第十九章 過酷なあと一歩
卒業前の大きな壁が迫っています。
数々の過酷な訓練を乗り越え。そして乗り越えるたびに生徒は強くなっていく。
三年生ともなれば、本物の軍人まであと一歩。
しかし、その前に最後にして最大の試練が待ち受ける。
あと一歩は最後にして、過酷な一歩。
講堂に集められた軍学校の三年生たち。入学時に比べ半分以下に減っている。
「生徒の皆さんは卒業すれば本物の軍人になれますが、その前にやり遂げなければならないことがあります」
やさし気な顔でもエックハルトの真剣さは伝わって来る。それだけの話が始まること。
「一月後、皆さんは軍艦に搭乗し、エイリアンとの戦闘に参戦することになります」
どよめきが生徒たちの中に起こる。入学した時から、軍学校最後にして最大の試練が実戦あると知ってはいても、いざまじかに迫ると動揺を抑えることは出来ない。
隣のダイアナが微かに震えている。そっとエリスが手を触れてあげると震えが止まった。
エリスが傍にいてくれる、それだけでダイアナの不安な気持ちが薄れていく。
「本物の戦場は授業と違い、命の保証はありません。行くには信念と覚悟が必要になります」
本物の戦場は授業と違う。そのことはここにいる者たちなら、全て理解している。本物の戦場では最悪、死ぬ危険性があることを。
だがエイリアンと戦う戦士になるなら、やらなければ死が待っているのは当たり前。だからこそ、エイリアンと戦う戦士になるためには乗り越えなくてはならない最大の壁。
『絶対に乗り越えて見せる』
固く誓うエリス。そのために軍学校に来た、守りたいものを守れるようになるために。
《そう、あなたなら乗り越えられる。だってそのために世界に来たのだから》
あの不思議な声がまた聞こえてきた。姿は見えず、心の中だけ聞こえてくる不思議な声。一体、誰の声なのだろうか?
実戦参加の話も終わり、生徒たちは講堂を出て行く。
エリスとダイアナとケイシーも一緒に歩き、エックハルトの話を思い出す。
遊び気分では済ませられない、実戦参加に対する緊張感と不安。
「悪いことは言わなない、棄権したまえ」
きざったらし仕草で話しかけてきたのはフィリップと取り巻きたち。
「危険だと」
もううんざりだと言わんばかりにケイシーはフィリップと取り巻きたちを睨む。
「本物の戦場ではインチキは通じないんだよ、そんなことをすれば死ぬだけだ。だから、棄権を進めているんだ、これは君たちのために言っているんだよ」
ここに来てもエリスがインチキで好成績を取っていると信じ込んでいる。
確かに実戦に参加は棄権することが認められている。棄権すれ戦場に行かなくて済み、危険な目に合うことも無い。
当然ながら、棄権すればエイリアンと戦う戦士になる道は閉ざされる。それが解っていても毎年、数人の生徒が棄権している。
本物の戦場はそれ程の場所。
「僕は棄権するつもりはないよ」
ここで降りるぐらいなら、とっくにリタイアしている。
「私も」
「俺も」
エリスに続き、ダイアナとケイシーもきっぱりと突っぱねる。
「ハッ、何て愚かな奴らだ。折角、私が親切に警告してやったのに無駄にするとは」
肩を竦める。口では親切と言いながら親切心は微塵たりともないことはもろ解り。
「実戦に参加開始までの間、生きていることに感謝しながら過ごすすといい」
くすくすと笑いながら、取り巻き共に去っていく。
「本当にどこまでも嫌味な奴だな」
吐き捨てる一歩前で言い捨てるケイシー。
何も言わないがダイアナも同じような気持ち。
「君の思う通りにはならないよ、フィリップ」
フィリップの嫌味は、むしろエリスにやる気を起こさせる結果となった。
「やっと、ここまで来たか」
散歩に出たエリスは公園のベンチに座って夜空を眺めた。
沢山の星々、あの中には地球があるかもしれない。修学旅行で地球へ訪れ、思いがけず前世の両親との再会。
エイリアンの存在と戦争を知り、フェガヌの事件をきっかけに戦士になることを決めてがむしゃらにやってきた。
もうすぐ実戦に参加が始まる。それは本物の戦場へ行くと言う事。
日本にいた頃は本物の戦場に行くなんて想像もしていなかった。せいぜい、本や画面の向こうの話だと思っていた世界。
「必ず、僕は本物の戦士になるよ」
もう二度と大切な人を失わないために。
それを実現するには、まず実戦に参加で無事に戻ってくること、自分だけでなくダイアナやケイシーたちと共に。
実戦参加があるからと言って、普段の授業が無くなるわけではない。いつも通りの厳しい授業が続く。
一日鍛えれば、その分強くなる。毎日繰り返すことにより、どんどん鍛え上げられる。
こうして本物の戦士へと成長していくのだ。
ついに実戦参加の日がやってきた。生徒たちは中型の宇宙船に乗り軍専用コロニーへ、そこで各自宇宙戦艦に乗って戦場へ向かう。
中型の宇宙船に乗る生徒たちは緊張や高揚感や不安が入り混じった表情をしている。
生徒を見送る教師たち表情も複雑もの。そんな教師たちの一番の思いは一致していた。
“全員、無事に帰ってきてくれ”
エックハルトは天を見て祈る。
「宇宙の女神様、生徒たちをどうかお守ください」
中型の宇宙船は軍専用コロニーに着く。
今回もエリスとダイアナとケイシーは同じチーム。教師たちは三人の絆から連携の強さを考えて組み合わせた。残る生徒は五人、計八名で参加。
他のチームも仲の良い生徒たちで組ませている。
「L-18、L-18」
エリスは自分たちの割り振るわれた格納庫を探す。
「あれそうじゃない」
ダイアナの指さした格納庫の入り口にはL-18と書いてあった。
ここに間違いない。
「失礼します」
前世の時からの習慣なのか一言断りを入れ、格納庫に入る。エリスに倣ってダイアナたちも一言断って格納庫へ。
「わぁぁぁぁ」
思わずエリスは声を上げた。エリスだけではない、格納庫に入った生徒全員が声を上げた。
格納庫には宇宙戦艦があった。少し暗め赤い色の戦艦、いかにも戦うための艦と言った様相。生徒たちはこれまで何隻かの宇宙船を見てきたが、そのどれよりも大きい。
前世から持ち合わせていた中二心が疼く。
「君たちが今回の参加者か」
大きな男が話しかけてくる。彼の持つ雰囲気に生徒たち気圧される中、エリスとダイアナは見覚えがあった。
「オーギュストさん」
「オーギュストさん」
以前、フェガヌで出会ったオーギュスト・バルバストルがそこにいた。
「久しいな、元気で何よりだ」
オーギュストの方もエリスとダイアナに気が付き、顔をほころばせる。
相も変わらず熱い印象が伝わってくる。むしろ、前に会った時よりも強く感じた。
「オイ、知っている奴なのか?」
小声で話しかけてくるケイシー。
「以前、夏休みに出会ったんだ。詳しくは後で」
小声で答えて静かにするようにゼスチャー。今は挨拶の時間。
「私は今日、君たちが乗る戦艦の艦長、オーギュスト・バルバストル」
丁寧な挨拶。生徒たちも答えるように丁寧な挨拶を返す。
「まずは戦艦に案内しよう」
オーギュストに案内され、生徒たちは宇宙戦艦の内部へ。
オーギュスト・バルバストルとの再会。




