第三十二章 初陣へ
エリスとダイアナとケイシーが初陣へ向かいます。
「フィリップ、どこ行ったんだろう」
いつも一緒にいた取り巻きのエルフたち四人。卒業式以来、フィリップの姿を見ない。
最初こそ、卒業生代表に選ばれなかったことでショックで引き籠っているのかとも思ったが、こう何日も音信不通になっていると流石に心配になってくる。
「あれっ」
噂をすれば影とやらか、目の前に俯き加減のフィリップが立っていた。
「どこ行っていたんです」
「心配していたんですよ」
駆け寄って無事を喜んでいると、違和感に気が付く。
以前と雰囲気が全く違う。威張ってキラキラしていたイメージはなく、暗くどんよりしているイメージ。
それにいつ目の前に現れたのか、誰も見ていない。まるで突然目の前に現れた様。
フィリップの変化に取り巻きたちが戸惑っている中、ゆっくり顔を上げる。
そこにこれまで持っていた高慢さはなく、底知れぬ闇があった。
フィリップが取り巻きたちに歩み寄る。
本能が囁く、逃げなければいけないと。それが解っていても思い通りに体が動かせない。まるで金縛り状態。
そして、フィリップの取り巻き四人たちも消えた……。
☆
ダイアナとケイシーと会った数日後、エリスの元にが戦場への招待状が届く。
希望通り、エリスとダイアナとケイシーは同じ部隊に配属された。
初陣は心赦せる者たちで挑みたい。
エリスに令状が来たことは両親も把握していた。
「行くのね」
母親として息子――今は娘が戦場へ向かう事への恐れがあった。
静かに頷くエリス。シャーロットの気持ちを察しても覚悟は変わらない。
「心配しないで、僕はこう見えても頑丈なんだよ」
何せ軍学校を首席で卒業したのだから。
アランがエリスの肩に手を置いた。
「帰ってきたら、初勝利を祝って乾杯をしよう」
父さん、それは死亡フラグだよとは言えなかった。初陣に向かう我が子に対する武人として誇らしいと言う思い。父親として無事に帰ってきてほしいという気持ちを察したから。
そもそも、この星で死亡フラグが立つかどうかも解らない。
「ノンアルコールでお願いするね」
宇宙の女神と融合していても地球では未成年の年齢、酒類は遠慮したい。前世でもあまり酒は飲まなかったし。
迎えに来た自動運転の車に乗り、両親に見守れながらエリスは宇宙港へ。
宇宙港には一般の旅行客も来ていて、この空港は旅行用か輸送か貨物専用で戦艦は一隻もない。
ここから輸送船に乗り、軍艦専用のコロニーへ向かう。そこは軍学校最後にして最大の試練で経験済み。
軍艦専用のコロニーに到着したエリス。
「さてと、二人はどこかな」
辺りを見回して探していると、
「お嬢さん、こんなところで何しているの」
いかにもチャラそうな男が声をかけてきた。軍服を着ていることと、耳がウサギなのでビーストの処置を受けた軍人なのだろうがこんな軽いタイプもいるなだなとエリスは軍人の幅の広さを知った。
「見学なら、俺が案内してやろうか」
下心丸見え、鼻の下が伸びている。
ああ、こんな奴に声をかけられてしまう姿になったんだなとエリスは複雑な思いを描く。
簡単にあしあえる相手だが、まかりなりにも軍人。下手な手を出せばめんどくさいことになりかねない。
「俺の彼女に何やってんだ?」
ドスの聞いた声でチャラそうな男を睨みつけるのはケイシー。タイタンと融合してスペリオルとなり、その後の鍛錬で尚更逞しくなったケイシーの放つ迫力は十分。
「す、すいませんでした」
本当に脱兎のごとく逃げ出した。
「ありがとう、ケイシー」
あの程度の相手なら簡単に撃退できたが、そんなことしたらどんな騒ぎになるか解らない不要なトラブルを避けることができたことはありがたい。
だから、お礼を言うのは当然。
「何、良いってことよ」
ちょっぴり、自慢げ。
「でも、彼女って言ったのははったりだよね。僕、心は男なんだから」
こっちは少しジト目で追及。
「そんなの当り前じゃないか」
ケイシーの目が泳いでいるのを見なかったことにしたエリス。
「そろそろ、ダイアナも来ているころだから、待ち合わせの場所に行こう」
エリスをごまかすというより、自分自身をごまかすための発言。
「うん、そうだね。待たせたままなのも悪いから」
ケイシーのことを察して、あえて乗っかった。
待ち合わせの場所へ行くと、既にダイアナが待っていた。
「エリス」
少し間を置いて、
「ケイシー」
大きく手を振った。以前と変わらないダイアナ。これから初陣に向かう恐れなど微塵も見せない。
お陰で戦場への恐れを落ち着かせてくれた。エリスはその気持ちを嬉しく思う。
ケイシーは少し間が開いたことは追及しないでおいた。それぐらいの空気は読める。
三人揃って、これから搭乗する戦艦のある格納庫へ。
さり気なく出されたダイアナの手をエリスは握る。
少し汗ばんでいて、微かに震えている。明るくふるまって見せても、内心は怖いのだ。
ダイアナのお陰で戦場への恐れを押さえることができたエリス。ならば今度はこっちの番。
ダイアナの手をやさしく、そして強く握りしめる。ゆっくりとダイアナの手の震えが消えて行った。
格納庫に到着。最後にして最大の試練の時の少し暗め赤い色と違い、マリンブルーの戦艦。大きさは少し小型。
「おお、来たか」
待っていた艦長もオーギュストも一回り小柄で太目のヒューマン。いかにも艦長と言った軍服を着ているが、軍人と言うよりも商人と言った風貌。
「私は艦長のトム・ターナーだ」
気軽な感じで挨拶後、エリスとダイアナとケイシーを見回す。下心でなく、値踏みの視線。
三人とも嫌悪感は無い、むしろ当たり前だと。これから向かう先は命の取り合いが当たり前の世界、些細なミス一つで死を招く。最悪一人のみならず、全員を巻き込むことも。
エリスとダイアナとケイシーは初陣。艦長となれば見極める必要あり。
「若いな、それに見た目は軍人としては頼りなさそうだ……」
そう言われ、ケイシーは少しムッとしたが、
「だが、真の軍人だな、本物の覇気がビンビン感じるぞ」
実に愉快そうに笑う。
見た目ではなく、三人の本質を見たトム。
この人なら、安心して初陣を任せられる。エリスとダイアナとケイシーは確信を持てた。
「さぁ、遠慮せず乗ってくれ」
手で乗れのジェスチャーに従い、三人はマリンブルーの戦艦に乗る。
オーギュストの宇宙戦艦の快適そうな内部構造と違い、機能重視の構造。
廊下ですれ違う兵士たち、ヒューマンの他、エルフにドワーフにリトルグレイにレプティリアンがいる。スチールとビースト入るがスペリオルは自分たちだけ。
気兼ねなしに挨拶してくれる兵士もいれば値踏みするような目で見てくる兵士、中には露骨に足手まといになるんじゃないぞとの意思が感じられる兵士も。
トム・ターナー艦長と同じく、一緒に戦場へ行くと言う事は命を共にすると言う事。新人のミスで死にたくないのが本音。
スペリオルと言ってもケイシーならともかく、エリスとダイアナはどっからどう見ても若い女性。不安を抱くのも仕方がない。
ならば実戦で実力を認めてもらうのみ。様々な視線をやる気に変換。
トムの案内で船内を一回りした後は船室へ。今回はエリスとダイアナが同室でケイシーが一人部屋。やたらに嬉しそうなダイアナ。
船室も快適さよりも機能重視。それでも最低限は航行が窮屈に感じない設備は整っている。
とりあえずエリスは備え付けの椅子に腰を下ろす。その隣に座るダイアナ。
「オーギュストの時は別々の部屋だったんだわよね」
幼馴染とは言え男女、同じ部屋にはなれなかった。でも今は同性なので同室。
「ケイシーのとこ、遊びに行こうか?」
オーギュストの戦艦に乗った時はダイアナがやってきて三人でカードゲームを楽しんだ。
「今日は止めましょう」
エリスの提案を断る。もう少し二人きりを楽しみたい。
「うん、解ったよ」
初陣に対する不安があるのかなと、エリスは考えて一緒にいることにした。
やがて戦艦が動き出す。これから向かう先で待っているのは初陣。本格的なエイリアンとの戦い。
戦艦が出航してからしばらくすると、放送で会議室へ来るようにとの指示。
エリスとダイアナが会議室に入る。既に集まったいる兵士たち。
「エリス、ダイアナ」
やってきたケイシーと一緒に席に着く。
ほどなくしてトムが大きなモニターの前に立つ。
「これから始まるエイリアンとの戦いの会議を始めます」
以前、戦場へ行った時はまだ学生で直接実戦には参加しなかった。したがって会議には未参加。
しかし、今回は違う。軍学校を卒業し、本物の戦士・軍人になったエリスとダイアナとケイシー。会議に参加すると言う事は戦争に参加することを意味している。
「これから向かうのは八割が砂漠の惑星だ」
トムの後ろのモニターに砂漠が映し出される。映像で見るだけでも解る、だだっ広い砂漠。とことんまで暑そう。
「先日、一体の大型エイリアンが多数の中型小型のエイリアンを引き連れ、この砂漠の惑星に現れました」
モニターが切り替わり、エイリアンの群れが映し出される。
映し出されたエイリアンの群れを見たエリスはアレっと疑問が浮かび上がる。
「艦長、少しいいでしょうか」
一人の軍人が手を上げた。トムが首を縦に振って了承。
「大型のエイリアンのタイプは何なのでしょう?」
それはエリスの思った疑問と同じ。大型のエイリアンは体格は大体で15mの爬虫類タイプではあるが、所々にヒューマノイドタイプの特徴が見られる。いわば爬虫類タイプとヒューマノイドタイプのハイブリット。
会議室にいる軍人の全員が同じ疑問を持っていた。
「正直に答えれば解らないだ。学者や専門家でも、どのタイプかは判別できずにいる。強いて言えば新種かもしれない」
新種のエイリアン。プロの軍人だけあり、大騒ぎはしないが多少のざわつきは起こる。
「うん?」
タイプ不明の大型のエイリアン。僅かながらに人の形を残している顔に、エリスはどこかで見たような気がした。
「話を戻しましょう。今回の我々の任務は砂漠の惑星に現れたエイリアンの殲滅」
プロの軍人ならば今回の任務がエイリアンの殲滅であることは先刻承知。慣れた任務でも油断大敵。
エリスとダイアナとケイシーの今回が初陣。だからこそ、エリスとダイアナとケイシーは足手まといだけにはなりたくはない。だからこそ、気を引き締める必要あり。
「タイプ不明のエイリアンがいる以上。従来通りの行動を取るか解らない。十分に注意する注意しなくてはならない」
ここにはエイリアン相手になめた行動を取る軍人はいない。そもそも、エイリアン相手になめた行動を取る軍人は生き残れないのが戦争である。
「タイプ不明のエイリアンがいようが俺たちのやることは変わらねぇ、敵を殲滅するだけだ。最も注意を怠るつもりなど、全くないがな」
いかにもベテランと言った軍人の発言をこれもまたベテランと言った軍人たちが、その通りだと呼応する。
今回が初陣であるエリスとダイアナとケイシーもやることは変わらない。油断することなく、敵を倒すこと。
この後も砂漠の惑星での対エイリアンの作戦会議は続いた。
作戦会議を終え、エリスとダイアナとケイシーは部屋へ。どうせなら、砂漠の惑星に着くまでは一緒に過ごすことに。
卒業まじかに行われた実戦参加ははっきり言えば見学であり、直接エイリアンとの戦いには加わることは無かった。
しかし、今回は初陣。スペリオルになった三人も戦争に参加することになるだろう。
戦争になれば勝ち負けの戦いではなく、生き死にの戦いになる。すなわち、敗北は死を意味する。
軍人を目指すなら、誰もが通らなくてはならない道。この道を通り抜けることが出来なければ、大切な者を守れる戦士にはなれない。
「まっ、何とかなるでしょう、俺たちはスペリオルなんだからな」
気軽な口調でケイシーは言った。慢心しているわけでも自惚れているわけではない、わざと軽い感じで言うことで張り詰めた空気を和ませようといている、自分自身と共に。
無論、そんなケイシーの真意は軍学校をいつも一緒に過ごしたエリスとダイアナは解り切っている。
「新兵だからって舐められない戦いをやらないとね」
エリスが継ぐ。
「そうよね、私とエリスと――ケイシーがいればなんだって出来るわ」
エイリアンに故郷を滅ぼされたダイアナ。エイリアンに対し、この中で一番、怒りと憎しみと恐怖を持っているだろうにそんなものなど、打ち払うがごとくに言う。
「ちょっと待て、俺の名前を呼ぶとき、何か間がなかったか」
「気のせいよ」
場を和ませようとする二人のやり取りに、ついエリスがくすっと笑ったことでダイアナもケイシーも笑い出す。
笑ったことで初陣への恐れが薄れて行った。
本格的な戦いは次回になります。




