第二十五章 いざ、聖地へ
軍学校の生徒たちは聖地へ向かいます。
「ふぁ~」
欠伸をするケイシー。
「昨日、眠れなかったの?」
エリスに声かけられ、ドキッとしかけたが、
「そ、そんなことないさ。ちゃんと眠れたぞ」
宇宙の女神への祈りの言葉を頭の中で唱えていた昨夜のことを記憶の隅に追い込む。ちなみに眠れたというのは嘘ではない、祈っているうちにちゃんと眠れることは出来た。若干寝不足気味ではあるが行動に問題なしのレベル。
「こっちこっち」
先に来ていたダイアナが手招き。聖地の入り口には一緒に聖地へ向かう生徒たちが既に集まっている。
エリスとケイシーは遅刻したわけではなく、むしろ早めに来ていいる。みんな、聖地へ向かう緊張から、時間よりも早く来ていた。
「同じ班だとはな」
後ろからかけられた声は聞きたくもないお馴染みの声、背後にはフィリップがいた。
「ちょっと、あんたは別の班だったじゃない」
その通りのことをダイアナが指摘。
「私が同じ班だと、何か都合の悪いことでも? そうか、私がスペリオルになるところを見るのが悔しいだな」
嫌味たらしく笑い、ケイシーが言い返そうとする前に、ふんと鼻を鳴らし去っていく。
一人の生徒が駆け寄ってきて、
「本当はリグスの生徒だったんだけど、あいつが強引に入れ替えさせたんですよ」
と事情を教えてくれた。教えてくれた生徒も迷惑そう。
本気でスペリオルになった自分をエリスに見せつけるつもり満々状態。フィリップは既に自分がスペリオルになれると確信し、エリスはなれないと信じ切っている。
それでいつもの取り巻きがいないのか、全員を引き連れて割り込むのは無理がありすぎる。
「本当にどこまでも嫌味な奴だな」
最もなケイシーの意見。
時間が来た。集合した生徒たちは全員一緒に聖地へ出発、引率の教師はローズモンド。
同じ班にフィリップのことが気にはなるが、引率がローズモンドならば信頼出来る。ローズモンドがいれば大丈夫と誰もが思う。
神殿のある山は聖地と言われるだけあり、頂上までの道はとても厳しい。この厳しさが、おいそれと聖地に人を近づかせない。下手に素人が踏み込めば遭難してしまうのが関の山。
先頭はローズモンド。エリスとダイアナとケイシー、生徒たちは軍学校の過酷な訓練を乗り越えてここまで来た。真面に整備されていない道をものともせず、どんどん進んで行く。
順調に進む中、ローズモンドが立ち止まった。生徒たちは銃器を構え、戦闘態勢へ。生徒たちも気配に気が付いている。
森の中から現れたのはゾウよりも巨大な熊、背中にある円形の文様が特徴。
フルムーンベア、雑食性の獣。見るからにすかした腹を生徒たちで満たそうしている。
「距離を取り、攻撃せよ」
ローズモンドが指示すると同時に生徒たちは行動開始。
巨大なだけあり、フルムーンベアのパワーは相当なもので車の一台や二台、簡単に破壊してしまう。一般人がとても相手に出来るような獣ではない、一般人なら。
いち早く動いたケイシーがライフルを発砲、自分にフルムーンベアを引き付ける。
背後から左右に散開、エリスとダイアナがライフルを撃つ。
フルムーンベアが振り返るよりも早く、四方に展開した生徒たちが連続発砲。
倒れたフルムーンベアの頭目掛け、ローズモンドが大型拳銃を撃ちとどめを刺す。
日が暮れてからの登山はいくらなんでも危険なので、実地訓練の時にも使ったボタン一つで出来上がるテントでのキャンプ。
軍学校で三年間の経験もあり、生徒たちは無駄なくキャンプの準備を整えていく。
そんな中、何もしないでカード型スマホをいじっている奴がいる、やっぱりお前かのフィリップ。
文句の一つも言いたいが、そんなことを言っても嫌味で返してくるのは生徒たちの誰もが解っていたので無視することにした。関わっても嫌な思いをさせられるだけなので。
嫌な思いをするぐらいなら、やるべきことをやった方がまし。生徒たちは、もくもくと自分の作業を続ける。
キャンプの準備が終われば夕食の時間。メニューは携帯食と解体されたフルムーンベア。
臆することなく食べ始める生徒たち。卒業まじかまでやってきたのだ、フルムーンベアなんて平気で食べれる。生徒の中にはもっとすごいのを食った奴もいるらしい。
エリスとダイアナとケイシーも実地訓練でハリーバを食べた経験あり。
フルムーンベアの味は悪くない。ちゃんと調理すれば店で出せるレベルかも。
携帯食も味もいいし、栄養価も抜群。
「本当に品の無い食事ですね、少しは知恵を働かせて作れないものか」
文句を言いながらもフィリップは食べている。気に入らなくても食べなくては回復は出来ずに明日の儀式に差し障りが出てしまう。
性格が悪くてもここまで残っただけはある。
フィリップのことなど意識の外へ追い出して食事中のエリスとダイアナとケイシー。
「山頂に神殿があるんだな」
しみじみと感じでケイシーが言う。神殿で儀式を行う、そこへ行くのは軍学校三年間の集大成と言っては過言は無い。
「そうだね」
何気なく山頂の方角を見るダイアナ。山頂に着くのはまだかかるが気を抜くことなく進むつもり。
「精霊に選ばれるかどうか解らないけど、これまで通りにやれることをやればいい」
どんな結果になろうとも自分自身として受け入れればいい。エリスはそう思う。
夕食が終わり、就寝の時間。
テントも男女の違いでダイアナとエリスとは別々のテント。エリスとケイシーは同じテントで寝る。
明日には神殿に到達する。今夜のうちに疲れを取っておくことは重要。
儀式に対する緊張があるものの、疲れのほうが勝ち、未明に達する時間には生徒全員が眠りの中へ。
ローズモンド一人生徒たちを見守っている。軍学校の教師しているだけあり、一日や二日の哲也はなんともない。
「おはよ、エリス、ケイシー」
じっくり眠れ、すっかり疲れの取れたダイアナが駆け寄ってきた。
「おはよ、ダイアナ」
「うん、おはよ」
エリス、ケイシーも挨拶。二人とも昨夜の疲れはちゃんと取れている。
「さっさと、顔を洗って朝飯を済ませろ」
ローズモンドに言われるまでもなく、生徒たちはちゃつちゃと動く。
エリスとダイアナとケイシーは仲良く三人で朝食を取る。
食事がすめば片づけを済ませ、山頂を目指す。
天気は快晴、進んだ予報技術で100%的中するので天候は崩れる可能性はなく、今日中に山頂に着く。
山頂には神殿があり、そこで儀式を行うのだ。
山頂までの道、昨日までの道とは比べるのにならない程の過酷な悪路。それでも乗り越えていく生徒たち。
ローズモンドの指導も必要なく、正確に山頂への道を進む。
エイリアンと戦う戦士を育成する軍学校三年間を最後まで残ったのは伊達ではない。宇宙にはもっと過酷な場所がある。こんなところで音を上げていては真っ当な戦士になれはしない。
そんな生徒たちを見て、鍛え上げたかいがあったとローズモンドはしみじみ感じ取っていた。
イノシシく食べたことあるけど、熊はありません。




