第十五章 三年生
三年生になりました。
連行された怪しい男たち六人。押収した薄型スマホを調査してみたが複雑に仲介を経ることにより、大元の依頼者を突きとめられないようにしていた。
これはエリスも予想していた。ゴロツキを雇ってまで襲撃をしてくる相手、自らの素性を辿れないように手を打っていても不思議ではない。
最もこんな汚いことをやる奴には心当たりはある。ただ証拠を残すようなことはしないだろう。そんなところは狡猾。
春休みが終わり、軍学校最後の一年が始まる。
入学からここに来るまで脱落した生徒は少なくない、逆に言えばここまで残った生徒たちは鍛え上げられた猛者ぞろいなのだ。
しかし、ここまで残った全員が本物の戦士になれるわけではない。
軍学校一年から二年の授業は心技体を鍛えることがメイン、三年生は本物のエイリアンと戦う戦士になることがメインの授業となる。
その分、厳しさ過酷さを増す。
新学期早々、エリスとダイアナは縁起が悪いことにフィリップと顔を合わしてしまう。
「ヒューマンの君たちが三学期まで残るなんて、これは奇跡かそれともイカサマでもしたのかね」
相も変わらず嫌味を言ってくる、取り巻きたちもニヤニヤ、こいつらもいつも通り。
「そう思いたいなら、そう思ってればいい。僕は僕のやりたいことをやるだけだ」
挑発に乗ればフィリップの思うつぼ。淡々と対応してやるのがいい。
「負け惜しみかね」
「そう思いたいなら、勝手に思っていればいいよ」
フィリップの追撃をけん制。
「それと――」
わざとらしく間を開け、
「春休みに怪我をしなくて良かったじゃないか」
さらに嫌味の度合いを上げた笑みを見せてくる。
フィリップの態度を見て腹に据えかねたダイアナが口を開こうとしたのをエリスはさり気なく止めた。
何を言おうとしたのかは解る、春休みの襲撃のことだ。怪しい男たち六人に依頼したのは十中八九、フィリップ。
しかし証拠はない。それが解っていて挑発しているのだ。ここで追求すれば濡れ衣をかけたと罵って来るだろう。
挑発と解って乗ってやることなど無い。仕返ししたいのなら、この先、実力でへこませてやればいいだけ。
不満はあったがエリスに止められたのでダイアナは引き下がる。
緒溌に乗ってこないと知ると、逆にイラっと来たフィリップが更なる毒を吐こうとした矢先、
「おーい、エリス、ダイアナ」
向こうでケイシーが手を振って呼んでいる。フィリップに絡まれているのを見て助け舟を出してくれた様子。
「解った、今行く」
ありがたく助け船には乗ることにしたエリスとダイアナ。
「おい、待て」
ケイシーの元へ行こうとしたエリスとダイアナをフィリップは止めようとしたが無視。
「卒業する時、スペリオルになった私がなれなかったお前を這いつくばらせてやるから、楽しみに待っていろよ」
無視したら、さらに絡んできた。
何もスペリオルになることが全てではない、なれなくてもやれることは沢山ある。実際、父親のアランはスチールであり活躍したことで英雄と多くの人に慕われている。
したがって這いつくる必要もないしつもりも無し。
絡んできたフィリップなど相手にせず、ケイシーの所へ急ぐ。何か喚いていたがエリスもダイアナも聞こえなかったことにしておく。
実地訓練時にしか使われなかった実銃の訓練も本格的に開始される。
生徒たちに手渡される本物の対エイリアンライフル。実地訓練で対エイリアン銃を使ったことはあっても対エイリアンライフルは始めての生徒がほとんど。
いくら形と重量がモデルガンと一緒とは言え、これが本物と思うと重く感じる。
「……これが本物か」
対エイリアンライフルをしげしげと眺めるケイシー、男心がくすぐられる。
本物の対エイリアンライフルでミスをすれば洒落にならないことになりかねない。ダイアナは対エイリアンライフルを手に気を一層引き締めた。
初めての実地訓練でエリスは本物の対エイリアンライフルを使ったことがある。その上、昆虫型のエイリアンを一体仕留めていて、他の生徒に比べれば一歩分ほど慣れた気分。
「では始めるぞ、着いて来い」
ローズモンドに生徒たちは着いていく。
着いた場所は見上げればこけてしまうように高い天井と背伸びしても端っこが見えない程に、大きくて広いホール。
大きさ広さよりも生徒たちの目を引き付けたのは中央に立っている昆虫型エイリアン。
最初こそビビったものの微動だにしない昆虫型エイリアンをおかしく思い、よくよく観察してみる。
シミュレーションとは違う、そもそもここは仮想空間ではない。目の前のエイリアンはちゃんと存在している。
観察していくうちに生徒たちも解った、精巧に作られたロボットだと。
「今日はこいつと戦ってもらう」
エイリアンロボットとの模擬戦、それが本日の授業。
「起動させれば襲い掛かって来る、気を抜くと痛い目を見ることになるぞ」
息を飲む生徒たち。仮想空間で戦ったエイリアンにやられても痛みは感じても怪我することは無かった。
でもこの授業はやられたら、怪我を負うことになり下手をすれば大怪我。
実は生徒たちには伝えられていないが、ちゃんと重傷は与えないようにプログラムされているし、命を落とすようなことにはまずならない。
それでも本物のエイリアンでないにしろ、完全に安全とはいいがたい相手。
「エリス。まずはお前が戦え」
指名されるエリス。
「はい」
返事と共に前に出る。
ローズモンドの意図はエリスには解る。実地訓練で本物の昆虫型エイリアンを倒している。その経験を生かさせることでみんなのお手本にしようとしているのだ。
同じ訓練を受けるダイアナとケイシーもローズモンドの意図に気が付く。
やってやるぞな気分でエイリアンロボットと対峙。
“そう、あなたなら、やれるから”
いつもの声が聞こえて、さらにやる気が出る。
起動するエイリアンロボット、エリスをターゲットと認識して襲い掛かってくる。
精巧に造られており、本物そっくりに動いて攻撃を繰り出す。
本物そっくりに造らても本物との驚異は比べるまでも無い。本物とは違いエイリアンロボットは命は奪うことはではしない。
エリスは本物の昆虫型エイリアンと戦い勝利を収めている。
と言ってもただ倒すだけではダメ、実地訓練時の経験を活かしみんなのお手本になるような戦い方をしなくてはならなくてはいけないのだ。そのためにローズモンドはエリスを指名されたのだから。
エイリアンロボットの攻撃を躱し、対エイリアンライフルの連射モードとランチャーモードを切り替えて攻撃。
事情を理解しているダイアナとケイシーも内心凄いと呟く。
対エイリアンライフルで急所を撃ち込まれ、倒れるエイリアンロボット。エリスは一息つく。
見学している生徒たちからは歓声と拍手が起こる。
言わずとも考えていることを悟ってくれたエリスにローズモンドは満足げに笑みを浮かべていた。
本当にエリスは良いお手本になった。次にエイリアンロボットとの模擬戦に臨んだケイシーも触発され好成績を出す。
ケイシーの後に模擬戦を行ったダイアナも負けてはいない。
他の生徒たちもエリスとダイアナとケイシーに触発され、好成績を出していく。
生徒たち見ているローズモンド、十分に満足したわけではない。彼女が一般望んでいるのは戦場へ行った教え子が無事に帰って来ること。甘い考えではあってもそれが本音。
軍学校、最後の一年の始まり。




