイアナを気にすることは無し、見た目は女の子の二人なので。
この場をパラダイスと感じる者もいるかもしれないが、エリスは目を瞑って壁際を向く。
これでは着替えもままならない。そんな中、そっとダイアナはエリスの前に立ってくれる。
なんだかんだ言いながらも、ダイアナはエリスの壁になってくれて他の女子から見えないように見ないようにしてくれた。
ダイアナに感謝しつつ、素早く着替えるエリス。
着替え終わったエリスとダイアナ、
「着替えでこんな思いをする日が来るなんて……」
「女の子になったんだから、これからも女子更衣室で着替えなくてはならないわよ」
「それはそうだけど」
軍人になったのだから、エイリアンとの戦闘前に女子更衣室で着替えることがこれからもあるだろう。頭では解っていても心で引っかかるものがある。
「要するに慣れよ、慣れ」
「確かに慣れればいいんだけど、時間はかかるだろうね」
ヘルメット片手に、雑談しながら格納庫へ。
「お久しぶりです、卒業式以来ですね、エリスさんダイアナさん」
格納庫にはドワーフのギードがいた。
「この戦艦に派遣されていたんだね」
「はい」
元気よく、エリスに返事する。整備士になりたいという夢をかなえたギート。
「おっ、ギートじゃないか」
格納庫にケイシーがやってきた。
「どこから見ても立派な整備士じゃないか」
軽く肩を叩いて祝福。
「御三方も立派な軍人になっるじゃないですか」
ケイシーの肩を叩いて祝福返し。
ギートとの関係も軍学校の時と変わらず。
ふと、エリスを見たケイシー。体のラインのはっきり解るパイロットスーツ姿のエリスの色ぽいこと色ぽいこと、元男と解っていても魅せられる。
いち早く気が付いたダイアナが、さり気なくエリスとケイシーの視線の間に入る。
そのお陰で理性を保つことの出来たケイシー、咳払い一つで自分を落ち着かせる。
一方、当の本人は更衣室の時と違って気付いておらず。
「こっちです」
気を利かせたギートの案内でエリスとダイアナとケイシーは戦闘機の前へ。
「これが俺たちの機体か」
戦闘機を見上げるケイシー。戦闘機に対する興味が煩悩をふっ飛ばしてくれた。
外観は練習機と変わらない。それもそのはず、練習機は戦闘機をベースに作られているのだから。
「整備はしっかりやっています。以前のようなことがないように、十分に注意も怠っていません」
軍学校時代、フィリップの息のかかった奴に小型爆弾を仕掛けられたことがあった。あの時はダイアナの助けと、運よく生存可能な星に不時着することか出来て命拾いした。
失敗は誰にでも起こりうること、大切なのは失敗を教訓として繰り替えなないこと。
三人はそれぞれの機体の前に立つ。練習機とあまり変わらない見た目でも緊急時には外側で機体をコントロール出来る機能はついていない。つまり、操縦ミスは出来ない。
白色の練習機に対し、今目の前にある機体の色は青。青い色は気持ちを落ち着かせ、集中力を高める効果があると言われている。
練習機を初めて目にした時とは違った嬉しさがある。
ダイアナもケイシーも機体の目の前に嬉しそうにしている。どうやら気持ちはエリスと同じ様。
次回は宇宙空間での戦闘になります。




