第二十六章 精霊儀式
精霊に選ばれるために神殿へ。
予定通りではなく、ほんのちょっと予定よりも早く山頂に到着。
山頂に聳え立つ神殿。豪華さはなく割とこじんまりとしているが、外観からでも神秘さと神聖さを感じさせる造り。
素材も石なのか金属なのか、まるで両方のいいとこどりのような素材で出来ている。少なくとも地球では未知の素材だろう。
「よくおいでなりました」
神殿から純白のローブ姿の人物が出てきた。整った顔立ちだがヒューマンなのかエルフなのか種族が解らない。種族だけではない性別も不明、声からも判断できない。とてもミステリアスな人物。
エルフ以外の種族を見下しているフィリップも態度を決めかねている。
「御子よ、今年もよろしくお願いする」
ミステリアスな人物、御子にお辞儀するローズモンド、続いて生徒たちもお辞儀。迷っていたフィリップも軽くお辞儀した、一応と言うつもりで。取り巻きもそれに続く。
「では儀式に入りましょう」
ついに儀式に入る。精霊に選ばれるにしろ選ばれないにしろ、エリスは大切な人を守れる力が欲しい。それが偽らざる真意。
儀式を受ける順番もくじ引きで決めた。エリスの順番は一番最後。何気なく地球にいた頃の残り物には福があるの諺を思い出す。
御子に導かれ、最初の生徒が神殿に入る、種族はリトルグレイ。
しばらくして、がっくりとした様子で生徒が出てきた。どうやら精霊に選ばれなかった様子。
「落ち込む必要はありませんよ、精霊に選ばれるのは稀有なこと、一班に一人でもスペリオルになる者が出ればいい方なのですから」
自然な形でフォローしてくれる御子、この役目をしているだけはある。
「当然の結果だ、お前たちのような下等種族が精霊に選ばれるはずがないだろう」
折角のフォローに水を差すフィリップ。御子は何も言うことなく目を向けることもせず。
神殿に入った生徒たちが誰も精霊に選ばれない中、フィリップの順番になった。
「どうやら精霊は私のことを待っているようだ。私がこの班で唯一精霊に選ばれ、下等な者たちとの格の違いを見せてやろうではないか」
神殿に入る前から、精霊に選ばれたつもりでいる。神殿に入る直前、エリスに見せたのは勝利を確信した笑み。
神殿に入ったまま、フィリップが出てこない。時間からしてとっくに儀式は終わっているはずなのに。
生徒たちが何があったんだろうかと話していると、屈強な男二人に拘束されたフィリップが神殿から出てきた。
見た目をともかく、屈強な男の着ている服から二人は神官だと解る。
地面に降ろされるフィリップ。
「これは何かの間違いだ! 私が精霊に選ばれないわけがない!」
どうやら精霊に選ばれなかったのにも関わらず、神殿に居座り続け摘まみだされたようだ。
「次の生徒」
ローズモンドの一声で次の生徒がフィリップの横を通って神殿へ。
「待て、まだ私の番が終わっていない。まだ私が精霊に選ばれていないではないか!」
喚いたところで誰も聞く耳持たず、冷笑を浮かべる生徒までいる。これまでの態度の招いた結果。
やがてケイシーの順番がやってきた。
「それじゃ、行くぞっ」
気合を入れてから神殿へ。
しばらくして、
「うぉっ」
エリスが身を震わせる。
「どうしたのエリス」
「なんだか、背筋がぞわっとしたんだ。何も感じなかったダイアナ」
尋ねられたダイアナは首の後ろをさすり、
「そう言えばこのあたりがむずってしたような」
そんなやり取りをしていたエリスとダイアナに御子が視線を向けていた。
神殿から出てきたケイシー。
「あれ、ケイシーなんか少し大きくなっていない?」
エリスの見間違いじゃない、確かに少しではあるがケイシーの体は大きくなっている。服は多少収縮する素材出来ているから、これぐらいでは破れない。
「それに身体つきも逞しくなっているじゃない」
確かめるため、ダイアナはケイシーの体を触る。これも少しだけだが身体つきが逞しなっているではないか。
「儀式を行ったら、タイタンと融合したらしい。中にいた神官が教えてくれた」
照れ隠しながら告げる。
「この班の最初のスペリオルが生まれました」
まるで前もってそのことが解っているような御子の口調。
「すごいよ、ケイシー」
「やれば出来る子だったんだ」
エリスとダイアナに褒められ、悪い気はしない。
自分は選ばれなかったのに、ヒューマンのケイシーが選ばれたことで驚愕に顔を歪ませるフィリップ。
ケイシーの後は誰も精霊に選ばれることは無く、やがてダイアナの順番が来た。
「行ってくるね、エリス」
笑顔でエリスに話しかけることにより、自分の中で渦巻く緊張と不安を解きほぐす。
「うん、待っているから」
ダイアナの心情を理解したエリスは笑顔で見送る。。
今のところ、唯一スペリオルになったケイシー。儀式を終えた生徒もこれから受ける生徒も尊敬と羨望の視線を向けられ、こそばゆい。
「あれ」
「何だ、今の?」
エリスとケイシーは神殿の方を向く。無言で御子はエリスを見ている。
視線を神殿に戻し、
「この班に精霊と融合した生徒がもう一人でました」
と告げる。
ダイアナが神殿から出てきた。一目見ただけでも解る、変わっている雰囲気が。
よく見れば髪が少し青みがかり、瞳は緑みを帯びている。
「私、セイレーンと融合しちゃったみたい。私も神官さんに教えてもらった」
エリスの前で照れくさそう。
「おめでとう、ダイアナ」
満面の笑みで祝福。
「やったじゃないか、ダイアナ」
歓迎の意味でケイシーはダイアナの肩を叩く。
「ちょっと、痛いじゃないの」
軽く叩いたつもりでもタイタンと融合した分、力は強くなっている。ダイアナもセイレーンと融合しているので少し痛いぐらいで済む。一般人だったら骨が折れていたかも。
「ごめん」
謝るケイシー。
精霊と融合しても変わらない二人、心底良かったとエリスは思う。
ケイシーに続き、ダイアナまでもがスペリオルになった。立て続けにヒューマンが精霊に選ばれた事態にフィリップは信じられないと身を震わせていた。
ダイアナとケイシー以降は誰もスペリオルになることなかった。
精霊に選ばれずに残念がる生徒たち、受け入れる生徒たち。悔しがる生徒はいてもフィリップ程ではない。
精霊に選ばれると確信していた分、選ばれなかったショックは大きい。
エリスの順番が回ってきた。
「行ってくるよ」
スペリオルになったダイアナとケイシーに見送られ、神殿に入るエリス。
すれ違った時、御子がエリスを見ていたことに誰も気が付いていない。
曲がり角は無い真っすぐな白い廊下。真っ白と言っても殺風景な感じはなく、むしろ外観以上の神秘さと神聖さを感じさせる白。
左右の壁のレリーフは宇宙が描かれている。ついエリスはラースと地球を探してしまう。
廊下の突き当りまで来ると、屈強な神官二人に守られるように入り口があった。外からでも解るぐらい感じられる。入り口の先に儀式を行う場があるのだと。
入り口にいる二人がダイアナとケイシーの言っていた精霊に選ばれた場合、何と融合したのか教えてくれる神官。
神官二人に促され、エリスは入り口をくぐり奥へ。
入った途端、一瞬エリスは外に出たのかと思ってしまった。そこにあったのは満天の星空。
よく見れば昨夜見た星空とは違う、ここは外ではない。ドーム型の天井に星空が映し出されている。プラネタリウムを彷彿とさせるが、ぱっと見では本物と見間違えてしまう程の出来栄え。
「中央の祭壇で祈ってください、選ばれれば精霊がやってきます」
神官に言われ、前を見ると確かに祭壇がある。
言われた通り中央へ行き、
『大切ん人たちを守れる力が欲しい』
エリスは祈る。
《待っていたよ、ずっとずっと、この時を》
時折聞こえていた、あの声が聞こえてきた。いつもよりも大きく近くで。
体に何かが入ってくる感覚がした。とっても大きな力を持つ“存在”が。
入り口にいた二人の神官も気配に気が付き、思わず祭壇を見る。
「まさか、この気配は」
体に入った“存在”と溶け込み、一体化していくのが解った。
此処へ来ても、尚心の中には一体化に対する危機感や恐怖はあった。
《怖がらないで、私を受け入れて》
この声を聴くと危機感や恐怖は消え失せ、エリスは“存在”を受け入れることが素直に出来た。
『これは……』
とっても暖かく優しく大きな“存在”とエリスが融合していく。
何かが膨らんでいく感覚、締まっていく感覚、何やら消失感覚がする。まるで宇宙そのものを感じている。宇宙そのものになるような宇宙と一体化する、そんな不思議な感覚がエリスを包み込む。
儀式が終わり、一息つく。
こちらを見ている二人の神官は驚愕していた。
何だろうと思いながら、エリスが最初に気が付いた変化は髪が伸びしていること。
帰ったら髪の毛切ろうかなと、のんびり考えていたのは一瞬だけ。
身体が少し大きくなり逞しくなったケイシーの変化、髪が少し青みがかって瞳は緑みを帯びたダイアナの変化。エリスの変化はその程度のものではなかった。
「!」
変化は髪が伸びだけではなかった。胸が膨らみいい形に腰は締まり、お尻もふっくらと大きくなっているではないか。
「な、何で!」
何とエリスの体は女の子になっており、入り口に立っていた二人の神官がエリスに跪いていた。
ダイアナとケイシーがスペリオルになりました。




