第十三章 借りは返す
競技祭の後日談。
競技祭の翌日の放課後、エリスはローズモンドに呼び出される。
やってきたのは体育館。
「待っていたぞ」
ローズモンドの服装は動きやすいもの、エリスも指示通りに動きやすい服装で来ている。
床に置いてあった一振りの金属製の模造剣をエリスは手に取る。見た目以上に重い。
「さぁ、始めるぞ、覚悟は出来ているか」
「はい」
頷いたエリスは重い模造剣を持ち上げ、構える。
さらに翌日の放課後にエリスは音楽室を訪れた。
「来ましたね」
誰もいないはずの時間の音楽室に音楽、地球で言えばクラッシックに似た音楽が流れている。椅子に座って教頭のボドワンが待っていた。
「本来なら教師である私が、このような特別授業をすることは倫理的に正しくない行動ですが……」
椅子から立ち上がる。
「彼の行ったことは、決して許されることではありません」
一歩間違えれば死んでいた。それも解っていて練習機に爆弾を仕掛けさせたのだろう。
「これは教師ではなく、同じエルフとしての償いです」
誇り高いエルフ。同じエルフがやった卑劣な行為を見過ごすことなど出来ない。
席に着くエリス。
「では始めます」
出来るだけ目立たないようにエリスはローズモンドの特訓とボドワンの特別授業を受け、自分自身を鍛えて磨いていく。
鍛えれば鍛えるほど、磨けば磨くほど成果が出る。
そしてやってきた2年生最後の試験。成果が試される、2年間学んできたことの。
試験自体は1年生の時と同じ筆記と実技だが、内容は比べ物にならない程に難しいものになっている。
前半に行われる筆記試験。下手をすれば脳みそが沸騰しそうな問題をエリスは解いていく。これまでやってきたことは無駄ではない、無駄にはさせない。
その気構えでエリスは筆記試験に挑む。
ダイアナとケイシーもエリスに触発され、自分を磨いてきた。難解な問題に負けるものかと解いていく。
後半に行われる実技は一対一の格闘戦。魔法の使用は可能、模造武器は銃器以外は使用が許可されている。
格闘戦に参加する生徒はプロテクターを着用。これでどんなに攻撃を受けても致命傷には至らない。
模造剣を片手にエリスは闘技場に入る。
「貴様が対戦相手とはな」
エリスの対戦相手は、どういうわけかフィリップ。
「死なない程度に手加減してやるよ、それが私の優しさだ。泣くほど感謝しろよ、ヒューマン」
エリスは黙って聞く、反論する必要は無い。実戦で示せばいいいこと。
そんなエリスをフィリップは反論できないでいると勘違い、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた。
闘技場に鳴り響くベル、それは格闘戦開始の合図。
「ノオ・モロエ・モロエ・ホー・オモロエ」
距離を取りながら呪文を唱え、火の魔法を放つ。
いくらプロテクターでも関節部分だけはカバーできない。火の魔法は右腕の関節部分を狙ってきた。
避けられることはフィリップの想定内、避けたタイミングを見計らい、もう一度の火の魔法を右腕の関節部に放つ。
避けた瞬間なら、体制を立て直せず火の魔法は直撃するはず。
だがエリスは避けようともせず、真っすぐ火の魔法に向かう。
「えっ?」
予想外の行動に動揺を見せるフィリップの目の前で模造剣で火の魔法を叩き切る。
フィリップの性格からプロテクターの覆われていない関節部分を狙ってくるのは百も承知。むしろ意図的に狙わせたといってもいい。
どこへ攻撃が来るか解っていれば対処も容易い。
叩き切った直後、一気に間合いを詰め、驚いて動きの遅れたフィリップを連続攻撃。
容赦の必要なし、徹底的に模造剣で打ちのめす。
「うがぁっ」
いくらプロテクターを着けていても衝撃は通る、そのように打った。
意識を失い倒れるフィリップ。
『それまで、勝者エリス・リーン』
エリスの勝利を告げるアナウンス。
ロボットが担架に乗せられたフィリップを運んでいく。
「やったなエリス、すっきりしたぜ!」
エリス以上に喜んでいるケイシー。
「エリス」
ケイシーのようにはしゃいでいないが、ダイアナの気持ちは十分に伝わってきた。
2人の気持ちを受けたエリスは照れくさくなる。
競技祭の翌日からこののための特訓もしてきた、この日のために。
放課後、ローズモンド先生に受けた対魔法戦闘の特訓。かなり重量のある模造剣を使うことで自分を鍛え上げた。
『これで少しは、競技祭の借りは返せたかな』
心の中で呟く。エリスだって聖人君主ではない、競技祭でやられたことに腹立たしい思いを抱いていた。
実技だけではなく、筆記試験でも勝つためにボドワン教頭の放課後の特別授業を頑張った甲斐がある。音楽室だったのはボドワン教頭の嗜好。
発表された2年生最後の試験結果。
カード型スマホを片手に絶句&硬直状態になったフィリップ。取り巻きたちも呆然状態。
実技だけではない、筆記試験もエリスがトップ。
これまでは実技では負けても筆記試験では僅差とは言えどもフィリップは勝っていたのに、2年生最後の試験では両方で負けた。
硬直状態の解けたフィリップは目を血走らせ、今にもエリスに掴みかかりそうとする。
「凄いね、エリス。一番なんて」
「本当に感心するぜ、流石は俺の親友」
さり気なくダイアナとケイシーが間に入ってきた。こんなところがありがたい。
何か文句を言いたそうにフィリップはしているが、漲る怒りと悔しさが思考を邪魔をして口から言葉が飛び出さない。
エリスとダイアナとケイシーの視線に耐えきれなくなったフィリップと取り巻きたちは何処かへ行ってしまう。
やっとエリスは留飲を下げることができた。
ちゃんと競技祭の借りは返しました。




