第二十一章 サラマンダー
ついに戦場へ。
ワープ中、食事を摂ることにしたエリスとダイアナとケイシー。
宇宙戦艦の食堂なので、あまり期待していなかったのだけど、
「うめー」
ガツガツと頬張るケイシー。
「本当に美味しい」
ダイアナはスプーンで掬って次の一口。
「食事にも力を入れているんだね、この船は」
自然にエリスは笑顔になっていた。
高級レストラン並みとはいかないが、街中で好評になるレストランレベルはあるだろう。
食事にも乗組員たちへの気遣いが感じられる。
エリスとダイアナとケイシー以外の人たちも美味しそうに食べ、楽しそうに雑談していた。
この宇宙戦艦はエイリアンとの戦場に向かっている、乗組員たちはエイリアンと戦う戦士。食事をしている乗組員たちをそんな緊張感は感じさせない。
油断しているわけでも危機感がないわけでもないことは、軍学校でここまで残ったエリスとダイアナとケイシーには解った。
プロの戦士は日常もエイリアンとの戦いも受け入れて生活しているのだ。平時はリラックスしているからこそ、有事に焦ることなく行動できるのだ。
食事後、部屋に戻ったエリスとダイアナとケイシー。しばらくすると、
『これから、ワープ航法が解除になります』
のアナウンスと共に宇宙戦艦はワープ空間から出る。
ついにノンオバ星系に着いたのだ、戦場に。
ケイシーが壁にあるモニターのスイッチを入れた。空中に浮かび上がったスクリーンには宇宙空間が映し出され、そこでは数々の宇宙戦艦と多数の戦闘機が、漂うエイリアンと戦闘をしていた。
エイリアンの多くはヒューマノイドタイプと昆虫のタイプ。今のところ爬虫類タイプの姿は見えない。
エイリアンは体当たりからの噛みつきと鋭い爪の攻撃。口から光線を吐くものも。
それに対し宇宙戦艦はバリアーを展開、エイリアンの攻撃を防ぐ。
戦闘機は小型なところを生かし、エイリアンの攻撃を巧みに躱しながらレーザーを撃つ。
エイリアンが戦闘機に気を取られている隙に宇宙戦艦は展開していたバリアーを解除。同時に砲台からレーザーを発射。
バリアーで防御中は戦闘機で攻撃、隙かできたところで宇宙戦艦の砲台で攻撃。宇宙戦艦と戦闘機の連携攻撃。一方、エイリアンは数は圧倒していて個々は激しい攻撃を繰り出すものの、全く連携がおらず、その数を減らしていく。
戦闘が進むにつれ、宇宙戦艦と戦闘機がエイリアンを押し始める。
船室のモニターで見ているエリスとダイアナとケイシー。
「やれ! 行け! そこだ、エイリアンを蹴散らせ!」
興奮を爆発させ、ケイシーは身振り手振りを交えながら応援。
何も言わずにモニターを見ているダイアナ、拳はしっかりと握りしめられている。その心中には故郷と家族への思い、仇であるエイリアンに対する思いが渦巻いている。
エリス自身も本人も気が付かないうちに、熱くなってきていた。
外ではエイリアンと戦闘しているというのに宇宙戦艦は少しも揺れることなく、戦闘の真っただ中とと言う事を感じさせない。
軍人候補でも卒業前では参戦させては貰えないし、この様子たと参戦の必要は無いだろう。
この授業の最大の目的は本物の戦場、戦争を知ること。
艦長によっては卒業前の学生でも戦争に参加させることもあると聞いてはいるが、オーギュストは決してそんなことはしないだろう。
その数を減らしていくエイリアン。そんな中、昆虫のタイプが口から何かを吐きだした。
それは光線ではない。戦闘機に直撃した途端、見る見る機体が溶けだす。
溶解液、それも特殊素材で出来た戦闘機の装甲を溶かすほどのもの。
エリスとダイアナとケイシーはあまりものことに硬直してしまう。
溶けた戦闘機。エイリアンは溶解液が効果があると理解したようで次々と吐きまくり、直撃を食らった戦闘機が溶かされていく。
宇宙戦艦はバリアーがあるので防げているが、バリアーを張った状態では攻撃が出来ない。
今度は戦闘機の方が数を減らしていった。宇宙戦艦のバリアーの後ろに行けば守られるがこれでも攻撃は不可能。
前に出れば溶解液で溶かされる、後ろでバリアーに守られれば攻撃はではない。一気に形成が悪化。
形成が悪化した戦場。モニターを見たまま、呆然となっているダイアナとケイシー。
危機感を募らせるエリス。
今はまだエイリアンの攻撃対象は戦闘機だが、全滅すれば宇宙戦艦が狙われる。
いくらバリアーで守られているとはいるが、いつまで耐えきれるというのだろうか? 割れることは無いだろうが。
このままでは宇宙戦艦も危なくなるかもしれない。
モニターに映し出される惨状を見たオーギュスト。
「私が出よう」
決断が速い、オーギュストは艦橋から出て行く。
乗組員は一瞬だけ、オーギュストの方を見たが何をやろつもりなのか解っいるため、誰一人として止める者はおらす。むしろ、喜んで送り出している様子。
「“あれ”をやるつもりなんだな」
「今年の学生は“あれ”を見ることができるのか」
戦闘機の発射口の前に来たオーギュスト。全身から赤いオーラが放たれる。
発射口が開く。何の躊躇も見せることなくオーギュストは宇宙空間に飛び出す、生身のままで。
体が膨張することも無く、瞬時に凍り付くことも無く、窒息することも無く、血液が沸騰することも無く、まるでヒーローが空を飛ぶように赤いオーラを纏って宇宙空間を飛ぶ。
飛びながら体に変化が起こる。オーギュストの瞳が燃えるような赤色となって人間の顔から爬虫類に近い顔へ変わり、歯は全てギザギザな牙と化す。
全身の皮膚に赤い鱗が覆い、元々大きかった体躯がさらに大きくなりごつごつしたものとなり、両手に生える鈎爪。
どこか鎧を纏った赤いトカゲを彷彿とさせる姿。これがサラマンダーと融合したオーギュストのスペリオル・モード。
着ている服は特別な素材で出来ているため体に合わせ伸縮し、破れず。
戦場の変化を本能で察したエイリアンの群れは一斉にオーギュストに襲い掛かる。
一斉に吐かれる溶解液、しかし纏った赤いオーラが全てを弾く。
両腕から放たれる赤い波動。食らったエイリアンの群れは一瞬にして焼却され灰となって宇宙空間に消えた。
動揺するエイリアンの群れ、容赦なくオーギュストは赤い波動を放つ、次々と。
ことごとく焼却され消えていくエイリアン。
戦闘機のパイロットがオーギュストの作ってくれた隙に冷静に考えることができ、あることを思いつく。
戦士はエイリアンに目掛けて炸裂断を撃ち込む。
炸裂断はエイリアンにめり込んで体内で炸裂、周囲に溶解液を撒き散らして近くにいたエイリアンを溶かす。
これは使えると他のパイロットたちも同じ戦法を取り、エイリアンに炸裂断を撃ち込んで群れの中で溶解液を散布させた。
再び勢いを取り戻した人類側。オーギュストは宇宙戦艦の乗組員に向けてジェスチャー。
ジェスチャーの意味を理解したパイロットは戦闘機を移動させた。
続いて戦艦の乗組員は主砲を発射、エイリアンの群れをぶっ飛ばす。
他の宇宙戦艦もこれに倣って主砲を発射していき、エイリアンを葬り去っていく。
総崩れになったエイリアンの群れに立て直す余裕など与えはしない、どんどん駆逐する。
こうして人類軍とエイリアンとの宇宙戦の勝敗は決した。
「すげー、あれがスペリオルかよ!」
たった一人で戦局をひっくり返したオーギュストのスペリオル・モードを見たケイシーの興奮状態が跳ね上がった。
「すごい」
との言葉しか出てこないエリス、ケイシーほどでないにしろ興奮していた。
「私たちもスペリオル(あそこ)に辿り着けるかな」
ダイアナはオーギュストと同じ、エイリアンに滅ぼされた星フェガヌの出身。
「辿り着いて見せるよ、一緒に」
ダイアナの目指す場所はエリスも同じ。
「俺も一緒に行くぜ」
それはケイシーも同じである。
ますます、エリスとダイアナとケイシーは同じ場所に行くことを誓い合った。
エリスを実戦に参加させる話もありましたが、オーギュストなら学生にはさせないなと思い、このような展開になりました。




