踊り狂う炎1
渋谷駅から20分程度歩いたところに『金さえ払えばどんなことでもやってくれる所』があると聞き、かれこれ5分、そのドアの前で落ち着かない女が1人いた。彼女の名前は火野カナミ。都内の体育大学に通う21歳だ。ドアは木でできているようで、中は見えない。いざこういった怪しい所へ入るとなると勇気がいるものだ。
「何やってんの?」
とうとう中から人が出てきてしまった。。。
中に通されたカナミは事務所のような所を通り過ぎ、小さな部屋へ案内された。部屋にあるソファに座り、案内してくれた男をよく観察してみる。男は体格がよく、身長は180cm後半といったところか。両脇を刈り込んだ髪型とデニムにTシャツという服装も相まって、格闘家のような風貌だ。男は何やらソワソワした様子でこちらわ見ることはあまり無かった。
「すみません、えっと…」
若干混乱しつつ話を切り出そうとすると
「ああ、ちょっと待ってね、そろそろ――」
と男が言っているのを遮るように別の男が入ってきて、カナミの正面のソファに座ると少しぶっきらぼうに名乗った。
「お待たせしました。『no name』の代表の紙谷と申します。あちらは鷲沢と申します。」
紙谷と名乗った男は、鷲沢と呼ばれた男とは対照的にスーツを着こなしている。身長は鷲沢よりすこし低いぐらいだろうか。
「あっ、私、火野カナミといいます!今日はお調べして欲しいことがあって!」
しどろもどろになりながら、依頼内容を纏めた資料を紙谷に渡した。
簡単にまとめるとこうだ。カナミには中学校からずっと一緒にいるエリカという友人がいた。ところが、ここ1週間ほど学校にも来ていなければカナミの連絡にも返事がない。そこでここを頼ったとの事だ。
「ふーん…」
紙谷は少し迷った後に
「別に探すのはいいけど、お金は持ってるの?」
と尋ねてきた。
「貯めてた分があるので15万円までなら出せます!」
「うーん、ウチは後から金額設定するから金額はまだわかんないけど、そんぐらいならやってもいいよ。」
良かった。正直、怪しい所だからまだ信用しきった訳では無いが、受けてくれるようなので安心した。
「でもさあ、こういうのって警察とかに頼んだほうが早くない?」
この質問は至極真っ当な意見だ。だが…
「実は、エリカの付き合ってた男が『能力者』だったって聞いてたんで…」
「なるほどね。あんまり大事にしたくないのは分かった。」
少しの沈黙の後、紙谷が口を開いた。
「じゃあ基本的なこと教えて。最後にいつ見たとかどこにいるかの心当たりとか。」
「そうですね…最後に会ったのは1週間半前のお昼頃にその彼といるのを見ました。心当たりの場所はもう全部行きました。」
「その彼氏ってのが怪しいな…」
今までずっと黙っていた鷲谷が急に喋ったので少し驚いた。
「他には?」
紙谷が急かすように聞いてくる。
「私もその彼が何か関係してると思って。他に何も心当たりが無いんで。」
「なるほどねえ、んじゃ、その線で調べてみるから2日後にまた来てよ。あ、そのエリカってヤツの住所とか電話番号とか教えてね。」
「え?」
エリカの個人情報はもとから聞かれるだろうとは思っていたが、こんなにも短い会話で簡単に物事を判断して良いものなのだろうか。少し戸惑ったが、紙谷の言いぶりは有無を言わせない何かを感じさせた。