第一章 異星転生
ここから、本編の始まりになります。
どっちが前で後ろで上で下で右で左かも解らない深淵の闇の中。
《こっちへ》
《こっちへ来て》
《こっちへ来て、お願い》
“誰”かに呼ばれた、とても神秘的な女性の声で。
何だろうと意識を向けた瞬間、その方向に引っ張られる。
どんどん引っ張られてい行けば、いつの間にか暖かい光に包まれたトンネルの中へ。
トンネルを通り抜けた瞬間、眩しい光に視界が支配され何も見えなくなった。
響き渡る可愛い鳴き声、それが自分の啼き声だと自覚した時、
『おめでとうございます、元気な男の子です』
生命が感じられない声が聞こえてきて、癖のある黒髪の中年の男性に手渡される。
生まれたての赤ちゃんを抱く中年の男性の右手は無機質な金属で作られた機械、左目も機械で出来ている。
「おおシャーロット、君にそっくりじゃないか」
ベットに横たわるアッシュブロンドの美女に見せる。
「そうね、でも男の子だから、あなたに似て逞しく育つわ」
アッシュブロンドの美女は微笑みかけてくる。
『名前はお決まりですか』
また生命の感じられない声がする。
「もう決めている、エリスだ」
「素敵な名前ね」
アッシュブロンドの美女は優し気に見つめる。
義手と義眼の男性が父親でアッシュブロンドの美女が母親。
「この子に宇宙の女神のご加護がありますように」
「この子に宇宙の女神のご加護がありますように」
両親が宇宙の女神の祝福を我が子に贈る。
『そろそろ、保育器に戻さないといけません』
生命が感じられない声に言われ、父親が赤ちゃんを渡す。
赤ちゃんを受け取ったのは3メートル以上ある、スペードのような形をした頭に赤い顔に緑いるの体のロボット。
その姿はフラットウッズモンスターと呼ばれたUMAであった。
退院したエリスを抱いて車に乗る両親。この車は高度なAIを搭載しており、自動かつ安全に目的地へ向かえる。
父親の名はアラン・リーン。元軍人であり、戦闘で損傷した右手と左目を義手と義眼で補っている。
実戦は引退したものの、今も軍の重鎮。
母親の名はシャーロット・リーン。結婚前はその美貌で世間を騒がせた女優。
車が自宅前に来ると、大きな鉄門がひとりでに開く。
庭は広く、邸宅はちょっとした城。
アランとエリスを抱いたシャーロットが邸宅に入ると、
「お帰りなさい、旦那様奥様」
挨拶する使用人たち。
使用人は人とロボットが混在していた。ロボットと言っても病院にいたフラットウッズモンスターとは違い、人間型、つまりアンドロイド。
シャーロットに抱かれ、すやすや眠るエリスに一同は注目。
「この子が跡取りですか、奥様によく似ておりますな」
長年勤めている執事が建前で無く本音で語る。
「癖のある髪は旦那様似ですね」
「可愛い~」
「お手てがちいさい~」
と人間のメイドたちがちやほや。
「この子も大きくなったら、旦那様みたいな立派な軍人になるのかな」
「エイリアンたちをやっつけて欲しいですわ」
ちやほやしながも、物騒なことを言う。
「おいおい、少しは休ませてくれないかね」
と口で言いながら、息子を褒められてアランも嬉しそう、シャーロットも同じ。
「「「「「すいません」」」」」
メイドたちは一斉に謝罪。
一見するところ、平和そうに感じられる日常、エイリアンに対する発言を除けば……。
☆
5歳になったエリスは部屋の中、空中に浮かんだスクリーンをスワイプ。
物心がつく頃と言うがエリスは生まれた時から前世の記憶を持っていたので、ある程度は周囲の状況が理解できていた。
エリスが嫡男として生まれたリーン家は貴族に該当する家柄。貴族と言っても他者を見下すことも無く、所有している幾つもの領星、領地の星バージョンの民からも慕われている。
今住んでいる邸宅があるのが母星である、ラース。
この世界の技術は地球よりも遥かに進んだもの、前世の知識や経験は持ってはいるが時代遅れ。でもゼロからの出発と考えれば生まれた子供は皆同じスタート。
そう考えたエリスはこの状況を受け入れ、前世から実行していた努力を怠らないことを心がけた。
『2000年前、人類は宇宙へと進出して文明を持つ星と同盟を結び、文化と技術の交流が行われました。また多くの星をテラフォーミングして生命が生存可能な星を作っていき……』
暇さえあれば勉強し、どんどん宇宙世紀と言えるこの世界の知識を吸収していく。
努力すればしただけ、報られる。それはどの世界でも変わらない。
『……そんな中、エイリアンと遭遇。話し合いの間など無く、エイリアンは襲ってきたことで戦争となってしまったのです』
胸のポケットの中身が揺れる、取り出したのは銀色のカード。
銀色のカードの表面を指でなぞると、
『エリス様、中庭で旦那様がお待ちです』
執事の声がした、これはカード型の地球で言うところのスマホ。
「うん、解った」
スマホを胸ポケットに戻し、空中に浮かんだスクリーンを消して中庭へ。
中庭で待っていたのは父親のアラン、整った服装では無くラフな格好。
リーン家は代々武門の家系、父も祖父も曾祖父も軍人であった。エリスもいずれ軍人になる。
エイリアンとの戦闘は宇宙戦がメインではあるが、地上戦もあることはあるし基礎体力作りは必要。
こうして定期的に父親と特訓をしている。
虚弱体質の克服に身に着けていた拳法、体が変わったからと言っても感覚が覚えているので応用して体術を身に着けて行った。
「エリスは凄いな、父さんもお前と同じころから特訓を始めたが、こんなにも早く上達はしなかったぞ」
嬉しそうにエリスの頭を撫ぜる。
12歳になればエリスは軍学校に行くことは決まっている。父も祖父も曾祖父もそうだった。
前世の日本はインフラも整い、とても平和な国。戦争は過去の歴史でしかない。
でもこの世界ではエイリアンと宇宙戦争している。
と言っても戦争は報道で聞くぐらいでエリスは何処か対岸の火事のような気しておらず、軍学校入学も乗り気ではなかった。
0歳から5歳まで成長しました。