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ぼくと、奴。

作者: ろ~ぐ

 気が幾分か、楽になる事を願ってこの日記もどきを綴らせてもらおう。


できれば、博識な人間に伝わることを…………。


くだらないことだと言われれば、きっとそうなのだろう。


僕の頭の中には、いつだって奴がいる。


いつだって、僕の頭の中でやかましく金切り声を上げるのだ。


 ブロン錠をいくら食べるように飲んだって、カフェインを摂ろうとも奴からは逃れられない。


僕が日常生活を送るにあたって、奴の目障りな姿はいつでも視界に入るし、聞きたくも無い言葉を容赦なく送ってくるのだ。


どこへ向かおうとついてくる。


しかも、兄弟や家族に話しても返ってくる答えはいつだってこうだ。


「そんな奴はみたことない」の一言。


 友人たちに伝えても、鼻で笑うか、映画の見過ぎだという。


最初の内は、友人たちの余計な伝達能力がはたらいてか――ただの学校の笑い話として広がって行った。


やがて、笑い話にすらならないようになったのだが。


その話が、僕の存在感を腫物のようなものだと認識させるものになったのだろう。


 帰りに食べる、好物だったクレープの甘味も、奴の存在を忘れさせてはくれない。


アイスクリーム、チョコレート、ピザ、ハンバーガー、オムライス。


寿司に焼き肉。


美味しいもの、大好きなものをほおばっていてもついてくるんだ、彼奴は。


 幻覚だと疑って、病院にも通い詰めてみたが、無駄な抵抗だったようだ。


無駄だと物語るのは、今も見え、感じている奴の存在。


既に処方箋はもらっているが、飲んでも飲んでも気持ちは楽になってもあいつはけらけらと笑ってこちらを見つめる。


 誰か信じてくれ、僕は正気なんだ。


奴は、僕にしか見えていない。


だと言わなければ、絶望的な現実に説明がつかない。


どう理屈を捻っても、常識の範疇で考察しても筆舌に尽くしがたい事象ばかり起きる。


起こしているのは、奴だ。


 今も見えている奴の外見は、この世のものとは到底思えないし思いたくも無い。


人間にしては、手の皮膚は剥げているし血管が浮き出ていて、目玉は血走っていてでたらめな位置に、腫れもののように点在している。


では、妖怪図鑑だとか映画に出てくるような化け物かというと、既存の怪物全部の醜い部分を煮詰めて腐敗させたが如き見た目をしているともいえるし、その全部と異なっているともいえる。


赤い外套を纏って、黒い肌の上に赤黒い、まだら模様に指紋のような紋様が――人間で言うところの顔にあるのだ。


何をするでもなく、ただ僕を見つめて、僕を追跡する。


 眠っていても、逃げ場はない。


奴は、いかに楽しい夢を見ていようと音も無く僕の背後をとって、その醜い姿を露わにするのだ。


眠っている間に見ているものが暗闇でも、それは容赦なく脳裏に焼き付いてくる。


 奴の姿を生まれた時から見続けて、もう十数年になるが、いっこうに奴の姿は慣れない。


それほど、奴はあらゆる空間という空間に浮いている存在なのだ。


もう、嫌だと泣きついても涙は奴の存在を流してはくれない。


 姿が見えているだけ、事実何もしないだけならよかったのだが、奴が突然叫びだしたときなど身が裂けるような思いだった。


叫ぶときに開かれる、何もない暗闇を見た時は殺してくれとせがみたくなるほど、不安に駆られるもの。


 なぁ、何がしたいんだお前は。


どうして、お前は僕を追い詰めるんだ。


理解不能な行動の全部に、意味があるのか?


 いっそのこと、この細い首を断ってやろうとすれば、お前は絶対にまたあの暗闇を見せる。


目覚めても、眠ってもお前がいる。


 何も嫌いなものが無い僕に嫌悪と、拒絶感を覚えるのはお前だけだよ。


なぁ、僕に何を望んでる? 破滅か? あるいは破滅すら許さぬ、恐ろしい結末を――その暗闇を宿した口許が愉悦に歪むようなものが見たいのか?


 更に、僕が狂いそうになる、この自由帳にしたためておくべき事実がある。


奴は、鏡に映るのだ。


それだけじゃあない。


水面で、手鏡の正面に、カメラで撮った僕の写真に、顔を洗う時でさえ濡れた僕の肌の代わりに奴の姿がある。


 これからも、きっと奴はついてくる。


どこにでも奴は、やってくる。


まるで、僕自身のように。


さも、それは“僕”だと言わんばかりに。

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