第三十章 卒業式
エリスたちが軍学校を卒業します。
卒業式の日がやってきた。軍学校、三年間の締めくくりの日。
スペリオルになった生徒、なれなかった生徒。儀式に参加しなかった生徒。スチールやビーストの処置を受けた生徒。何の処置も受けていない生徒たちが集まる。
「本当に今日で卒業なのね」
「うん」
ダイアナに相槌を打つエリス。
「何か寂しいな」
校舎の方をケイシーは見る。
厳しい授業、過酷な訓練共に楽しかったと思える軍学校。いい思い出も悪い思い出も名残惜しさを彩らせる。
エリスの着ている制服は男用。ピッタリのサイズだと胸とお尻がきつくなるので大きめのサイズを着ている。ダイアナには似合うので女用の服を着ることを勧められたが、男の矜持を通させてもらった。
卒業式には男用の制服で出たい、それがエリスの本音。
きょろきょろしているケイシー、何か警戒している様子。
「誰が探しているの」
気が付いたダイアナが訪ねる。
「このタイミングで呼ばれてもいないのに、いつも絡んでくる奴が来るだろう」
云われてみればその通り、エリスに絡み嫌味を言ってくる連中がやってこない。
現れない理由はエリスには察しがついていた。あれだけ自信満々にスペリオルになると威張り散らしていたのになれなかった。ましてや、散々ヒューマンと見下していたエリスたちがスペリオルになったのだから、合わせる顔は無いのだろう。
「まっ、うざいのが来ないのに越したことは無いな」
ケイシーの言う事は最も。うざいのはほっておいてエリスとダイアナとケイシーは講堂へ。
講堂に集まる生徒たち、入学式の時よりも半分以下にまで減っている。過酷な鍛錬に振り落とされた生徒たちの数は少なくない。
それに耐え抜き、残ったのがここに集まった生徒たち。
鍛えに鍛え上げられた生徒たちは、どこか本物の戦士の雰囲気を醸し出していた。
全員が姿勢を正し、だらけている者や雑談している者の姿は一人も無し。
エックハルトが壇上に現れると、みんなの気が引き締まる。
「厳しい訓練に耐え抜き、ここまで残った皆さん。まずはそのことに賞賛を送ります」
拍手。エックハルトだけではない、先生の全員が拍手をする。
生徒たちも、その思いに答えお辞儀。
「あなたたちはまごうことなき戦士です。卒業すれば戦場に出て、エイリアンと戦うことになるでしょう。そこでは命の保証は無く、命を落とすことがあるかもしれない。ですが……」
いつもの優しい顔で生徒たちの顔を見つめる。
「死を恐れすぎてはいけません。かといって死を恐れな過ぎてもいけないのです。それは戦場では死は常に隣にあるから。このことをしっかりと覚えておいてください」
ここまで語り、一礼。
「皆様に宇宙の女神のご加護が……」
ここまで言って、ついエリスの方を見た。何せ、その宇宙の女神とエリスは融合しているのだから。
「……皆様に宇宙の女神のご加護があらんことを」
気をとりなして、言い直す。
“皆様に宇宙の女神のご加護があらんことを”と言われ、少しエリスはむず痒い気分になる。
でも、そんな事言ってられない。この後に重要な役目が待っているのだから。
「卒業生代表」
進行役の教師に呼ばれ、エリスは壇上に上がる。
最優秀の成績、“処置”では宇宙の女神と融合。そのことに対してエリスはマウントを取ることも無い。
教師からは満場一致で卒業生代表に選ばれたエリス。卒業生の殆ども反対はない、そう殆どは……。
フィリップは最後まで反対した、自分こそが卒業生代表に相応しいのだと言い張って。
それに対し、取り巻き以外は誰一人として相手にさえしなかった。
「卒業生代表を務めることになりましたエリス・リーンです。入学した時は男の子だったのですが、今はこのようになりました」
軽いノリで入り、自分とみんなの緊張感を解す。
「正直、このような役目を与えられ、最初は何をしゃべればいいのか戸惑いました」
ダイアナとケイシーのみならず、教師たちも生徒たちも黙って聞いてくれている。
「みんなはそれぞれの思いや目的や役目のために、この学校の門をくぐったことでしょう。僕もそうです。最初は軍人の家系に生まれたことで流されるままに軍人になるんだろうなと、そんな風に考えていました。おまけに心のどこかには戦場には行くのは嫌だなとも思いもあったんです」
前世が平和でインフラの整った日本で過ごしていたことで戦場は対岸の火事と感じていたことの影響かもしれない。
でもフェガヌの一件が迷いを吹き飛ばした。
「僕はあることきっかけに大切なものを護るために強くなりたいと、軍学校に来る決意が固まったんです。これは個人的な話ですが僕は思うのです、人は護るものがあれば強くなれると。実際、僕は強くなれたと感じることが出来ています、心身と共に」
今まで苦しいことも辛いこともあったが、護りたいと言う思いのお陰でここまで来ることができた。
そして今、正に卒業生代表として立っている。
「こんなこと言うのは軍人として間違っているかもしれませんが、大切なものを悲しませたくないと思いがあることで、どんな過酷な戦場でも苦境に立たされても無謀な選択をすることなく、生きて帰る方法を見つけ出すことが出来る。それが僕の見つけ出した答えなのです」
語り終え、一礼。
拍手が巻き起こる。誰彼が始めたのではなく、一斉に。
校長と卒業生代表エリスの話が終わり、恙なく卒業式は終わった。
軍学校を卒業してもエリスたちの物語は続きます。




