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第二章 フェガヌ

 領星の避暑の話になります。

「いつ見てもスゴイな~」

 10歳になったエリスは窓の外に広がる大宇宙に見とれていた。今でも初めて宇宙へ出た時の感動は忘れられない。

 楽しそうにしているエリスを楽しそうに見ているアランとシャーロット。

 中型宇宙船での旅行。宇宙船に乗るなんて前世ではフィクション世界の話、でも今は実際に宇宙にいる。

『これより、ワープ航行に入ります』

 合成されたAIの声が船内に響き渡る。

 ワープ航行に入れば星は見えなくなってしまう、少し残念そうなエリス。

「お茶にしましょう」

 そんなエリスを見たシャーロットが紅茶の準備。シャーロット淹れる紅茶は絶品、一緒に出すクッキーも手焼きで美味しい。


 宇宙船は星に着陸。この星はリーン家所有する領星の一つ、フェガヌ。とても気候も良く、毎年避暑に訪れている。

「よくぞ、おいでになられました、リーン様」

 宇宙空港を出ると領民たちが出迎えてくれた。

「よくぞ、今年も来てくれました」

「宴の用意は出来ていますよ」

「坊ちゃまも大きくなられましたな」

「ますます奥様に似ていますね」

 アランは領民に慕われいる、それだけ良い統治をしている証。


 エリス、アラン、シャーロットは領民たちと宴の会場へ。

 長テーブルに並べられた料理と酒の数々。

「これらの食事と酒は、この星で収穫された物で作りました」

 並べられた料理と酒は、フェガヌの豊かさの象徴。

「我々が日々無事なのもリーン様が、エイリアン共と命がけで戦ってくれたおかげです」

「感謝してもしきれません」

「坊ちゃまも旦那様みたいな立派な軍人になつてほしいものですな」

「そうですとも、是非ともエイリアンたちを全滅させて欲しい」

「しかし宇宙の女神様もいるのなら、何故にエイリアンを野放しにしているのだ。根絶やしにしてくれるといいのに」

「オイ、それは不謹慎だぞ、宇宙の女神様に見放されたらどうする」

 山海珍味を口にしながら、アランに感謝の意を示しながら物騒な話もチラホラ。

 今、この世界は戦争中なのだ、エイリアンと。領民の中にもエイリアンに故郷を滅ぼされた者もいる。

「そうだな……」

 アランは口ではそう言いながらも複雑な気持ち。正直に言えば、子供たちにエイリアンとの戦争は背負わせたくないが、今の戦況を見ればそれが不可能なのは確実。

 そんなアランの気持ちを解っているシャーロットは、静かに傍に寄り添う。

 一方、エリスは話を聞き流していた、毎年楽しみにしていることがあるから。

「おーい、エリス」

「ジョニー」

 大きく手を振りながらエリスを呼んでいるのは地元の子供たちのリーダー、ジョニー。笑顔でエリスも手を振り返す。

「アルビン、ビリー、ネイサン、ダイアナも久しぶり」

 共にいるのはアルビン、ビリー、ネイサンにジョニーの後ろにいる妹のダイアナ。エリスに呼ばれたダイアナは少し頬を赤らめる。

「遊びに行こうぜ、エリス」

 誘ってくるジョニー。

 物騒な大人の話よりも子供たち同士で遊びたい。

 チラッと父親の方を見ると、行って来いと笑顔で言ってくれたので誘いに乗りジョニーたちの元へ。

 アランもシャーロットも、子供はいつまでもこうあってほしいと願わずにはいられない。


 地元の子供たちと一緒に森の中へ行ったエリス。

 子供たちの中で一番年上なのはジョニー、一番年下なのはエリスでダイアナは同じ年。

 チラチラとエリスの方を見ているダイアナ。

 何だろうとエリスがダイアナを見てみると、サッとジョーニの後ろに隠れてしまう。

「おいおい、昨日は一年ぶりにエリスに会えるってはしゃいでいたのに」

 ジョニーに言われた途端、顔が真っ赤になり、

「もう! そんなこと言わないでよ」

 兄をポカポカ殴る。

 アルビン、ビリー、ネイサンは微笑ましく見ている。

 始めてフェガヌに来た頃はエリスは領主の跡取り、ジョニー、アルビン、ビリー、ネイサン、ダイアナは領民の子供。エリスと地元の子供た間には確執があったものの、共に野山を駆け巡っているうちに確執は薄れていき、気が付いてみれば大の仲良し。

 前世では虚弱体質を克服するために一生懸命だったことで友達を作る機会も無く、野山を駆け巡ったことなど無かったので新鮮で楽しい経験。

 彼らは夏限定とはいえ、エリスの大切な友達。

「おっ、今年も沢山実っているぞ」

 ジョニーが木の枝に実っているオレンジ色の果実を見つけエリス、アルビン、ビリー、ネイサン、ダイアナに配る。

 初めて渡された時はおっかなびっくり食べてみたら、強い香りにトロピカルな甘みが口の中に広がった。子供たちのお楽しみのおやつになるのも当然。

 他にも美味しい果実や川魚や川エビ、上手な虫の取り方を教えてもらった。

「キャアッ」

 ダイアナが悲鳴を上げた。

「背中に何か入ったよ~」

 どうやら木の上から落ちてきた何かが背中に入った模様。もぞもぞ動く何かに慌てふためき、今にも泣きそう。

 一番近くにいたエリスがダイアナの背中に手を入れて取ってあげた。

 入っていたのはトカゲ、木の幹においてやると上に上って行って見えなくなる。

「あり――」

 ありがとうと言おうとしてエリスに背中に手をいられたことを思い出し、またも顔を真っ赤にして兄の背中に隠れてしまう。

 エリスも手を入れた行為を自覚して、赤くなる。

 そんな2人を楽しそうに見ているジョニー、アルビン、ビリー、ネイサン。


 別荘で夕食、作ってくれたのはフラットウッズ・モンスター型の多目的ロボット、アウルと呼ばれている、理由は梟に似ているから。

 この別荘には人間の使用人はおらず、ロボットたちが働いている。

 何せ使うのは1年に一度、維持と管理はこの星の住民とロボットに任せきり。

 夕食の材料に使われているのは全部、フェガヌで収穫されたもの。

 この星の収入源だけあり、とても美味しい。

「みんな良い顔しているよね」

 エリスは毎年、この星に来るたびにそう思う。大人も子供も良い顔をしている。

 前世で呼んだ創作物の中には領民を見下している人物もいる。確かにこの世界にも、そんな領主はいることにいる、でも父親のアランはそうではない。

「本当にそうね、移民してきた時にはあんなにも沈んでいたのに」

 エイリアンに故郷を滅ぼされ、何もかも失いこの星に流れ着いたばかりの頃は絶望に沈んでいた。しかしリーン家による支援、住み心地の良さや他の移民たちとの交流が希望を与えた。

 だからこそ、あんなにもいい顔をするようになったし美味しい収穫物を作れるようになったのである。

「このまま、皆がいい顔で過ごしていければ一番いいのだがな」

 アランの言葉にエリスも同意。

 普段住んでいるラースもフェガヌも戦争に巻き込まれたことはない、それは幸せなこと。でも、この宇宙のどこかでは、今この時も人間とエイリアンが戦争をしているのが現実。



 夏の終わりが近づき、ラースに帰る日がやってきた。

 宇宙空港には領民たちが送りに。エリスの元にもジョニー、アルビン、ビリー、ネイサンが来てくれた。

「あれ、ダイアナは?」

 ダイアナの姿が見えない。

「一緒に来たんだが、いざエリスに会うとなると恥ずかしがってな。あいつももう少し素直になれば――」

 とジョニーが言いかけたら、

「余計なこと言わないでよ」

 壁の影に隠れていたダイアナが飛び出してきた。

「来てくれたんだね、ダイアナ」

 エリスに言われ、たちまちイアナは顔を真っ赤にしながらも、

「――来年もフェガヌに来るんだよね」

 おそるおそる尋ねる。

「勿論」

 即答したエリスに、パッと明るい笑顔を見せるダイアナ。


 飛び立つ中型宇宙船、見送るジョニー、アルビン、ビリー、ネイサン、ダイアナ。

 思わず走り出すダイアナ。

「必ず来年来てよね、私待っているから」

 宇宙船に乗っているエリスには聞こえないことは解っている、解ってはいても叫ばずにはいられなかった。








 フラットウッズ・モンスターの正体とされているのが、梟なんだってね。


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