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4話【龍の相棒】

真奈の思った通り、先程龍神が恐魔との戦いて使用していたのはやはり魔法であった。そして龍神が魔法が使える理由については、彼自身の所有するスマートフォンに起因する、ということだ。


「やっぱりさっきの魔法、【マジックフォン】を使ってたんですね。」


「そう。魔法のスマホ、マジックフォンだ。まぁお前も知っての通り、魔法のスマホといっても普通のスマホに魔法のアプリをインストールした、ってだけの話だがな。」


龍神の説明通り、マジックフォンとは名前の如く魔法のスマートフォンである。もっともスマホ本体は特別なものというわけではなく、ごく一般的に市販されているものだ。そのスマホに特殊な方法を用いて魔法のアプリケーションをインストールすることで、初めて魔法が使えるようになる、という原理である。


だがこれで、何故自分が魔女であるということがバレてしまったのか真奈には合点がいった。


「先輩もマジックフォンの事知ってるって事は、屋上で私がマジックフォンを使ってたから魔女だってわかったんですよね?」


まぁ普通に考えれば当たり前の事なのだが、龍神からは意外な答えが返ってきた。


「いや?俺は初めて会った時からお前は魔女だろうと思ってたけどな。」


「えっ、どうしてですか?」


てっきり屋上で魔法を使ったことで正体がバレたのだと思っていたが、初めて会った時となると真奈には自分が魔女だとバレてしまうような心当たりがない。龍神と初めて会った時に起きたことと言えば、友人の千景が彼にぶつかってしまい、それを2人で謝罪したぐらいだ。


自分が魔女であるとバレた理由が全くと言っていいほどわからない彼女に、龍神は種明かしをする。


「お前、あの時の俺の通話相手の声が聞こえてただろ?何となくだけど、そんな様子だったからな。」


「えっと、でも離れていたので内容は断片的にしか聞こえませんでしたが。」


確かに通話相手の声は何となく聞こえてはいたが、何の事について話しているのかまではよくわからなかった。そんな真奈に対し、“彼ら”から驚くべき事実が告げられる。


「会話の内容じゃない。重要なのは、“声が聞こえた”って事だ。」


『ボクの声は、基本的に魔女にしか聞こえないからね。』


「えっ!?」


龍神のスマホからいきなり聞こえてきた声に、真奈は思わずビックリしてしまった。だが、この声には確実に聞き覚えがある。昨日初めて会った時や、先程恐魔と戦っている間にスマホから聞こえていた声だ。


「あの、魔女にしか聞こえないってどういう事ですか?」


真奈は龍神に質問したのか、それとも龍神の持っているスマホから聞こえてくる声の主に質問したのか自分でもよくわからなかった。もっとも、その質問には2人が答える事となるのだが。


『ボクは人間じゃないんだよ。魔女によって作られた魔法生物だから、普通の人間にはボクの声は聞こえないんだ。』


「こいつの声が聞こえてたみたいだったから、お前が魔女だってわかったんだよ。」


2人の言う事が本当ならば、初対面の時点で自分が魔女だとバレてしまったのも真奈には納得がいった。


ただ、そんな事よりも彼女には先程から大いに気になっていることが1つあった。


「えーっと、魔法生物、さん?」


『ん?ボクのこと?』


スマホに話しかけるのも妙な感じがしたが、向こうからはちゃんとした返事が返ってくる。


「あなたは先輩と通話しているわけじゃなく、実はスマホの中にいる、ってことでいいんですか?」


「あぁ、そういや説明してなかったな。」


『だね。』


龍神は何やら納得したような様子で、スマホの画面を操作し始める。数秒ほどで彼が操作を止めると画面が光り出し、背後に大きな影が現れた。


「ひゃあ!ド、ドラゴン!?」


真奈の目の前に現れたのは、先程の恐魔以上に大きな身体をした緑色のドラゴンだった。驚く彼女に対し、ドラゴンは軽やかな口調で淡々と説明を始める。


『はじめましてお嬢さん、ボクの名前はアルタイス。アルって呼んでね。』


「俺の相棒だ。」


いかつい外見とは裏腹に、ドラゴンはかなり社交的なようだ。やや怯えた様子の真奈を見ながら、龍神が尋ねる。


「他に気になる事はあるか?」


真奈にとっては気になる事と言われれば気になる事だらけであるが、あまり質問をし過ぎるのも失礼だと思った。ただ、どうしても聞いておきたい事があと1つあったので、龍神へ最後の質問をする。


「先輩、男なんですよね?」


「見りゃわかんだろ。」


やや冷たい反応であったが、真奈にとっては今の質問はただの確認であった。本当に聞きたいのは、その事実に関する別の事である。


「どうして魔女じゃないのに、マジックフォンを使えるんですか?」


先程からずっと思っていた事を尋ねた。今日1日で質問をするのはこれで何度目になるのかわからないが、彼女にとってはそれだけわからない事が多過ぎるのだ。


「確かに俺は魔女じゃないが、全く無関係ってわけでもない。」


龍神から発せられたのは、屋上で質問した時と同じ答えだ。それに関して真奈は更に深く追求する。


「それ、確か屋上でも言ってましたよね。どういう意味なんですか?」


『龍神は確かに男だけど、龍神のママさんがキミと同じ魔女なんだよ。』


龍神が答える前に、後ろにいたアルタイスが先に口を開いた。それに対して龍神は不服そうな声を上げる。


「なんで一番重要な所、お前が言うんだよ。」


『細かいことは気にしないで。』


まるで兄弟や友人同士のようなやり取りを繰り広げている。まだ色々と不鮮明な部分はあるが、とりあえず重要な事はおおよそ理解できた真奈が龍神に確認する。


「つまり先輩は魔女ではないけど、魔女の子孫ではあるってことですか?」


「ま、端的に言うとな。」


これで、なぜ龍神が魔女の事を知っていて、かつ魔法が使えるのかという理由がわかった。


だが、目の前にいる先輩がマジックフォンを使いこなせるという事実は、ある意味で真奈にとっての大きなチャンスであった。彼女は何かを決意したかのように、改めて龍神に話を切り出す。


「それであの、月華先輩…。」


「ん、まだ何か質問あんのか?」


「えっとですね、質問というか…先輩にお願いが…。」


真奈は少し恥ずかしそうな様子で言う。龍神はそんな彼女の様子を不思議そうに見ながら答えた。


「どんな?」


「実は…あ!」


しかし彼女が話をしようとした瞬間、突然龍神の斜め後ろから虫の羽音のような雑音が聞こえてきた。どうやら彼の後ろにいたアルタイスもその音と気配に気付いたようで、後ろを振り返る。


「先輩、危ない!」


虫型の恐魔が高速でこちらへと突っ込んで来ていた。真奈は咄嗟に龍神を庇うように前に出る。


と、そこまでは良かったのだが、あまりにも急な出来事だったためかバランスを崩してしまい、そのまま前のめりに倒れてしまった。


「アル!」『合点!』


一方で龍神とアルタイスは息の合ったコンビネーションを見せる。龍神が叫ぶのとほぼ同時に、勢いよく飛んできた虫型の恐魔をアルタイスは右手…もとい右前脚ではたき落とし、そのまま踏み潰した。


『なんだ…ザコだよ、龍神。』


あまりにも手応えが無かったのか、拍子抜けしたようにアルタイスが言う。そのまま右前脚を自分の口元まで持っていくと、息をふっと吹きかけて砂埃を落とした。


だが一方で、先程バランスを崩して倒れたままの真奈が起き上がる気配を見せない。


「おい、大丈夫か?」


心配した様子で龍神が声をかけると、彼女は泣きそうな声で小さく答えた。


「ごめんなさい、先輩。足…くじいちゃいました…。」


真奈は己の鈍臭さを恨んだ。龍神を守ろうとしたつもりが、バランスを崩して足を挫いてしまったなど、情けないにも程がある。


そんな様子の彼女を見て、龍神が1つの提案をした。


「ハァ…治療の魔法が使える魔女を知ってるから、そこまで連れてってやるよ。」


「え、いいんですか?」


真奈は地面に蹲ったまま、驚くように言う。足を挫いたのは完全に自分の責任なのに、わざわざ治療までしてくれると言うのだから驚くのも無理はないが。


「よし、じゃあさっさと飛ばして行くか。」


『うん、わかった。』


龍神とアルタイスは、2人にしかわからないような内容の会話を交わす。アルタイスが姿勢を低くすると、大胆にも龍神は動けない真奈の身体をひょいと抱え上げた。


「えっ!?ちょっと、先輩!?」


恥ずかしそうに慌てふためく真奈だったが、龍神は気にも留めずそのまま彼女をアルタイスの背に乗せる。続けて龍神自身も真奈の少し前の位置になるようにアルタイスの背に乗った。


翼を持ったドラゴンの背中に乗るなど、最早次の行動は1つしか思い浮かばない。


「まさか、飛んで行くんですか!?」


「この状況下でそれ以外に何があるってんだ。」


慣れた様子で準備をする龍神に対し、真奈は不安を隠せない様子だった。何しろ真奈は、ドラゴンどころか馬にだって乗ったことがないのだ。それだけでなく、彼女には1つ心配な事があった。


「空を飛んだりしたら絶対に目立ちますよね!?」


確かに、高さにもよるが空を飛んだりしたら絶対に目立つだろう。少なくとも魔法生物であるアルタイスは一般人の目には見えないのだろうが、逆に言えば龍神と真奈が不自然に宙に浮いた状態で見えてしまうということだ。


「その点に関しては心配ない。」


そんな真奈の心配をよそに、龍神はスマホを取り出す。


『アプリケーション起動。使用する項目を選んで下さい。』


「ステルスウェア。」


龍神が魔法を唱えると、スマホの画面が光り出す。しかし真奈の目からは、特に何も変わっていないようにしか見えない。もっとも、その疑問点に関しては龍神の言葉ですぐに解決することになるのだが。


「これで大丈夫だ。今、俺たちは周りから“見えない”状態になってる。」


「透明になってるってことですか?」


「ま、似たようなもんだ。」


とりあえず人目を惹くという問題は解決したが、飛ぶことに対する恐怖心という根本的な問題は解決しないままである。しかしそんな彼女の心情など察することなく、このコンビは変わらぬ様子で話を進める。


「よし。いいぞ、アル。」


『オッケー。』


アルタイスは軽く返事をすると、両翼を羽ばたかせ始めた。それに伴ってゆっくりとアルタイスの身体が上昇し、2メートル、3メートルと地面から離れていく。


「少し揺れるぞ、しっかり掴まってろよ。」


揺れる、という龍神の言葉に、真奈はより一層不安が増した。というより、先程からもう既に結構揺れているのだ。真奈は龍神の腰に手を回し、思いっきり力を込める。


「せ、先輩…これ、落ちたりしませんよね?」


「だから落ちないように、しっかり掴まってろってさっきから言ってんだろうが。手ェ離すと多分落ちるぞ。」


「嘘ですよね!?」


『じゃあ、飛ばして行くよ!』


高らかに宣言し、アルタイスは少し肌寒い4月の夜空を一気に駆け抜けていく。それに伴って真奈は慣性の法則に従い、後ろに引っ張られるような感覚を覚えた。とにかく今の彼女にできることと言えば、落ちないようにと願いながら必死に龍神にしがみつくことだけである。


真奈にとっての、恐怖のフライトが幕を開けたのだった。

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